介護に伴うストレスや心身の問題、対処法について
車椅子のシニアの男性を介助する若い女性

介護によってかかる負担

家族に介護が必要になると、家族が要介護者になったショック、仕事や経済状況にどのような影響があるのかわからない不安、何から始めれば良いかわからない混乱を感じます。もし在宅介護になれば、仕事と両立できるだろうかという問題で悩むことになるでしょう。仕事を続けると介護に充てられる時間に制限が生じますが、かといって離職すると経済的負担が増します。施設入所となれば、経済的負担、家族を見捨てるような気持ち、地域によっては入所施設を探すのが難しいことも少なくありません。

介護が始まると、その時から介護者はいくつもの選択を迫られることになるのです。

介護には身体的・精神的・経済的負担がかかります。自分だけ・家族だけで抱え込まず、制度や地域の助けを得ることが必要です。しかし、家族での介護は周囲から孤立しやすい傾向があります。特に孤立しやすいのは「主に介護をしている介護者」で、「介護うつ」や「介護放棄」になってしまうこともあります。

介護と離職率

介護や看護を理由とする離職率を見てみましょう。介護離職は年間約10万人と言われ、離職者全体の約2%程度です。このグラフは介護・看護を理由とした離職者のデータです。

介護・看護を理由とする離職率(年代・男女別)2020年

参考:厚生労働省「令和2年雇用動向調査」

男性よりも女性の方がどの年代も離職率が高いという結果でした。男性では「65歳以上」の割合が一番高く、次いで「35~39歳」「40~44歳」「60~64歳」となっています。

女性は「55〜59歳」で急増し、「65歳以上」が最多という結果になっています。男性と比べると、その他の世代でも介護離職している人が一定の割合でいます。家族に高齢者がいる場合だけでなく、子どもに介護・看護が必要な場合もありますね。

介護が終わった後、元の仕事に復帰したくても年齢的に難しい、元のポストがない、数年間のブランクがあり仕事への自信を失うといったことから、復職が難しいこともあります。

要介護度別、主な介護者の介護時間

次に、要介護度別に主な介護者の介護時間の割合を見てみましょう。「要支援1」から「要介護2」までは「必要なときに手をかす程度」が多くなっていますが、「要介護3」以上では「ほとんど終日」が最も 多くなっています。

要介護度別にみた同居の主な介護者の介護時間の構成割合

引用:厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdf

働き方を変える選択が必要なことも

介護ストレスが増す要因として、次のようなことが挙げられます。

  • 自分が介護しなければ、という抱え込み
  • 介護がいつまで続くかわからない、見通しが立たない不安
  • 介護制度をよく知らない、利用が難しい
  • 介護で疲弊しても休息するのが難しい
  • 職場に相談していない、仕事の調整ができない

厚労省の2017年3月発表の調査では、介護のために残業をしない、時短勤務をする、休暇を取る、在宅勤務をするなど、仕事で何らかの対策をしていない人が全体の約7割もいました。7割もの人が、仕事を調整しないまま介護をしようとしています。しかし、介護が始まるということは、生活が大きく変わるということです。介護と仕事を両立させるためには、職場に介護をしていることを伝え、理解を得ることが重要です。

介護ストレスが引き起こす問題

身体への影響

毎日、起床介助、移動介助、体位介助などの介助をすることにより、介護者の体には大きな負担がかかります。要介護者の状態によっては、体を持ち上げたり降ろしたりすることを一日に何回もしなければなりません。そのため、腰などに多大な負担がかかり、痛めてしまうことも少なくありません。また、散歩や通院への付き添いでも疲労が溜まります。夜中のおむつ交換、トイレ介助により、睡眠不足に陥る介護者も多いです。このような生活を送ることにより、介護者の身体には相当なストレスがかかっていると言えます。

抑うつ状態

慢性的な不眠、疲労感、責任感、自分の時間が持てない、などのストレスにより抑うつ状態になることがあります。抑うつ状態になった時の身体のサインは、気分の落ち込み、意欲の低下、好きだったものに興味関心がもてない、思考力・集中力の低下、自尊心の喪失、死や自殺を考える、食欲の低下・亢進、睡眠の異常、倦怠感や疲労感、などです。

これらの症状が2週間以上続くと、心因性のうつ病や適応障害を発症している可能性があります。その結果、介護者自身の生活すら成り立たなくなってしまう恐れもあります。介護者の健康管理は、介護を受ける方の健康と同じくらい重要です。介護者は自身の健康維持にも配慮し、介護負担の軽減や適切なサポートを受けることを大切にしてください。

介護虐待

 介護ストレスから、要介護者を虐待してしまうこともあります。介護虐待にはいくつか種類があり、これらの行為をしてしまった・しているのを見た場合、「疑わしい」と感じる程度であったとしても、自治体の担当窓口や地域包括支援センターに通報しましょう。介護虐待は、介護負担を抱え込んでいる介護者からのSOSでもあります。虐待通報することで地域の担当窓口が介入することができ、虐待者を助けることに繋がります。介護虐待が疑われる時は、勇気を出して通報しましょう。

 介護虐待には、いくつかの種類があります。

・身体的虐待
…暴力的行為、外部との接触を意図的・継続的に遮断する行為

・心理的虐待
…脅しや侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせ等によって精神的に苦痛を与える行為

・性的虐待
…本人が同意していない、性的な行為やその強要

・介護・世話の放棄・放任
…必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体的・精神的状態を悪化させること

・経済的虐待
…本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること

介護虐待の背景には、介護が家庭内という閉じられた密室、閉鎖的な空間で営まれていて、介護者が孤立して介護の負担を抱え込んでいる、介護者のストレスが高いということがあります。介護者自身も虐待だと気付かない場合や、虐待をされていても誰にも打ち明けられない要介護者もいます。介護者が複数いること、家族だけでなく介護サービスなど第三者も介護に参加すること、介護者自身の心身の健康を守ることが重要です。

介護者のストレス軽減に大切なこと

 介護者の心や身体の健康を維持するために、次のようなことがポイントになります。

外部サービスを利用する

・介護保険サービス
…訪問介護・訪問入浴介護を利用して、食事介助、排泄介助、入浴介助などをしてもらう。
デイサービス、ショートステイなどを使い、介護者の休息を確保する(レスパイトケア)。
これら介護保険サービスの利用にあたってはケアプランの作成が必要であり、ケアマネジャーに作成を依頼する。

・介護保険外サービス
…社会福祉法人やNPO法人などが提供している、介護保険外サービスがある。
要介護者に同居家族がいる場合でも、日常生活援助や、散歩の付き添いなども可能。
配食サービス、安否確認なども利用できる。
これらのサービスについては、自治体の地域包括支援センターに相談すると情報を集めることができます。

専門家に相談する

・医師、ケアマネジャーなど
…日常的な悩みを相談し、専門的な立場からアドバイスを受ける。
ケアマネージャーは定期的に主治医と面談し、情報共有やケアプランを作成するため、家族の困りごとを主治医に伝達することができる。主治医と面談の時間が作りにくい場合は積極的に活用を。

・介護者自身のストレスを吐き出す場として、臨床心理士・公認心理師、ソーシャルワーカーに話すのも有益。

介護者の仲間を作る

・介護者グループを利用する
…地域によって、 「介護者の会」 を開催している場合がある。(認知症の場合)
介護者の会とは、家族の介護を行なっている人たちが集まり交流を行なっている会。介護者が孤立しないために、家族以外の誰かと交流するのが重要。
認知症以外の「家族の会」などが開催されている場合もある。

介護のスキルを高める

・自治体の介護教室を利用する
…介護のスキルが向上すると、介護にかかる心身の負担を軽減できる。
各自治体では、介護家族のための介護教室を開催している場合がある。
ヘルパーやリハビリ担当者にアドバイスを求めるのも有益。

自分の時間を守る

・睡眠・休息・楽しみの時間を持つようにする
…介護や仕事で疲弊していると、睡眠不足→睡眠障害のサイクルに陥りやすい。休息がなければ心も体も健康に活動できない。
楽しみの時間をもつことで、介護も仕事も続けられる心の状態を維持する。

おわりに

今回のコラムでは、介護に伴うストレスや心身の問題と、対処法をご紹介しました。これから介護が始まるかもしれない方、今まさに介護で困っている方、介護者である家族を心配している方は、ぜひ参考にしてみてください。

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