昨年、「性的同意」という言葉が大きく取り上げられました。
「性的同意」とは、性的な行為をしたいとお互いに望んでいるか、明確に意思確認することです。「性的同意」が注目されるきっかけのひとつとなったのが、性犯罪の規定を見直す刑法改正です。 今回は、性犯罪の規定がどのように改正されたのか、詳しく解説していきます。
【ポイント】
- 「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」になった
- 性交同意年齢が13歳から16歳未満へ引き上げられた
- わいせつ目的で16歳未満の子どもに面会要求することが犯罪になった
- 性的な画像の撮影や提供が犯罪になった
- 性犯罪の公訴時効期間が延長された
「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」になった
改正前の刑法には、「強制性交等罪」や「準強制性交等罪」などがあり、これらの罪が成立する要件として「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」が定められていました。しかし、これらの要件は犯罪とみなされるかどうか、解釈によって判断にばらつきが生まれてしまうという問題がありました。レイプを訴えても暴行や脅迫が行われていなかったと判断されたり、被害者が抵抗していなかったと判断されたりすると、無罪判決になることがありました。実際はそういった状況下では恐怖で抵抗ができない人や、被害当時はマインドコントロールにより受け入れてしまう人もいます。
そのため今回の改正では、
暴行・脅迫・障害・アルコール・薬物・フリーズ状態・虐待・立場による影響力などが原因となって、「同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態」で性交等やわいせつな行為をすると「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されるようになりました。
「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」は、改正前と比べて要件が明確で、判断にばらつきが生じにくい規定になったと考えられます。そして、処罰されるべき行為がより的確に処罰されるようになると期待されます。
また、「性交等」には性交・肛門性交・口腔性交だけでなく、膣や肛門に陰茎以外の身体の一部(指など)または物を挿入する行為も含まれます。このような行為をした場合、「不同意性交等罪」によって処罰されることになりました。改正前の刑法では、例えば次のような場合に性犯罪として処罰されないことがありました。
- 生物学的同性同士で、膣や肛門、口腔に陰茎・陰茎以外の身体の一部・物を挿入される行為(同性への性加害)
- 生物学的女性から生物学的男性に対する、同意のない性的行為(女性から男性への性加害) など
近年は様々なパターンの性犯罪が起きています。「性交等」の考え方が広がったことで、被害者が「私は性加害を受けました」と訴えられる法規制に近づいたと言えるでしょう。
たとえ「暴行」「脅迫」「フリーズ状態」などがなかったとしても、相手が13歳未満の子どもである場合や、相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合は、処罰されます。これについては、②の性交同意年齢のところで詳しく解説します。
上の改正ポイントの中の「同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態」について解説しましょう。より具体的には、次のように言い換えることができます。
- 同意しない意思を形成すること=Noと思うこと
- 同意しない意思を表明すること=Noと言うこと
- 同意しない意思を全うすること=Noをつらぬくこと
つまり、相手がNoと思うこと、Noと言うこと、Noをつらぬくことが難しい状態で性交等やわいせつな行為をすると、処罰されるようになったのです。今回の刑法改正では、同意のない性的行為は犯罪になり得ることが明記されたと言えます。また、「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」は、配偶者やパートナーの間でも成立すると明確に規定されています。
ここで、冒頭の「性的同意」という言葉を思い出してみてください。性的行為には、お互いが明確に同意していること、すなわち「Yes」と思う・言う・行為の間は「Yes」の状態であること、が大切だと言えます。そして、配偶者やパートナーの間でも「No」と思うことがあるし、「No」と言っても良いし、行為中に「No」の状態になることもあります。お互いの「Yes/No」を尊重することが重要ですね。
性交同意年齢が13歳から16歳未満へ引き上げられた
16歳未満の子どもに対して、性交等やわいせつな行為をすると、「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されるようになりました。改正前の刑法では、「暴行」や「脅迫」などがなく、その人が性的行為に同意しているように見えても、13歳未満の人に性的行為をした場合は「強制性交等罪」や「強制わいせつ罪」で処罰することとされていました。しかし、13歳の子どもが性的行為をすることへの正しい判断ができるか、性的行為に伴うリスクや責任について理解しているのか、という問題点がありました。また、諸外国の性交同意年齢を見てみると、2021年時点でイギリス、カナダ、ロシア、韓国などは16歳、アメリカは16歳~18歳(州によって異なる)でした。日本の性交同意年齢は諸外国に比べて低年齢であることが指摘されていました。
今回の改正では、この年齢が「16歳未満」に引き上げられました。これにより、16歳未満の人に性交等やわいせつな行為を行った場合、「暴行」や「脅迫」などがなく、その人が性的行為に同意しているように見えても、それ自体が処罰の対象になります。
また、13歳以上16歳未満の人に対して性的行為が行われた場合、この規定によって処罰されるのは、その行為をした人が5歳以上年長のときです。例えば、13歳と15歳、16歳と17歳のように年齢差が5歳未満で、「暴行」や「脅迫」などがなく、お互いに性的行為に同意している場合は「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」で処罰されません。これは「5歳差要件」とも呼ばれ、中学生同士や高校生同士の性的行為が犯罪になってしまうことを防止するために設けられたと考えられています。
では、年齢差が4歳以下なら処罰されないのかというと、そうではありません。年齢差が4歳以下であっても、①で説明した要件を満たす場合には、「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」が成立します。
わいせつ目的で16歳未満の子どもに面会要求することが犯罪になった
16歳未満の子どもに対して次のような行為をすると、「面会要求等の罪」として処罰されます。
- わいせつ目的で、うそをついたり金銭を渡すと言うなどして、会うことを要求する
- その要求の結果、わいせつ目的で会う
- 性的な画像を撮影して送信することを要求する
スマートフォンやパソコンを使う子どもが増えていることから、SNSトラブルも年々増加しています。そういった状況に対応し、若年者の性被害を未然に防止するために新しく設立された法律です。
「面会要求等の罪」も、相手が13歳以上16歳未満の子どもであるときは、行為者が5歳以上年長である場合に処罰されます。
性的画像の撮影や提供が犯罪になった
正当な理由なく性的な部位や下着などをひそかに撮影することや、16歳未満の子供の性的な部位や下着の撮影することは、「撮影罪」として処罰されます。相手が13歳以上16歳未満の子どもであるときは、行為者が5歳以上年長である場合に処罰されます。また、その撮影した画像を提供することも「提供罪」として処罰されます。
最近では小学生が市から提供されたタブレットで同級生の着替えを盗撮していた事件が報道されました。本人たちは悪ふざけの延長線上だったのかもしれませんが、これも撮影罪という立派な犯罪です。自分の身を守ることだけでなく、自分が誰かを傷つけない、ということを教育する大切さを感じる一件です。
性犯罪の公訴時効期間が延長された
公訴時効期間は、被害にあったときから、それぞれ5年延長されました。
- 不同意性交等致傷罪など…15年→20年
- 不同意性交等罪…10年→15年
- 不同意わいせつ罪など…7年→12年
また、大きなポイントとして18歳未満で被害に遭った場合、時効のカウント開始時期が被害時からではなく被害者が18歳になった時からになります。例えば、12歳の時に不同意性交等の被害にあった場合、公訴時効になるのは21年後となります(18歳になるまでの6年+公訴時効期間の15年)。
性犯罪は被害申告が難しいことや、子どもの頃はわからなかったけれど成長してから自分の被害に気付くということも、少なくありません。そういった被害にも対応できるような改正になっています。
おわりに
今回は性犯罪の刑法改正について詳しく説明しました。 子どもや女性を守るための改正と思われがちですが、この改正は大人や男性にとっても被害の声を上げやすくなるような変化だと感じました。被害を受けた場合や、被害の相談をされた場合は周囲の人や、公的サポート機関を頼るようにしましょう。
◆公的な相談窓口
内閣府の「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」#8891
(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html)
警察庁の「性犯罪被害相談電話」#8103
(https://www.npa.go.jp/higaisya/seihanzai/seihanzai.html)
[参考資料]
法務省 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律
https://www.moj.go.jp/content/001405926.pdf
法務省 性犯罪関係の法改正等 Q&A
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html
法務省刑事局 「性犯罪に関する法改正等について」 男女共同参画局「共同参画」2023年9月号 特集2
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2023/202309/202309_03.html