多胎育児は、愛と喜びがあふれる一方で、その難しさは想像を超えることも多いです。
双子や三つ子など複数の赤ちゃんを同時に育てる多胎育児は、通常の子育てとはまったく異なる多くの難しさと直面することが少なくありません。
筆者は、助産師として、多くの多胎育児家庭のサポートをした経験から、その現実を目の当たりにした一人で、この経験から学んだことも数え切れません。双子の場合は、「喜び2倍・大変さ2倍」、三つ子の場合、「喜び3倍、大変さ3倍」とも言われます。
そこで、本コラムでは、多胎育児の特有の喜び、困難やその乗り越え方、さらには心身のバランスを保つための実践的なアドバイスについて深掘りしていきます。少しでもこれを読んでいる方が、多胎育児生活にプラスの視点を持てることを願っています。
多胎育児のリアルな現実
体力的な負担
まず、誰もが口を揃えて言うのが、体力的な負担です。1人の赤ちゃんを抱えるだけでも育児は体力勝負だとよく言われますが、双子や三つ子ともなればその負担は想像以上です。多胎育児に追われる日々の中、授乳やおむつ替え、そして夜泣きへの対応で一日があっという間に過ぎていくのを痛感し、壁にぶつかると語る親も多く、特に新生児期は休む間もなく、体力が限界に達することもしばしばです。
タスク管理の難しさ
次に挙げられるのが、時間とタスクの管理です。1人の赤ちゃんでも、おむつ替えや授乳、家事などをこなすのは大変なことですが、双子や三つ子を育てる場合、すべての作業が2倍、3倍に膨れ上がります。特に難しいのは、同時に行わなければならないことが重なる時です。
例えば、2人の赤ちゃんが同時におむつ替えが必要になったり、同時に泣き出したりすることは日常茶飯事。育児と家事のバランスを取ることも難しく、家の中は常に「戦場」のように感じることもあります。特に、育児の初期には、何とか効率よくやろうと焦ってしまい、心身ともに疲れ切ってしまう方々に出会うことが何度もありました。
精神的な負担
体力の消耗に加え、精神的な負担も大きいのが多胎育児の特徴です。
特に初めての育児であれば、すべてが手探りの中での試行錯誤です。1人の赤ちゃんをあやしている間に、もう1人が泣き出す。その繰り返しに「終わりが見えない」と感じることも少なくありません。
このような状況が続くと、「どちらを先にケアすればいいのか?」と悩む瞬間が何度もあります。さらに、2人それぞれに十分な愛情を注げているかという不安も生じることも多く、これらの精神的な葛藤がストレスとなることもあるでしょう。
多胎育児を乗り越えるための工夫
もちろん、大変なことをあげればキリがないのですが、これらを工夫と計画で少しでも楽しく乗り越えるために、ここでは、私が関わってきた双子育児家庭で見て、実践していた具体的な方法をいくつか紹介します。
スケジュール管理の工夫
まず、多胎育児において非常に役立つのがスケジュール管理です。できるだけ同じタイミングで授乳やおむつ替えを行うことで、育児の負担を少しでも軽減することができます。双子が生まれた直後は、なかなか同じタイミングで行うことはできず、スケジュールを整えることに必死な時期がありますが、同時授乳やお昼寝の時間を揃えることで、自分の休息時間も確保できるでしょう。
赤ちゃんたちが少しずつ成長し、生活リズムが安定してくると、同時にスケジュールを組むことが少しずつできるようになってきます。また、育児アプリや手帳など、便利なツールを活用して、授乳やおむつ替えのタイミングを記録し管理することも、サポーターとシェアしたり、時間を効率的に使う助けとなります。
サポートを積極的に活用する
同じく大切なのは、周囲のサポートを得ることです。特に初めの頃は、多胎育児を1人で完璧にこなすことは不可能ということを、知っておきましょう。多くの方が、最初は「自分一人でやり遂げなければ」というプレッシャーを感じるのですが、パートナーや家族、友人、さらには地域の子育て支援サービスを活用することで、負担が大きく軽減されます。
育児を支援するためのサービスを活用することも重要です。
例えば、地域の子育て支援センターや自治体が提供する育児相談サービスは、多胎育児の親にとって心強い味方となります。私自身、このような事業に携わる中で、他のママたちと情報交換する場に参加したり、専門家からアドバイスをもらったりして、育児の悩みを軽減していく母親たちを何度も見てきました。参加することに、最初は、ドキドキするかもしれませんが、1人ではないということは心強いものです。ぜひ、足を運んでみてください。
また、自分が好きだと思う方のSNSや育児ブログ、またオンラインフォーラムなどを通じて、同じような状況にあるママたちと情報を共有し、励まし合うことは、多胎育児を乗り越える大きな力となります。現代では、オンラインでも、心の通った繋がりを得ることができます。ネガティブな情報も多い世の中ではありますが、自分を暗くするような情報は無視して、上手に活用しましょう。他の双子育児のママたちと定期的に情報交換をすることで、孤独感を和らげ、さまざまな育児のヒントを得ることができるかと思います。
ママ自身のケアを大切にする
多胎育児の中で忘れてはならないのが、ママ自身のケアです。睡眠不足や疲労が蓄積すると、精神的な余裕を失いがちになります。そのため、意識的に自分のための時間を作り、心と体をリフレッシュできる時間があるのが理想です。短い時間でも趣味に没頭したり、ゆっくりとお茶を楽しんだりすることで、気持ちがリセットされ、再び育児に向き合うエネルギーを取り戻すことができます。
自分の時間を取ることに罪悪感を抱く方が多いのですが、親が子の健康を願うことと同じように、赤ちゃんたちは、親が元気でいることを願っているのではないでしょうか。
みんなのために、まずはご自身のケアを忘れないようにしましょう。
周囲の理解を得るための勇気をもつ
多胎育児の大変さを理解してもらうためには、家族や友人、職場の人々に積極的に自分の状況を伝えることが必要です。特に、育児が大変な時には、サポートを求めることにためらわないようにしましょう。「自分一人で全部やらなければならない」と思い込んでしまうと、プレッシャーが増すばかりです。
最初は誰もが、「他人に頼るのは負担をかけるかもしれない」と感じますが、周囲に助けを求めることで、心が軽くなり、育児を楽しむ余裕が生まれるようになります。友人や家族に協力をお願いしたり、職場の理解を得るために状況を説明することで、より柔軟に育児に取り組むことができるようになります。
無理をして「大丈夫」ということで、自分で全て背負うことは避け、「助けてほしい」ということが重要です。
「完璧さ」を求めすぎない
多胎育児において、もう一つ重要なポイントは「完璧な親」であろうとしないことです。すべてを完璧にこなそうとすることは、不可能と言っても過言ではありません。育児において「完璧」を求めることがストレスの元であり、子どもたちにとって良い影響を与えることはないでしょう。子どもたちは、母親が疲れ切っているよりも、笑顔でいてくれることを望んでいます。
時には何もできない日があっても、無理をせず、自分自身に優しくなることが、長い育児生活を乗り越えるための鍵だと感じています。
さいごに
最後に、育児は『育自』とも言われます。多胎育児を通じて子どもの成長と同時に、親自身も親として成長します。
多胎の赤ちゃんが誕生してからは、体力や時間の管理はもちろんのこと、精神的なタフさも求められる日々が続くでしょう。しかし、同時にそれは、自分自身が新しいスキルを習得し、より強く柔軟な自分になるためのプロセスでもあると感じます。
多胎育児は大変ですが、大変な分、それだけ喜びも大きいと、多胎育児をしている方々からよく聞きます。小さい頃は大変ですが、「今振り返ったらあの時が一番良かった」という言葉も、触れることの多い言葉です。
ぜひ、今しかない多胎育児ライフを楽しめることを心から願っています。
[参考リンク]
一般社団法人日本多胎支援協会
https://jamba.or.jp
双子ママの会|NPO法人つなげる
https://tsunagerunpo.com/lp/online-community
多胎児家庭のためのサポートブック|京都府
https://www.city.kyoto.lg.jp/digitalbook/book_cmsfiles/1355/book.html