お薬についてのお問合せで特に多いのが、「妊娠中の薬の使用について」です。
妊娠が分かると出産への期待が高まる一方で、おなかの赤ちゃんが健康に育ってくれるかどうか心配になりますよね。
多くのお薬は妊娠中に使用しても問題ないといわれていますが、なかには赤ちゃんにとって影響があるお薬もあります。
また、妊娠期間によっても赤ちゃんへのお薬の影響は異なりますので、妊娠中のお薬の使用については基本的には慎重になる必要があります。
妊娠期間とお薬の影響
妊娠超初期(受精~妊娠1か月)
妊娠超初期の赤ちゃんへのお薬の影響は、出ない場合と出る場合があります。お薬の影響が出ない場合はそのまま妊娠が継続しますが、影響が出る場合は残念ながら受精卵は着床できずに流産となります。多くの妊娠検査薬は「生理予定日から1週間後を目安に使用すること」となっているため、この期間は妊娠に気づかずにお薬を使用していることも多いです。したがって妊娠を希望している場合は、妊娠が成立する前からお薬の使用に注意をしておきましょう。
妊娠4週~16週前後
この期間のうち妊娠4週~7週は「絶対過敏期」と呼ばれ、赤ちゃんの神経や心臓、手足などの重要な器官が作られる特に大切な時期で、お薬の影響によって奇形を生じる可能性が高い時期です。
また妊娠8週以降は「相対過敏期」と呼ばれ、重要な器官の形成は終了しているため、赤ちゃんへのお薬の影響は徐々に低下していきます。しかしながら性器や上あごなど一部の器官の分化などがまだ行われている期間であり、引き続きお薬の使用に慎重になるべき期間であるといえます。
この期間に抗てんかん薬の「バルプロ酸ナトリウム」や抗リウマチ薬の「メトトレキサート」、を内服すると奇形の可能性が上がることが分かっており、妊娠前には赤ちゃんの奇形を予防するために一定期間の避妊が必要なお薬もありますので医師の指導に従いましょう。
また、サプリメントの「ビタミンA」についても妊娠前3カ月~妊娠初期に大量摂取することで赤ちゃんの神経に奇形が生じる可能性があるという報告がありますので、市販のビタミン剤についてもビタミンAを含むものについては注意が必要です。
妊娠17週以降
この期間は「潜在過敏期」と呼ばれ、すでに器官の形成は終了しているため、基本的にお薬による赤ちゃんの奇形の心配はないといわれています。
しかしながら妊娠15週頃に胎盤が完成することによって、妊娠17週以降のこの時期はママが摂取したお薬の成分が胎盤を通して赤ちゃんに移行し、赤ちゃんの体内でお薬が作用することが問題となる可能性があります。多くのお薬は赤ちゃんの体内に移行しても大きな問題はありませんが、一部のお薬は赤ちゃんの発育を阻害することや体の機能に影響を与えることが分かっています。また、この赤ちゃんへの胎盤を通しての影響は、出産に近ければ近いほど大きくなるといわれています。
この期間の使用が問題となるのは、血圧を下げるために内服する降圧薬の「ACE阻害薬」「ARB」や、解熱鎮痛薬「NSAIDs(非ステロイド性解熱鎮痛薬)」などです。
「ACE阻害薬」「ARB」は胎盤を通して赤ちゃんに伝わることで、お薬の成分によって赤ちゃんの腎臓がダメージを受けます。したがって妊娠を希望した時点で計画的に妊娠をし、もし妊娠が分かったときにそれらの薬を内服していた場合はなるべく早く他のお薬に変更できないか主治医に相談しましょう。
また「NSAIDs」の代表例はロキソニンやボルタレンですが、これらの薬を妊娠後期に大量に使用すると、羊水の中で赤ちゃんが呼吸をするために必要な動脈管を閉塞することや、羊水の量を極端に減らしてしまう可能性があるため、「NSAIDs」に関しては飲み薬だけでなく湿布薬なども使用が禁止とされています。妊娠中は「アセトアミノフェン」という成分の解熱鎮痛薬であれば比較的安全に使用できますので、もし痛み止めが必要であればそちらを選択されてくださいね。
また、向精神薬や抗不安薬などを出産直前までママが内服していると、胎盤を通して赤ちゃんの体内に来ていたお薬の成分が、出産によって急に断たれることによる「新生児薬物離脱症候群」ということが起こり、激しく泣く様子やひどい場合は痙攣する様子などが見られることがありますが、これらの症状は多くの場合一過性のもので、お薬の成分が赤ちゃんから排泄されればおさまるといわれています。
持病でお薬を使用している場合
てんかんや糖尿病などの持病でお薬を使用している人は、もし将来妊娠希望があるのであれば、妊娠や授乳時の服薬について主治医の先生としっかり話し合ったうえで計画妊娠をすることが大切です。
たしかにお薬の中には、すべてではありませんが、赤ちゃんに奇形などの影響を及ぼすものもあります。しかしながら、もし赤ちゃんへの影響が心配だからと言って、自己判断でのお薬の減量や中止をしてしまうと、かえってご自身の体調や赤ちゃんにとって悪い影響を及ぼす可能性があります。
持病がある場合、妊娠中も必要があればお薬の使用を継続する可能性がありますが、一番大切なのは、ママの体調を安定させながら妊娠を継続させることです。
ご自分が納得いくまで主治医の先生としっかり話すためにも、妊娠を考え始めたらなるべく早めに相談するようにしましょう。
また妊娠中全期間を通して、赤ちゃんの奇形の可能性や流早産の可能性が高まるとして「ワルファリン」の内服は控えることとされています。
まとめ
妊娠中に使用するすべての薬が赤ちゃんに影響を与えるわけではありません。
しかしながら妊娠中は赤ちゃんの奇形を生じることや、胎盤を通して薬の成分が赤ちゃんに伝わる可能性が高く、薬の使用に慎重になるべき期間です。
また、持病で薬を使用している場合は自己判断での勝手な薬の減量や中止によって起こるママの体調悪化が、赤ちゃんの発育に影響を与える可能性もあります。
もちろん妊娠中に風邪などの体調不良になり薬の使用が必要なこともあるかと思います。
妊娠中に薬を使用する場合は、主治医の先生や専門家に相談の上、納得のいく説明を受けてから使用してくださいね。
参考文献
Microsoft Word - H24.11.05修正反映 (pref.aichi.jp)
妊娠・授乳とくすり ‹ くすり知恵袋 | くすりの適正使用協議会 (rad-ar.or.jp)