働く女性にとって、生理は体の自然な働きであると同時に、日常生活や仕事に少なからず影響を与える存在です。毎月訪れる体調の変化や痛み、不快感にどう向き合うかは、女性の生活の質を大きく左右します。しかし、多忙なスケジュールの中で生理をしっかり管理するのは簡単ではありません。
日本では、生理について公然と話すことが難しい雰囲気があり、職場での配慮を求めにくい現状があります。その一方で、筆者が住むフランスでは、生理に対する考え方や管理方法に日本よりも柔軟で多様な選択肢が一般的な印象があります。
本コラムでは、日本の働く女性が抱える課題やフランスの生理管理の実例を踏まえ、生理との向き合い方を見直すためのヒントを探ります。
日本の働く女性と生理:何が課題なのか?
1. 職場での「生理」に対するタブー意識
日本では、生理についてオープンに話すことがタブー視されることが多く、職場で必要な配慮を求めることに抵抗を感じる女性が少なくありません。特に男性中心の職場や上下関係が厳しい環境では、生理休暇を申請したり、生理用品に関するリクエストをすることが心理的に難しいとされています。
「生理休暇」は日本独自の制度として法律で認められていますが、利用率は極めて低いです(令和2年度0.9%)。「職場に迷惑をかけたくない」「休むことで自分が弱いと思われるのでは」という意識がその背景にあります。多くの女性が生理に伴う痛みや不快感を抱えながらも、周囲に頼れずに働き続けている現状があるのです。
2. 生理用品の選択肢が限られる状況
日本では、ほとんどの女性がナプキンを使用しています。最近では月経カップや生理用給水ショーツといった新しい選択肢も登場していますが、まだ普及率は高くありません。月経カップは環境に優しく交換頻度が少ないという利点がある一方で、装着に慣れる必要があるため抵抗感を抱く人もいます。
さらに、職場で生理用品を携帯すること自体が心理的負担となることもあります。ナプキンを持ってトイレに行く際に周囲の目を気にしたり、交換場所の衛生状態が十分でない職場環境も、働く女性の悩みの一つです。
3. 生理痛やPMSへの対処法が不十分
痛み止めや温かい飲み物で生理痛を緩和する女性は多いですが、それだけでは十分でない場合もあります。特に、生理痛が重い人やPMS(月経前症候群)で情緒不安定になる人にとっては、根本的な治療や対処法が必要です。しかし、多忙な日常の中で医療機関に相談する時間を取れず、自己流の対処法に頼ってしまうケースが多いのが現状です。
フランスで見た、生理管理への多様なアプローチ
筆者が住むフランスでは、生理管理における考え方が日本とは大きく異なることを暮らしの中で感じることがあります。特に以下の3点が特徴的です。
1. オープンな生理への理解
フランスでは、生理について話すことがタブー視されることはほとんどありません。職場や学校での配慮が求められる際にも、女性が気兼ねなく自分のニーズを伝えられる環境が整っています。
また、一部の公共施設や職場では、生理用品を設置する取り組みが見られるようになっています。
日本ではまだ少ないこのような取り組みは、女性が安心して日々の生活を送るための基盤となっています。
2. 多様な生理用品の普及
フランスでは、月経カップや生理用ショーツなどの新しい生理用品が広く受け入れられています。これらの製品は環境に優しいだけでなく、交換頻度を減らすことで仕事中のストレスを軽減する効果もあります。特に月経カップは最大12時間の連続使用が可能で、忙しい時には助かるという声も上がっています。
また、フランス政府は、2024年から25歳以下の女性を対象に再利用可能な生理用品を無償提供する政策を開始しました。この政策により、25歳以下の女性は薬局でこれらの生理用品を購入する際、保険証を提示することで全額返金を受けることができます。処方箋は不要で、購入時に保険適用とみなされる仕組みです。
フランスでは、約400万人の女性が生理用品の購入に金銭的サポートを必要としており、その数は2021年の2倍近くに増加しています。この状況を受け、エリザベット·ボルヌ首相は「食費を節約するか、生理用品を買うか。そんな選択を迫られる若い女性がいることを、私たちの社会は受け入れられません」と述べ、政策の重要性を強調しました。
この取り組みは、フランス国内で進行中の生理の貧困解消に向けた一環であり、若い女性たちが安心して生活できる環境の整備を目指しています。
3. ホルモン治療の普及
また、フランスでは避妊薬(ピル)やIUD(子宮内避妊具)が広く普及しており、避妊以外の目的で使用する女性も多いです。特にミレーナ(ホルモンIUD)は、生理痛や経血量を軽減するための治療として医師が推奨するケースが一般的です。未経妊の若者たちが広く利用するピルに関しては、2022年から25歳以下無料とする政策も施行されました。こうしたホルモン治療は、生理管理の選択肢を広げる重要な要素となっています。フランス女性の7~8割が、こうしたホルモン治療の選択をしながら生理と向き合っているのです。
生理との付き合い方を改善するためのヒント
生理との付き合い方は一人ひとり異なります。忙しい日々の中でも、自分に合った方法を見つけることが大切です。
1. 生理用品を見直してみる
月経カップや生理用ショーツなど、新しい生理用品を試すことで生活の質が向上することがあります。これらの製品は、交換頻度が少ないため外出先や職場での負担が減り、結果的にストレス軽減につながります。
2. オープンな対話を促進する
職場や家庭で生理について話しやすい環境を作ることは、働く女性にとって大きなサポートになります。たとえば、職場で生理用品を設置することや、生理休暇を気兼ねなく申請できる風土を作ることができるといいですね。
3. 自分の体をいたわる習慣を持つ
生理中は特に体がデリケートになります。十分な休息を取る、温かい食べ物や飲み物を摂る、軽い運動をするなど、自分自身で体をいたわる習慣を持つことも大切です。
4. 医療機関を活用する
生理痛やPMSが日常生活に支障を与える場合は、医師に相談することも検討すべきです。ピルやミレーナなどのホルモン治療を含め、現代医学が提供する多様な選択肢を活用することで、より快適な生活が実現できます。
生理管理の選択肢を広げることで得られるもの
生理との付き合い方を見直すことは、日常生活の快適さを向上させるだけでなく、働く女性の生産性や幸福感にもつながります。たとえば、職場に生理用品が設置されることで女性社員の安心感が高まり、生理休暇が取りやすい職場環境が整うことで、健康的に働ける女性が増えるのではないでしょうか。
さらに、生理をタブーとせず、オープンに話しやすい社会が構築されれば、生理に対する意識そのものが変わり、女性にとってより生きやすい社会が実現するはずです。
[参考文献]
以下の情報をもとに本コラムを構成しました。
- 働く女性と生理休暇について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001150877.pdf - 「月経カップ」に関する調査|株式会社murmur
https://femtechpress.jp/21946/ - パリ最新情報「フランス、再利用可能な生理用品を無償に。25歳以下の女性が対象、2024年から」|Design Stories
https://www.designstoriesinc.com/europe/sanitary-items/?utm_source=chatgpt.com - 2022年より25歳以下のピル無償化へ|info.gouv.fr
https://www.info.gouv.fr/actualite/des-2022-la-contraception-sera-gratuite-pour-les-femmes-de-moins-de-25-ans - 働く女性の99.5%が、生理用品のオフィス設置を希望!|PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000076687.html - 日本とフランス『ピル』への考え方はこんなに違う| 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/468143 - 職場のロリエ プロジェクト | 花王株式会社
https://www.kao.co.jp/laurier/project/shokuba/ - 海外避妊事情|リプロ·ヘルス情報センター
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