近年よく耳にするようになってきた「出生前診断」。妊娠をすると、年齢や家庭の状況から「出生前診断」を考えることがある人もいるのではないでしょうか。医療技術の進歩により、出生前診断の受診件数はここ10年で約2.4倍も増加してきており、今後はより一層身近な検査になるかもしれません。
しかし、具体的に出生前診断とはいったいどのような検査なのか、検査を受ける必要があるのかなど、出生前診断についてあまり詳しくは知らない方も多いと思います。出生前診断のために行われる検査には様々な種類があり、それぞれにメリットだけでなくリスクもあります。
そこで、このコラムでは出生前診断について、検査の種類や受けられる時期、方法、費用などの基本情報、また出生前診断のメリットとデメリットについてご説明します。
ぜひ、最後までお読みいただき、自分が出生前診断を受けるべきか、またどの検査を受けるべきかの判断材料にしていただければと思います。
出生前診断とは
出生前診断とは、妊娠中のお腹の中の赤ちゃん(胎児)の発育や異常の有無などを調べる検査の総称です。広い意味では、通常の妊婦健診で行われる超音波検査や胎児心拍数モニタリングなどを使った診断も出生前診断に含まれます。
出生前診断を行うことにより、形態異常(見た目でわかる異常)や染色体異常(見た目だけではわからない異常)といった胎児の先天性疾患(病気)がわかります。
超音波画像を使う超音波検査(エコー検査)は、形態異常を検査するものです。血液や羊水などを採取して行われる検査は、染色体異常を調べる検査になります。
染色体異常を調べる出生前診断は大きく分けると、検査の結果に基づいて「診断が確定できない検査(非確定的検査)」と「診断が確定できる検査(確定的検査)」の2種類があります。
確定的検査は、対象の検査を行うだけで疾患の診断の有無が確定する検査です。非確定的検査と異なり、お腹に針を刺して羊水や絨毛の細胞を採取するため、流産・死産のリスクを伴います。このようなリスクを避けるために、事前に非確定的検査を行う医療機関もあります。
検査の種類
非確定的検査の種類
非確定的検査には、以下の3つの方法があります。
- NIPT(新型出生前診断)
- コンバインド検査
- 母体血清マーカー検査
それぞれの検査の違いは以下の通りです。
NIPT (新型出生前診断) | コンバインド検査 (組み合わせ検査) | 母体血清マーカー 検査 | |
検査方法 | 血液検査 | 超音波検査 血液検査 | 血液検査 |
検査できる 先天性疾患 | ダウン症候群(21トリソミー) 18トリソミー 13トリソミー | ダウン症候群(21トリソミー) 18トリソミー | ダウン症候群(21トリソミー) 18トリソミー開放性神経管奇形 |
検査精度 (検出精度) | 98%前後 | 83%前後 | 80%前後 |
検査可能な期間 | 妊娠10~15週 | 妊娠11~13週 | 妊娠15~18週 |
費用 (施設によって 異なる) | 20万円前後 | 5万円前後 | 1~2万円程度 |
非確定的検査は母体に負担が少ない点や検査の種類によっては妊娠週数の早い段階から検査を受けることができる点がメリットです。一方で、検査の結果が陽性の場合は、確定診断のための確定的検査が必要になるため、追加の検査費用が掛かる点はデメリットとなります。
確定的検査の種類
確定的検査に含まれる検査は以下の2つです。
- 羊水検査
- 絨毛検査
それぞれの検査の違いは以下の通りです。
羊水検査 | 絨毛検査 | |
検査方法 | 母体の腹部に針を刺して、子宮内の羊水中に含まれる胎児の細胞を採取し、胎児の染色体やDNAの変化を調べる検査 | 母体の腹部に針を刺して絨毛を採取し、胎児の染色体や DNA の変化を調べる検査 |
検査できる 先天性疾患 | 染色体疾患全般 | 染色体疾患全般 |
検査精度 (検出精度) | ほぼ100% | ほぼ100% |
検査可能な 期間 | 妊娠15週以降 | 妊娠10~13週 |
費用(施設によって異なる | 10~20万円程度 | 10~20万円程度 |
確定的検査は、対象の検査を行うだけで確定診断ができるため、追加の検査費がかからない点がメリットと言えます。一方で、胎内や胎盤に直接針を刺すため流産や死産、破水、出血などのリスクがある点がデメリットです。
それぞれの検査について、もう少し詳しくみていきましょう。
NIPT
「新型出生前診断」とも呼ばれるNIPT(母体血胎児染色体検査)は、母体の血液を採って、胎児に染色体異常がないかどうか調べる非確定的検査です。妊娠10週からいつでも実施可能な検査で、一般的な染色体疾患(ダウン症、18トリソミー、13トリソミー)、その他の染色体疾患、性染色体(XXおよびXY)、または、微小欠失症などの検査をすることができます。確定診断ではないため、陽性が出た場合は羊水検査を受けることもあります。
NIPTを受けるためには、以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 胎児超音波スクリーニング検査または母体血清マーカーテストで、胎児の染色体の数に異常がある可能性が指摘されている
- 過去に染色体の数に異常がある赤ちゃんを妊娠したことがある
- 高齢妊娠である
- 両親のどちらかに均衡型ロバートソン転座という染色体異常があり、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーである可能性が指摘されている
コンバインド検査
コンバインド検査(組み合わせ検査)は、超音波検査と採血との組み合わせの検査です。超音波検査によるNT計測(胎児の首の後ろのうなじのあたりの厚みの計測)とお母さんからの採血による母体血清マーカー(PAPP-A, hCG)計測とを組み合わせて、胎児の21トリソミー(ダウン症候群)と18トリソミーの確率を計算します。
なお、コンバインド検査は、超音波のみの検査よりも精度が高い検査ですが、非確定的検査ですので、この検査の結果が確定診断にはなりません。
母体血清マーカー検査
母親の血液から胎児の体で生成されるホルモンの濃度を調べ、胎児の染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、開放性神経管奇形)がないかを検査します。検査で調べる血液中の成分の種類が3つのものを「トリプルテスト」、4つのものを「クワトロテスト」といいます。
次の因子が確率に影響を与えます。
- 年齢
- 妊娠週数
- 母体体重
- 家族歴など
非確定的検査ですので、この結果が確定診断ではありません。結果が陽性だった場合、確定診断のために羊水検査を受けることもあります。
羊水検査
羊水検査は、侵襲的検査になり、母体のお腹に針を刺し、採取した羊水の成分から胎児の染色体異常や遺伝子疾患を診断するための検査です。羊水検査の合併症としては、流産、破水、出血、腹痛、子宮内感染、胎児の受傷、早産などがあります。流産に至る確率は、300人に1人です。精度はほぼ100%ですが、母体と胎児にリスクがあるため、受けるかどうかは慎重に検討する必要があります
絨毛検査
絨毛検査も羊水検査同様、母体のお腹に針を刺すか、子宮頸部にカテーテルを挿入して胎盤から絨毛を採取し、胎児に染色体異常や遺伝子異常がないかどうかを調べる検査です。
絨毛検査の合併症としては、流産、破水、出血、腹痛、子宮内感染、胎児の受傷、早産などがあります。流産に至る確率は、100人に1人です。
比較的早い時期に行うことができ、染色体や遺伝子の異常がほぼ100%の確率でわかるというメリットはありますが、母体と胎児に負担がかかる検査なので、実施条件がいくつかあります
出生前診断は受けるべきか?
出生前診断を受けるべきかどうかについては賛否両論ありますが、出生前診断本来の目的は、生まれる前に赤ちゃん(胎児)の状態を観察・検査し、胎児に治療や投薬を行ったり、また出生後の赤ちゃんの治療の準備をしたりすること、そしてお母さんの健康管理を行うことです。
日本産科婦人科学会の産科ガイドラインによると、出生前診断の目的は「染色体異常や遺伝性の病気にかかっている赤ちゃんの予後を向上すること」です。
出生前診断により、先天性の病気や染色体異常の可能性が高いとあらかじめわかれば、赤ちゃんが生まれてくる前に親が心の準備をしておける、障害について事前に学べる、生後必要となるケアや資金面の調整を考える余裕ができる、生まれてくる赤ちゃんの状態に合わせた最適な分娩方法や療育環境を検討することができる、といったメリットがあります。
このように、出生前診断は誰でも無条件に受けられるわけではありませんが、高齢出産で染色体異常のリスクが高い妊婦さんや、過去に染色体異常などがある赤ちゃんを授かった妊婦さんの場合、検査を受けることで不安要素が減る可能性があります。
一方で、「出生前診断の結果をみて、人工妊娠中絶をする人が増えるのではないか」など、倫理的な観点から検査を問題視する声もあります。
出生前診断を希望し、胎児に異常が見つかった場合、「妊娠中から赤ちゃんの病気が分かって、心の準備ができた」とポジティブに考える人もいれば、「知らない方がよかった」などとネガティブに考える人もいます。
また、出生前診断によって、かなり高い確率で染色体異常などがわかるとはいえ、胎児に見られる異常には様々あり、そのうち染色体異常が占める割合は約25%にしかすぎません。出生前診断ですべての胎児異常が明らかになるわけではない、ということも踏まえたうえで検査を受けるかどうか検討する必要があります。
前述したように、確定的検査は母体のお腹に針を刺したりする必要があるため、母体と胎児に負担もかかります。羊水検査では約300人に1人の割合、絨毛検査では約100人に1人の割合で流産や死産の可能性があり、まれですが検査後に出血や破水、腹膜炎などの合併症を起こすことがあるのも出生前診断の検査におけるリスクといえますので、事前に医師とよく相談して決めなければいけません。
妊娠中は特に悩みや不安を抱きやすいため、以上のことを踏まえて、パートナーやご家族と話し合いを行うことが大切です。
また、不安を感じる人は遺伝カウンセリングを利用する方法もあります。遺伝カウンセリングとは、染色体異常に関する悩みや疑問に対して、専門のカウンセラー(医師)が科学的な根拠を基に相談に乗ってくれるカウンセリングで、ご自身だけでなくパートナーやご家族のサポートもしてくれます。
繰り返しになりますが、出生前診断は疾患を持って生まれてくる赤ちゃんを排除するために行うものではなく、疾患を持ち生まれてくる赤ちゃんの治療を速やかに開始できるように環境を整えるための検査です。
検査への理解が深まれば、受けるかどうかの判断や、検査結果の受け止め方も変わってくるかもしれません。パートナーや家族と相談するのはもちろんですが、まずは夫婦そろって専門の医師とよく相談し、必要であれば遺伝カウンセリングを受けたうえで出生前診断について検討してみると良いでしょう。