はじめに
2024年が明けました。まずは揺れの大きかった地域のみなさま、被害にあわれたみなさまに心からお見舞い申し上げるとともに、1日でも早い復興をお祈りします。
テレビやSNSをみると、震災の報道や情報があふれています。今の状況について知りたい、被災者の方々の状況に心を寄せたいと積極的に情報を得ることはとても大切です。ただ、当事者の方はもちろん、震災を直接経験していない人でも災害の情報を見続けていると、自分の安心や安全も守られないかもしれないと不安な気持ちが大きくなるのは自然なことです。大人ですらそうなのですから、子どもたちはより漠然とした不安を感じているでしょう。またその不安をどうすればいいかわからず、苦しさを感じている子もいるでしょう。そんなふうに考えると、とても胸が痛くなります。
このコラムでは震災の報道を聞いた子どもたちのために、まわりの大人ができる関わり方について心理士の目線でお伝えしたいと思います。
震災報道を聞いたあとに見られる心身の反応
大きな災害やその報道は、直接または間接的に個人の生命や安全が脅かされることを目の当たりにさせられます。それが深い喪失感や自己効力感のなさをもたらすことも多く、その結果、PTSD(心的外傷後ストレス症)、抑うつ状態、不安症などの精神状態につながることも少なくありません。
また「時間が解決してくれる」と思う方もおられるかもしれませんが、トラウマ体験は時間の経過だけではよくならないこともあります。トラウマが重症化する要因の1つには、「周囲から支援を受けていないという実感」も含まれるという研究結果もあります。つまり、「大人が寄り添ってくれている・自分に対して何かしようとしてくれている」と子どもたちが実感できることが、子どもたちの安心・安全を生む第一歩になると考えられます。
子どものSOSに早く気付くために
子どもたちは「なんだか心がざわざわする・・・」というような漠然としたSOSをどのように言葉で伝えればいいかわからないということがよくあります。特に震災の報道など間接的な体験については、自分の心が疲弊していることを自覚しにくいかもしれません。ですので、大人が子どものSOSのサインに気づいて、まず大人からアクションを起こすことはとても大切です。
子どものSOSのサインに気づくには「いつもとちがう」という違和感を逃さないこと。特に食事・睡眠・排泄・清潔状態・余暇の過ごし方について、“いつもより、増えている/減っている/強くなっている/弱くなっている”という視点で考えると、違和感の具体的な内容が見えやすいです。これらの4シーン以外でも、「いつもより言葉尻が強いな」とか「好きな番組を見ていてもいつもより笑っていないな」など、ふだんお子さんの様子をしっかり見ている方ほど、違和感はキャッチしやすいでしょう。
子どものSOSに気づいたら
子どもの違和感に気づいたら、まず声をかけ、ていねいに話を聞いてみましょう。その後のパターンについていくつか例を挙げてみます。
1.「え?なにもないよ。大丈夫だよ」と言われた場合
この場合、こちらの杞憂であった・本人が自覚していない・本人が話したくない、などの可能性が考えられます。こんな時は、「そっか。いつもよりごはんを残してたからちょっと心配になったんだ(心配になった理由を伝える)。何もないならいいんだけど、なにかある時はいつでも相談してね。」と伝えて、子どもがSOSを出したいと思った時のためのお膳立てをしておくといいと思います。
2.「うーん、なんだかわからないけどモヤモヤしてて、いつもとちがうんだよね」と本人が違和感を抱えている場合。
本人がモヤモヤの理由を明確にわかっていない場合は、それを無理に深堀りしたり、「こうなんじゃない?」と一方的に伝えなくても大丈夫。またこれはカウンセラーとしての経験上なのですが、大人の一方的なアドバイスが効果的に働くことはあまりありません(ほとんどなかったと言ってもいいです・・・)。子どもが「大人が寄り添ってくれている」と感じやすいのは、モヤモヤを解決してもらうときではなく、なぜモヤモヤしているのかを“一緒に”考えてくれている時なのだと思います。
「そっかぁ、なんかモヤモヤしてるんだね。もし1人で悩んでるなら、一緒に考えさせてくれない?」と、一緒に考えたいという意思を伝えてみる、もしくは「そっかぁ、わからないのもしんどいよね。なにか私にできることあるかな?」と聞いてみるのもいいでしょう。このように、寄り添ってくれる大人の存在はきっと子どもの安心につながるはずです。
3.「実は最近、テレビとかSNSで震災のニュースをみるのがしんどいんだよね」と震災報道が要因になっていると本人が思っている場合。
「そうだったんだね。ニュースを見るのも大事だけど、ちょっと気持ちが疲れちゃったのかもしれないね。話して楽になりそうだったら聞こうか?もし話したくなかったら無理しなくてもいいよ」としんどい気持ちをどうしてあげるのがいいのか、丁寧に扱ってあげてください。
またこれは大人にとってもですが、セルフケアをすることも大切です。特に震災報道など情報疲れをしている場合は、まず情報から少し距離をおいて、五感を活性化するようなセルフケアをすることがオススメです。お天気のいい日にお散歩する、香りのいい紅茶をいれる、ゆっくり湯船につかる(いい香りの入浴剤を楽しむのもオススメ)、おいしいものを一緒に食べる、もふもふの毛布にくるまれてお昼寝する、などなど。効果的なセルフケアは人によって異なりますので、子どもさんやご自身に合うセルフケアをぜひ一緒にやってみてくださいね。
注意しておきたいこと
「いつもとちがう違和感」というと、ついネガティブな変化のほうに注目しがちですが。「いつもより笑顔が多い」時も注意するポイントです。なかには、笑顔でいることで負の感情にふたをしたり自分を守っている子どももいます。いつもより笑顔が多いからといって、「いつもとちがう!大丈夫!?」と大ごとにする必要はありませんが、笑顔なら絶対大丈夫というわけではないということを頭に置いて、こまめに声かけをしていただけたらと思います。
またこのようにコラムにすると、どうしてもとにかく話すことが大事だと意識して下さる方も多いと思うのですが、なかには話さないことで自分を保っている・話すための準備がまだできていないという子もいます。
そして大人の側もつい意義のあるサポートやアドバイスをしないといけないと思いがちですが、本当にただ一緒にいる・見守ることが求められていることもあります。「子どものためにこうすべきだ」という考えではなく、「子どもが今何を求めているのか」を上手に見極めていきたいですね。
専門家の力も頼ってみる
とはいえ、子どもに対してどうすればいいかわからないということもあると思います。そんなときはぜひ専門家の手も借りましょう。
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さいごに
子どものこころを守るためには、まずは大人たちのこころが安定していることがとても大切。余裕をもって日々を過ごすのは難しい時もあるかと思いますが、このコラムを読んでくださっている方には、子どもの心を守るのと同じくらいご自身を大切に過ごしていただきたいと思います。1人でがんばりすぎないで・・・セルフケアをしたり専門家の手も借りながら、みんなで助け合っていきましょうね。
[参考文献]
ジョージ・S・エバリー,ジェフリー・M・ラティング(2023)『サイコロジカル・ファーストエイド』澤明,神庭重信 監修