【助産師監修】妊娠中の睡眠不足−その原因と対策−

妊娠すると多くの体調変化を感じますが、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝すっきり起きられない」といった睡眠不足に悩む妊婦さんも多いのではないでしょうか?妊娠中の睡眠不足は、体の変化やホルモンの影響だけでなく、精神的な要因や生活習慣も関係しています。本記事では、妊娠中の睡眠不足の原因とその対策について詳しく解説します。

妊娠期の睡眠の特徴

約85%の妊婦が夜中に何度も起きてしまう「中途覚醒」を経験するといわれているそうです。そのほかにもなかなか寝付けない「入眠障害」や早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」などの睡眠障害に悩むとされています。また、経産婦では上の子どもの育児で夜間に目覚めたり、睡眠時間が短くなっていることも多いです。

妊娠中の睡眠不足の原因

なぜ妊娠期には睡眠が妨げられてしまうのでしょうか。妊娠するとこれまでとは異なる体の変化が起こるため、睡眠の質が低下してしまいます。ここでは主な原因を紹介していきます。

① ホルモンバランスの変化

妊娠初期から分泌されるプロゲステロンというホルモンは、眠気を引き起こす一方で、浅い眠りを増やすこともあります。そのため、日中は眠くなるのに夜は熟睡できないという状態になりやすいのです。

② 頻尿による中途覚醒

妊娠すると、子宮が大きくなり膀胱を圧迫するため、トイレの回数が増えます。夜中に何度も目が覚めることで睡眠が途切れがちになります。

③ 胃の不快感やつわり

妊娠初期のつわりや、後期の胃の圧迫感・胸焼けによって、眠れなくなることがあります。特に、横になると胃酸が逆流しやすくなるため、胃もたれや胸焼けで目が覚めることも少なくありません。

④ 足のつり(こむら返り)

妊娠中は、カルシウムやマグネシウムの不足、血流の変化によって足がつりやすくなります。夜中に突然足がつり、痛みで目が覚めることもあります。

⑤ 赤ちゃんの胎動や寝る姿勢の不快感

妊娠後期になると、赤ちゃんの胎動が活発になり、特に夜間に頻繁に動くことで睡眠が妨げられることがあります。また、仰向けの姿勢では子宮が大きな血管を圧迫しやすく、息苦しさを感じることもあります。

⑥ ストレスや不安

「出産がうまくいくか心配」「赤ちゃんは元気に育っているだろうか」といった精神的な不安が増えることで、寝つきが悪くなることがあります。

妊娠週数別の睡眠不足の原因

妊娠週数ごとの身体の変化に伴って、睡眠に影響する原因が変わってきます。

妊娠の時期ホルモンの変化睡眠への影響主な症状
妊娠初期(0~15週)エストロゲン、プロゲステロンが一時的に低下し、その後増加ホルモン変化やつわり、不安・ストレスによって睡眠が妨げられることがある・つわりによる寝つきの悪さ
・頻尿による中途覚醒
・不安やストレスによる睡眠の質の低下
妊娠中期(16~27週)エストロゲンとプロゲステロンが安定する一時的に睡眠が安定するが、後半からお腹の成長や胎動の影響を受ける・眠りが安定する時期
・お腹が大きくなり始めると眠りが浅くなる
・胎動による中途覚醒
妊娠後期(28週~出産)ホルモン分泌がピークに達し、体の負担が増加体の変化による不快感が強まり、睡眠が妨げられる・足のむずむず感(むずむず脚症候群)
・こむらがえり(ふくらはぎの筋肉のけいれん)
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群
・夜中に何度も目が覚める

(参考文献: 健康づくりのための睡眠ガイド 2023)

妊娠中の睡眠不足による影響

妊娠中の睡眠不足は、母体だけでなく赤ちゃんの健康にも影響を与える可能性があります。

・体調不良や免疫力の低下:睡眠不足が続くと、疲れが取れにくくなり、免疫力が低下しやすくなります。

・ストレスの増加:睡眠が不十分だと、自律神経が乱れやすくなり、イライラや不安感が増すことがあります。

・妊娠高血圧症候群のリスク:睡眠時間が短い妊婦さんは、高血圧や妊娠糖尿病のリスクが上がることが指摘されています。 ・早産や低出生体重児のリスク:長期間の睡眠不足が続くと、赤ちゃんの発育にも影響する可能性があります。

妊娠中の睡眠不足を解消するための対策

妊娠すると疲れやすく、疲労回復にも時間がかかるようになってしまいます。そのため、質のいい睡眠をとることが望ましいです。妊娠中の睡眠の質を向上させるために、日常生活でできる対策を紹介します。

① 寝る前のリラックスタイムを作る

・寝る1時間前はリラックスする時間を持つ
・布団に入ったらスマホやパソコンの画面を見ない
・読書やストレッチなどを取り入れると効果的

② 睡眠環境を整える

・部屋の温度や湿度を調整する(18〜22℃、湿度50〜60%が理想)
・暗めの照明を使う(間接照明など)
・寝具を快適なものにする(妊婦用抱き枕を活用するのもおすすめ)

③ 横向きの姿勢で寝る(シムスの体位)

・左向きに寝る(シムスの体位)
血流が良くなり、体の負担軽減に。抱き枕を使うと、よりリラックスできます。

④ 足のつり対策をする

・寝る前にストレッチをする
・ビタミンBやマグネシウム、カルシウムを多く含む食品(小魚、ナッツ、乳製品)を摂取する

⑤ トイレの回数を減らす工夫をする

・寝る2時間前から水分を控えめにする
・カフェインの摂取を避ける(カフェインは利尿作用があるため)

⑥ 生活習慣を整える

・毎朝起きる時間を一定にする
・朝食を食べる
・眠くなってから布団に入る

⑦ 軽い運動を取り入れる

・日中に軽いウォーキングやストレッチをおこなう。(無理は禁物)

⑧ ストレスをためない工夫をする

・パートナーや家族に不安を相談する
・アロマ(妊婦でも使えるラベンダーなどを活用する
・深呼吸やヨガでリラックスする

妊娠中の睡眠不足が続く場合の対処法

生活習慣を改善しても睡眠不足が解消されない場合は、かかりつけの産婦人科に相談しましょう。特に以下のような症状がある場合は、専門家のアドバイスを受けることが大切です。

・日中も極度の眠気を感じる
・強い不安感やうつ症状がある
・高血圧やむくみがひどくなってきた
・足のむずむずがひどくて眠れない
・大きないびき、息苦しさを感じる

産婦人科では、妊娠中でも安全に使える漢方薬の処方や、生活習慣のアドバイスを受けることができます。

まとめ

妊娠中の睡眠不足は、多くの妊婦さんが経験するものです。しかし、原因を理解し、適切な対策を行うことで、質の良い睡眠を確保することができるかもしれません。睡眠の質を向上させることで、妊娠生活をより快適に過ごし、赤ちゃんの健康を守ることにつながります。無理をせず、できることから取り入れてみてくださいね。

[参考文献]
[参考文献]
・助産学講座6助産診断・技術学(1)妊娠期第5版.医学書院.2015
・母性看護学各論母性看護学②.医学書院.2014
・厚生労働省. 妊娠と睡眠に関するガイドライン. 2023
 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf (参照 2025-03-13)
・日本精神神経学会. 妊娠と睡眠に関するQ&A. 2025.
 https://www.jspn.or.jp/guide/faq/05.php (参照 2025-03-13)
・夜泣き予防プロジェクトママと赤ちゃんが 夜よく眠れるように(東京医科歯科大学教授監修資料)  
 https://www.jpm1960.org/pdf/kosodate_pdf2.pdf

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