皆さんは「男性更年期障害」という言葉を聞いたことはありますか?更年期障害という言葉を聞くと、一般的には女性をイメージする方が多いかもしれません。しかし、実は男性にも更年期障害があることをご存じでしょうか?今回のコラムでは、男性更年期障害の症状や原因、そして薬物治療について解説します。
男性更年期障害の原因と症状
男性更年期障害(LOH症候群、ロー症候群)は、40代以降に見られるテストステロンの減少が主な原因の症状です。疲労感や性欲の低下だけでなく、気分の落ち込みやイライラといった精神的な影響も引き起こします。女性と異なり男性のホルモンの変化は緩やかですが、人によっては更年期症状が健康や日常生活に少なからず影響を与えます。
男性更年期障害の主な原因は、男性ホルモンであるテストステロンの減少です。テストステロンは、筋力の維持や骨密度の保持、性欲、さらには気分の安定にも深く関与する重要なホルモンです。このホルモンが加齢によって徐々に低下すると、さまざまな身体的・精神的な変化が現れます。
さらに、不規則な生活習慣や職場のストレス、睡眠不足、過度なアルコール摂取、喫煙といった要因がホルモンバランスを悪化させる場合があります。特に現代社会では、ストレスや運動不足が原因となっているケースが多いと指摘されています。
男性更年期障害は全ての男性に症状が現れるわけではありません。また、症状の強さや種類は個人差が大きく、これが診断や治療を複雑にする要因の一つです。
男性更年期障害の症状は以下のように分類できます:
①身体的な症状
- 疲労感、筋力低下、多汗、頻尿
- 体重や体脂肪の増加
- 骨粗鬆症リスクの増加
②精神的な症状
- イライラ、不安感、集中力の低下、気分の落ち込み
- 睡眠障害や不眠症
③性機能に関する症状
- 性欲の低下、勃起不全(ED)
これらの症状はテストステロンの減少による変化が原因であり、適切な治療と生活習慣の改善が大切です。
男性更年期障害の自己診断スケール:AMS
AMS(Aging Males’ Symptoms)スコアは、男性更年期障害の症状を評価するための自己診断スケールです。身体的、精神的、性機能に関する17項目の質問から構成され、各項目を1(症状なし)から5(非常に重い)までの5段階で評価し、総得点が高いほど症状が重いと判断されます。AMSスコアを通じて更年期障害の症状が自身に当てはまるか把握することができますが、もし症状がみられる場合は専門家の診断と相談を受けることが重要です。
男性更年期障害の診断は主に問診と血液検査により行われます。
問診
症状の内容や持続期間、日常生活への影響を医師が詳しく聞き取ります。特に、性機能や精神的な不調についても率直に話すことが重要です。
血液検査
テストステロン値を測定します。一般的には遊離型テストステロン値が8.5pg/mL未満の場合は、男性更年期障害の可能性があるとされます。
他疾患の除外
甲状腺機能障害、糖尿病、うつ病など、似た症状を持つ他の疾患が原因である可能性を排除するため、必要に応じて追加検査が行われます。
男性更年期障害に使用される主な薬物療法
男性更年期障害の治療にはテストステロン補充療法を中心に、症状や体調に合わせて医師が最適な治療法を選択します。
テストステロン補充療法(TRT)
テストステロン補充療法(TRT)は、加齢によるテストステロンの低下が引き起こすさまざまな身体的・精神的な症状を改善するために、テストステロンを外部から補充する治療法です。TRTには、注射、ジェル、パッチなどの方法があり、治療を通じて性欲の回復や筋力の増加、気分の安定などが期待できます。
漢方薬
漢方薬は、男性更年期障害の症状に対して補助的な役割を果たすことがあります。漢方薬は証(体質)に合ったものを服用することで、その漢方薬の効果を十分に発揮できるため、購入時は医師や薬剤師など専門家に相談することをおすすめいたします。
- 桂枝茯苓丸:
血流を改善し、体内のエネルギーを活性化させる効果が期待されます。特に精神的な疲れやイライラ、肩こりなどに効果があるとされています。
- 八味地黄丸:
腎機能を強化し、ホルモンバランスを整えるとされる漢方薬です。テストステロンの減少によるエネルギーの低下や精力減退に対処することができます。
- 補中益気湯:
体力や気力を補う作用があり、精神的な疲労感や倦怠感に効果的とされています。
対症療法
男性更年期障害においては、症状を軽減するための対症療法も重要な治療法の一つです。
- 抗うつ薬:
気分の落ち込みやイライラ、不安感が強い場合にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの薬が使用されることがあります。 - ED治療薬:
性欲の低下や勃起不全(ED)が主な症状である場合、バイアグラやシアリスなどの薬剤が処方されることがあります。 - 睡眠薬:
睡眠障害や不眠症が現れる場合、短期間の使用として睡眠薬が処方されることもあります。
テストステロン補充療法とは
テストステロンは男性の体にとって重要なホルモンであり、筋肉の維持や骨密度の保持、性欲の維持に深く関わっています。加齢とともにテストステロンが低下すると、これらの機能に支障をきたし、男性更年期障害の症状が現れます。テストステロン補充療法は、このテストステロンの低下を補うことで、症状を改善し、生活の質を向上させることを目的としています。
テストステロン補充療法の方法として、エナルモンデポー(エナント酸テストステロン)という男性ホルモン剤の注射薬を2~3週間に1度のペースで投与するのが一般的ですが、他にも皮膚に塗布するテストステロンのクリームを使う場合もあります。注射を選択した場合の治療期間は1年間が目安ですが、症状は人によって異なるため治療期間や痛みなどについて不安がある方は事前に医師に相談しておくと安心です。
また現在日本では飲み薬については未承認ですが、海外ではすでに承認されているため個人輸入は可能な状態です。ただし粗悪品が紛れている可能性や、個人輸入品については何かあった場合に補償対象外となるため、医師の処方の下で承認されている薬を使用することが推奨されます。
テストステロン補充療法によって精神的な症状や性機能の改善、骨折リスクの低下など、更年期症状が落ち着くことが見込まれることに加え、日常生活の疲労感が軽減されるなど毎日を元気に過ごしやすくなることが期待できます。一方で長期的な治療が必要になることやテストステロンの体内レベルが増加することによる前立腺肥大・前立腺がんのリスク、にきびや乳房の腫れなどの副作用などのデメリットなどの報告もあります。このことから、前立腺がんや男性乳がん、多血症、睡眠時無呼吸症候群などがある場合テストステロン補充療法が実施できない場合があります。
テストステロン補充療法は、適切に行われれば男性更年期障害の少女尾を大幅に改善できる可能性があります。ただ、必ずしもすべての人に適しているわけではなく、治療に際しては、一人ひとりの状態やリスクを考慮しながら慎重に進めることが重要です。
まとめ
男性更年期障害は多くの男性にとって避けられないものですが、適切な治療や生活習慣の改善によって改善が可能です。また、パートナーがいる場合、症状を共有し理解を深めることでお互いの関係をより良く保つことができます。気になる症状がある方は、一人で悩まず専門医に相談してみましょう。
[参考文献]
・日本内分泌学会「男性更年期障害」
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71
・あすか製薬「男性にも更年期障害がある?」
https://www.aska-pharma.co.jp/media_men/column/male-menopause/