
みなさん、「プレコンセプションケア」という言葉をご存知ですか?一度は聞いたことがあるという方もいるかもしれませんが、あまり聞き慣れない言葉ですよね。
プレコンセプションケアとは、若い男女が将来のライフプランを考えて日々の生活や健康と向き合うこと。次世代を担う子どもの健康にもつながるとして近年注目されている新しいヘルスケアの概念です。いまは妊娠や結婚を考えていなくても、プレコンセプションケアを実施することでいまの自分がもっと健康になって、人生100年時代の満ち足りた自分(well-being)の実現につながります。
プレコンセプションケアの知識を正しく身につけることで、将来の自分の選択肢を増やすことにも繋がっていきます。また、妊娠出産の適齢期を過ぎた方もプレコンセプションケアの考え方を身につけることが次世代の価値観を理解することや、全員が働きやすい環境を整えていく手助けにつながっていきます。
この記事では、「プレコンセプションケア」について詳しく解説します。
プレコンセプションケアって何?
「プレコンセプションケア」は、英語訳をすると、プレ(pre)は「〜の前」、コンセプション(conception)は「受精・懐妊」を意味し、直訳すると「妊娠前の健康管理」となります。若い男女が将来のライフプランを考えて、日々の生活や健康と向き合うこと。次世代を担う子どもの健康にもつながるとして、近年注目されているヘルスケアです。早い段階から正しい知識を得て健康的な生活を送ることで、将来の健やかな妊娠や出産につながり、未来の子どもの健康の可能性を広げます。いまは妊娠や出産を考えていなくても、プレコンセプションケアを実施することでいまの自分がもっと健康になって、人生100 年時代の満ち足りた自分(well-being)の実現につながります。元気で満ち足りたからだとこころをめざすことは、とてもすばらしいことです。プレコンセプションケアは、より豊かで幸せな人生へと、皆さんを導いてくれるでしょう。

なぜ、プレコンセプションケアが必要なのか
リスクのある妊娠の増加
若い女性のやせと肥満の増加、出産年齢の高齢化などから、リスクの高い妊娠が増加しています。日本では、医療の発展によって妊婦の死亡率や周産期での死亡率は改善している一方で、出生数全体は減少傾向にあります。その中で、低出生体重児の割合が1970年代に比べて増加傾向にあります。低出生体重児の増加の原因として、母親のやせや、母体の高齢化や、不妊治療の普及による多胎妊娠が増えたことなどが報告されています。プレコンセプションケアを行って妊娠前にリスクを減らしていくことが、健やかな妊娠・出産や生まれてくる赤ちゃんの健康につながります。
不妊の増加
晩婚化、晩産化が進み、加齢による不妊や、ストレス、不規則な睡眠、食事、飲酒、喫煙などの生活習慣による不妊が増加しています。また、生理不順や子宮内膜症などの婦人科疾患などが、将来の不妊の原因になることもあります。妊娠や出産に関する正しい知識を得て行動し、将来の不妊のリスクを今から減らしていくことが大切です。
人生100年時代を生きるために
寿命が延びて、100年近く生きることが予想される時代となりましたが、単に寿命が延びることが重要ではなく、「健康に生活できる期間」をいかにして延ばすかが、 「人生100年時代」を生きる私たちの大きな課題になっています。 将来も健康に生きていくための知識を身につけて、早くから行動することが大切です。
プレコンセプションケアを実践しよう
いまの自分を知ろう
国立成育医療研究センターが作成した「プレコンチェックシート」を使用して、自分の健康状態をチェックしましょう。チェックシートは女性用・男性用があります。
<女性>
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_checksheat_f.pdf
<男性>
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_checksheat_m.pdf
参考:国立成育医療研究センター プレコン・チェックシート(女性用)(男性用)
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_check-list.html
できることから始めよう
早い段階から自らの健康を管理するということは、生涯健康で質の高い生活を送るための鍵となります。ここでは健康でいるためのいくつかのポイントをご紹介いたします。今の生活に一つでも取り入れることができるといいですね。
・適正体重
栄養不足による若い女性のやせ(BMI18.5未満)は、貧血や将来の骨粗鬆症の原因になります。一方、栄養過多や太り過ぎ(BMI25以上)は、将来、糖尿病や高血圧などさまざまな病気のリスクを高めます。やせも肥満も、不妊や妊娠・出産のリスクを高めます。男性の肥満も不妊のリスクを高める報告があり、注意が必要です。
BMIを計算して、いまの体重を評価してみましょう。
計算式 BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
評価 標準=18.5以上~25未満
・食事
普段の食事に主食・主菜・副菜はそろっていますか? 食事の量を極端に減らした食事や偏った食事は貧血や肌荒れなどの原因になります。
毎回の食事で主食・主菜・副菜がそろうように意識して食べるとバランスが良くなります。また、女性は日頃から葉酸を意識して摂取しましょう。
1日の食事の内容や量については、食事バランスガイド(厚生労働省)を参考にしましょう。
[食事バランスガイド]https://www.maff.go.jp/j/balance_guide
・運動
適正体重の維持に積極的な運動は欠かせません。血流がよくなり、筋肉量が増えることで代謝も高まります。
運動はこころの状態にも良い影響を与えます。 運動に慣れていない方は、まずは5〜10分のストレッチから始めてみましょう。肩がスッキリして、姿勢も良くなります。慣れてきたらウォーキングやヨガ、自宅での筋トレなどの中程度の運動にもチャレンジしてみましょう。プレコンセプションケアは、一週間で150分以上の中程度の運動を目安としています。
・喫煙
タバコはがん・心臓病をはじめ沢山の病気を引き起こします。また、男女ともに不妊症のリスクが増加し、特に妊娠中の喫煙や受動喫煙は流産、早産、周産期死亡、低体重を引き起こす可能性があります。赤ちゃんが生まれた後も乳幼児突然死症候群のリスク因子になるなどその影響はきわめて広範囲です。身近な人にも禁煙をお願いしましょう。
・飲酒
お酒は適量ならば緊張やストレスを和らげたり血行を促進したりするなどの効果がありますが、飲みすぎには注意が必要です。生活習慣病をはじめとする、さまざまな病気の原因になります。
厚生労働省「健康日本21」によると、「節度ある適度な飲酒量」は、1日平均の純アルコールで20g程度です。これは、ビール(5%)500ml、日本酒1合、チューハイ(7%)350ml缶1本などに相当します。
しかし、女性は男性に比べてアルコールのダメージを受けやすい傾向があるので、子どもを持ちたいと思う方は妊娠前から1日当たり純アルコール10g以下に控えましょう。
検査やワクチンを受けよう
・性感染症
性感染症の中には、男女ともに不妊の原因になり、妊娠中にかかると赤ちゃんの健康に影響を与えるものがあります。感染症の可能性がある時や気になる症状がある時は、検査を受けて早期に発見し、治療を行うことが重要です。パートナーがいる場合は、お互いに感染し合うことがないよう、パートナー間で予防・治療に取り組むことが大切です。
・その他の感染症
風疹、麻疹、水疱瘡など、性感染症以外にも妊娠中にかかると赤ちゃんに影響を与える恐れのある感染症があります。日頃から、手洗いやうがいなどの感染症予防に努めるとともに、ワクチンで予防できるものもあるため、妊娠を考える前にパートナーや家族も含め、必要なワクチンは接種するようにしましょう。
かかりつけ医を持とう
女性は、「婦人科」のかかりつけ医を持つこともおすすめします。婦人科では、妊娠・出産や、女性特有の病気の治療だけでなく、月経や更年期に関することなど、女性ホルモンとの上手な付き合い方についても相談できます。
女性にとってかかりつけ婦人科医は、あなたのライフプランを尊重し、適切なケアを提供してくれるパートナーです。
大切な身体のために、気軽に相談できる「かかりつけ医」を持つようにしましょう。
ライフプランを考えてみよう
みなさん、ライフプランを考えたことはありますか?妊娠・出産、育児、介護、転職など、人生にはたくさんの転機があり、そのたびに喜びや悲しみなどさまざまな感情を抱くもの。自分は何を優先して、何を選択していくか、自分自身で考えて、それを少しずつ現実に落とし込んでいく。将来後悔しないために、ライフプランを考える時、まずは色々な選択肢を知ること、知った上で自分は何を選択するか考えることが大切です。
女性は30歳くらいから徐々に妊娠する力が減りはじめ、30代後半で急速に低下します。男性も35歳くらいから徐々に精子の質の低下がおこります。医学的に妊娠・出産に適した年齢は20代、遅くとも30代半ばごろといわれていますが、この時期は学業や仕事で多忙な時期でもあります。
子どものいるライフプランを考えている方は、妊娠に適した時期を踏まえて、環境を整えていくことが大切です。就職、結婚、妊娠、出産、育児について、何歳まで何人子どもが欲しいかも含めてライフプランを立ててみましょう。
まとめ
プレコンセプションケアは、将来、子供を持つか、持たないかに関わらず、人々の健康にとって重要な概念です。プレコンセプションケアについての学びを深めることは、自分の人生の選択肢を増やすことだけでなく、周囲の人の価値観を知るきっかけになっていきます。プレコンセプションケアの知識を持つ人が増えていくことは、全ての人の生活の質を高めることにもつながっていきます。プレコンセプションケアは、例えば適正体重を維持することや、適度な運動をすること、バランスの取れた食事を摂ることなど、簡単なことから始めることができます。
ぜひ、この機会にプレコンセプションケアについて知り、自分のこれからの人生を健康で活き活きと生きるために、今できることは何かを考えていただければと思います。