経鼻インフルエンザワクチン フルミストの接種が今シーズンより開始!

2024年10月4日に第一三共株式会社より鼻に点鼻するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」が発売されました。

今回のコラムでは今まで使われてきたインフルエンザワクチンとの違いにも触れながら、フルミストの特徴について触れていきたいと思います。

ワクチンの種類

ワクチンとは、毒性ともいえる病原性をなくしたり弱めたりした病原体の一部などを体内に接種して、実際の病原体の侵入に備える薬のことです。
一般的にワクチンは、「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」「mRNAワクチン」の主に4種類に分類されます。

生ワクチン

生ワクチンは、生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を抑えて、免疫を作ることのできるギリギリの状態で弱めた製剤です。
免疫は自然感染したときと同じ流れでつくられるため、一度接種しただけでも免疫を作ることができます。風疹や水ぼうそうのワクチンがこれに相当します。

不活化ワクチン

不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌の病原性(毒性)を排除し、免疫を作るために必要な成分のみで作った製剤です。
毒性は完全に排除されているため、接種しても感染することはありません。
ただし1度接種しただけでは十分に免疫を作ることはできないため、決められた回数の接種が必要となります。4種混合(5種混合)、Hibなどがこれに相当します。

トキソイド

トキソイドとは免疫を作る上で重要となる細菌の出す毒素の毒性をなくし、免疫を作る働きのみにした製剤です。ほぼ不活化ワクチンと同じタイプの製剤といえますが、ジフテリアや破傷風などの予防接種に使われます。

mRNAワクチン

またここ数年話題にあがっている新型コロナウイルス感染症のワクチンはmRNAワクチンに分類されます。mRNAワクチンは、ウイルス表面にある「スパイクたんぱく質」と呼ばれるたんぱく質の遺伝情報を含んだ「mRNA」を人の体内に投与するのですがそうすると「mRNA」が設計図の役割を果たして次々とスパイクたんぱく質がつくられます。するとこのスパイクたんぱく質に対する抗体がセットで作られ、実際にウイルスに感染したときには抗体が働くことで症状を軽くすることや再感染を防止することに役立ちます。ただmRNA自体はとても不安定なため、体内ではすぐに分解されて残りません。

今回発売になった経鼻ワクチン【フルミスト】と従来ワクチンの比較

今年発売になったフルミストは、従来の針を使用した注射タイプのインフルエンザワクチンとは異なり、鼻腔に噴霧するタイプの生ワクチンです。

鼻粘膜で弱毒化ウイルスが増殖するため鼻や気道でも抗体がつくられるので、インフルエンザウイルスの侵入自体も抑え込むことができると考えられています。

またワクチンウイルスが体内で増殖することにより、体内の異物をやっつける働きをする免疫機能を活性化するため、流行するインフルエンザウイルスが微妙に型を変えても効果が期待できるといわれております。

接種方法は左右の鼻腔にそれぞれ1回ずつ、1回接種するだけです。接種後2週間程度で効果が出現しその後約1年間効果が持続するということで、従来のインフルエンザワクチンは接種後1か月をピークに徐々に効果が減少していき概ね半年程度の効果持続と比較すると、かなり長期的な有効性が期待できます。

フルミストに使用されているインフルエンザウイルスには低温馴化(低温で効率よく増殖する) 、温度感受性(インフルエンザB型は37℃、A型は39℃で増殖しにくくなる)、弱毒化という3つの特徴があります。
これらの特徴により、鼻腔内のような低温状況ではワクチンウイルスが効率的に増殖するものの、もし胚や全身のような高温状況に移行した場合は温度感受性があるため増殖しにくい、また弱毒化されているため体内でワクチンウイルスがたとえ増殖したとしてもワクチンウイルスによってインフルエンザ様症状は引き起こしにくいということが分かります。

フルミストは今シーズンより正式に使用されますが、こちらも任意接種のため原則自己負担となり、医療機関によって金額に差はありますが約8000~9000円程度かかります。

フルミスト従来のインフルエンザワクチン
ワクチンの種類生ワクチン不活化ワクチン
接種方法鼻に噴霧筋肉注射
接種回数左右の鼻腔に1回ずつ、1回接種13歳未満は2回接種
接種対象者2~19歳未満生後6カ月以上
効果持続期間約1年約4か月~半年

フルミストの注意点

注意点としては、従来のインフルエンザワクチンの接種対象が生後6カ月以上の全ての方だったのに対し、接種対象が2~19歳未満となっていることです。

フルミスト接種前に鼻をかんでおく必要性は定められておらず、また接種後すぐに鼻をかんでしまっても有効性に差はないとされていますのでご安心ください。

また、接種後に副反応として鼻水や咳症状が生じる可能性があることから、日本小児科学会は接種対象者が喘息を持っている場合不活化ワクチンの接種を推奨しています。

さらにフルミストは生ワクチンであることから飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝搬の可能性があるため、接種者の周囲に授乳婦や免疫不全者がいる場合もフルミストではなく不活化ワクチンの接種を推奨されています。

フルミストの接種不適当者としてはその他に、発熱者、妊婦、免疫抑制剤や副腎皮質ホルモン剤などを服用している者があげられ、接種要注意者としては重度の喘息・喘鳴の症状がある者、けいれんの既往がある者、アスピリンを継続的に服用している者、鶏卵・鶏肉アレルギー、ゼラチンアレルギーを持つ者が示されています。対象者に含まれる方は主治医とよく相談の上、必要であれば従来の不活化ワクチンの接種についても検討するようにしましょう。

また妊娠出産を考えている方が生ワクチンであるフルミストの接種を考えている場合、胎児にワクチンウイルスによる影響が及ぶ可能性があるため、接種前に約1か月間避妊期間を置き、接種後も約2か月は避妊する必要があるのでご注意ください。

まとめ

フルミストは鼻腔に噴霧するだけでインフルエンザを予防することができるワクチンで、従来のように針を刺す必要がありませんので、小児や子供の心理的・身体的負担の軽減が期待できます。しかしながら従来の不活化ワクチンと比較すると現時点では費用が高い事・取り扱っている医療機関が少ないため予約が困難な事・接種対象者が2~19歳未満と幅が狭い事が懸念点かと思います。国際的には49歳まで使用が認められている製剤ですので、今後国内での使用が増えることで日本での接種対象者の幅も広がり、それにより取扱い医療機関が増えると今より価格も下がってくることが予想されます。

海外では2003年に認可され、2011年以降欧州でもすでに10年以上使用されている製剤ですので、お子様の既往などを踏まえ興味がある方はぜひかかりつけの小児科クリニックなどで一度話を聞いてみてはいかがでしょうか?

[参考文献]

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