妊活中・妊娠中の『インフルエンザ』との向き合い方

胚培養士の川口 優太郎です。

今回のコラムは、現在、過去に類を見ないほどの猛威を奮っている『インフルエンザ』についてのお話しです。

私の知り合いやクリニックに通われている患者様にも、インフルエンザに罹ってしまったという方が非常に多くいらっしゃいます。つい先日には、私の先輩の胚培養士さんが働かれているクリニックで、複数のスタッフが同時に感染してしまい人手不足でかなりのピンチに陥ったといったお話しも伺いました。これを読んでいる皆さんの周りでも、インフルエンザに罹ってしまったという方は多いのではないでしょうか?

このコラムでは、妊活中・妊娠中におけるインフルエンザの影響や、予防する方法、罹ってしまった時の対応などについて解説していきたいと思います。

インフルエンザってどんな病気?

まず、いわゆる一般的な“風邪”は、ウイルスや細菌の感染によって起こります。風邪を引き起こすウイルスにはおよそ200種類以上あるとされ、風邪をひいてしまった時にどのウイルスに感染しているのかを特定することは容易ではありません。一般的な風邪の場合、症状の多くは発熱、咽頭の痛み、鼻水、くしゃみ・咳などで、重症化することはほとんどありません。

一方で、インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで引き起こされる病気です。潜伏期間はおよそ1~2日程度で、発熱(38.0℃以上の高熱)や全身の倦怠感といった症状が比較的急速に現れるという特徴があります。鼻水やくしゃみ・咳のほか、吐き気や嘔吐、下痢といった消化器系の症状も出ることが多く、子どもや高齢者では重症化することもあるため、一般的な風邪よりも注意が必要です。

インフルエンザの感染の拡がりには季節性があり、日本では例年12月頃から3月頃が流行のシーズンと言われていますが、厚生労働省の発表では、一昨年は流行のスタート時期が例年よりも早かったことを報告しています。アフターコロナによるグローバル化で、海外から日本に訪れる外国人の方が増えたことが一因となっているのではないかとされていますが、将来的には、季節に関係無く罹患するリスクがあるのでないかといった可能性も指摘されています。

インフルエンザウイルスは、大きくA・B・C・Dという型に分類されます。この中で現在、日本で猛威を奮っているのはA型とB型で、特にA型は感染力が高く流行しやすいといわれています。B型は、A型よりも症状が穏やかであるといわれていますが、嘔吐や下痢と言った消化器系の症状が出やすいといった特徴があります。

過去の歴史を遡ると、インフルエンザは幾度となく世界的な感染爆発(パンデミック)を大きな被害を与えています。例えば、1918年に大流行した『スペイン風邪』(スペインインフルエンザA亜型(H1N1))では、全世界での死亡者数が4,000万人以上とも報告されています。

インフルエンザを予防するには?

まず、インフルエンザに罹らないための最も基本的な方法は、手洗い・消毒の徹底です。手洗いは、手指に付着したウイルスを物理的に除去する最も有効な方法の一つで、石鹸を使ってしっかりと手洗いを行うことは感染予防に非常に重要です。また、インフルエンザウイルスは、アルコール消毒によって不活性化することが可能であるため、アルコールによる手指消毒も有効な方法です。一方で、この時期に同じく流行するノロウイルスは、アルコールに耐性がありアルコールでは不活性化することが出来ませんので注意が必要です。

次に、空気が乾燥するこの時期は、咽喉から気道にかけて粘膜の防御機能が低下しがちになるため、感染を拡大させてしまう要因の一つでもあります。室内は特に乾燥しやすいため、加湿器などを使って湿度を保つことも重要です。

そして、やはり有効となるのがマスクの着用です。インフルエンザは、くしゃみ・咳などの飛沫や接触によってため感染するため、このような感染源を吸わない・着かないようにすることで感染の機会を減らすことができるとされています。

妊活中・妊娠中ではワクチンの接種も有効

もう一つ、感染を予防する方法として挙げられるのがワクチンの摂取です。

この時期、私が勤めているクリニックにも「インフルエンザのワクチンって打っても大丈夫ですか?」といった患者様からのお問い合わせが非常に多くあり、ファミワンの方にもワクチンの有効性や安全性についてかなり多くのご相談が寄せられています。

先にお答えすると、『治療中、妊活中、妊娠中、どのフェーズであっても、ワクチンを摂取していただいてまったく問題ありませんし、むしろ積極的にワクチンを摂取していただきたい』です。

というのも、妊娠中の女性は、妊娠していない女性よりもインフルエンザに感染しやすく、罹患した時に重症化しやすいことが報告されています。また、妊娠中のインフルエンザの感染は、流産・早産、低出生体重、胎児死亡など、胎児へのリスクも顕著に増加することが指摘されています。

もしかしたら、これを読まれている方では、「えっ??妊娠前後にワクチンの接種って大丈夫だったっけ??」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、実際のところおよそ10年前までは、インフルエンザのワクチン接種は、流産や胎児へのリスクが懸念されることから、妊娠中や妊娠の可能性がある場合には避けた方がよいとされていました。

しかしながら、現在では研究が進み、ワクチンの接種が母体にも胎児にも安全であることが証明されており、むしろ妊娠中にインフルエンザワクチンを接種することで、妊娠中の女性だけでなく母体を通じて胎児にも免疫がつき、出生後にインフルエンザに罹患するリスクを下げる効果が期待されています。

また、インフルエンザのワクチンは、不妊治療や体外受精に用いられる薬剤との相性(※いわゆる薬の飲み合わせ)にも特に影響を及ぼすことはありませんので、妊活中や不妊治療中であっても安心してワクチンを接種し、感染を予防することができます。

インフルエンザに罹ってしまったら‥‥??

しかしながら、どんなに対策を講じていても、やはりインフルエンザに罹ってしまった‥‥という場合や、家族や周りの親しい人がインフルエンザに感染し濃厚接触してしまうこともあります。

そのような時の対処法として、日本産科婦人科学会では“タミフル”や“リレンザ”などの抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)の投与、ならびに予防的投与を推奨しています。

これらの薬は、妊活中や妊娠中でも比較的安全に使用出来ることがわかっており、症状が出てから48時間以内に投与を開始することで発熱期間の短縮や、重症化が予防できるとされています。

インフルエンザに罹患した方と濃厚接触をしてしまった場合、“タミフル”や“リレンザ”を予防的投与することで約7~9割程度、感染を予防できる効果があるといわれています。

ただし一方で、むやみに予防的投与を行ってしまうと、薬剤に耐性を持ったより強い新しいウイルスが出現してしまう可能性もあります。そのため、誰でも彼でも予防的投与を行うというわけでは無く、インフルエンザに罹患しやすく、リスクも高くなる妊娠中の女性や産後の女性への投与が推奨されているというわけです。

妊娠前や妊娠中だと、どうしてもお薬の影響を気にしてしまうかもしれませんが、インフルエンザの感染によって病状が重症化した時の母体・胎児へのリスクの方が、お薬の投与による副作用よりもはるかに重大であると考えられています。

また、先述したノイラミニダーゼ阻害薬は、ウイルスの増殖を防ぐ働きをすることから、感染の初期にのみ有効なお薬であり、発症から48時間が経過してしまった後に投与しても治癒効果はほとんどありませんので、感染が分かった時には迷わず早めに対処するようにしましょう。

ちなみに、比較的新しい抗インフルエンザ薬の一つに“ゾフルーザ”というお薬があります。テレビなどで取り上げられることもあり、“ゾフルーザ”の名前を聞いたことがあるという方もいるかもしれません。

“ゾフルーザ”もウイルスの増殖を防ぐ働きをするのですが、“タミフル”や“リレンザ”とは作用機序が異なり、これらのお薬よりも急激にウイルスの量を減らすことが出来るという非常に画期的な新薬とされています。

しかしながら、現時点では妊娠前あるいは妊娠中、もしくは授乳中の女性に投与した場合の安全性については未だわかっていないという状況があります。というのも、新薬のため実際に流通するようになってから妊娠前後の女性に使用された症例数が少なく、安全かどうかの検証がまさに行われている真っ最中であるためです。

添付文書にも、これらの期間に該当する女性への投与については[治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する][授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせる]と記載されています。

インフルエンザの感染が疑われて医療機関を受診する際には、必ず不妊治療中であることや妊娠の可能性があることを医師や医療スタッフに伝えるようにしてください。

感染しないことはもちろん、感染させないことも大切。まずは落ち着いて対処を!

多くの不妊治療クリニックでは、インフルエンザの感染中もしくは解熱後すぐの来院、特に採卵や移植といった処置は原則不可としていることがほとんどだと思いますが、実際に不妊治療をされている患者様で、まれに、インフルエンザに感染して高熱といった症状があるにも関わらず黙ってご来院される方がいます。

先述した通り、妊娠中の女性や妊娠の可能性のある女性がインフルエンザに感染してしまった場合、極めて高いリスクが伴うため、このような行為は絶対にやめていただきたいです。

自分は妊娠していなくても、隣に座っている患者様は移植後の妊娠判定で来院されているかもしれませんし、判定後の妊娠経過観察かもしれません。

これは、自分が妊娠した後では逆の立場になるということです。

ご自身が感染しないことはもちろんですが、周囲に感染させないということも非常に大切です。

もしも、発熱や倦怠感などでインフルエンザの感染が疑われたら、まずは専門の医療機関を受診し、完治するまでは必ず来院を控えるようにしましょう。

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