結婚・子育て資金の生前贈与は不妊治療にも活用できるのか?

ロボット保険ガイド「リアほ」を展開するInsurtech企業のWDC社によるコラムの3回目です。実は不妊治療の費用を直系尊属(両親や祖父母)から受け取った際、贈与税がかからなくなることはあまり知られていません。どのようなポイントがあるのでしょうか。今回もWDC社員であり、数多くの執筆記事を手掛ける工藤崇さんが解説します。

前回連載コラム(「不妊治療と医療費控除について」「不妊治療と健康保険制度の適用について」)にて、不妊治療が公的保障や医療費控除を活用できることをお伝えしてきましたが、それでも夫婦にとって不妊治療のハードルは低いものではありません。不妊治療は長期に及ぶ可能性もあり、治療1周期の費用は軽減しても積み重なったときの負担感は大きなものがあります。今回は不妊治療の生前贈与の活用方法についてご紹介します。

結婚・子育て資金の生前贈与とは?

結婚・子育て資金の生前贈与には、平成27年4月から令和5年3月のあいだに実施された18歳から50歳以下の方に対する親世代からの信託受益権の付与(所定の方法にもとづいた贈与)に対し、1000万円以下までは非課税とするという贈与税特例が該当します。当初、令和5年(2023年)で終了予定でしたが、贈与後残った金額を相続財産に組み入れるなどの修正(それまでは一定の期間が経過すると非課税措置)を経て2025年までの2年間延長しています。この条件には、前年分の所得税の合計所得金額が1000万円以下であることがあげられます。

「結婚・子育て資金」とは何を指している?〜生前贈与の対象には不妊治療も含まれる

この「結婚・子育て資金」の定義が気になるところです。詳細を内閣府のホームページ[1] (「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」https://www8.cao.go.jp/shoushi/budget/zouyozei.html)から見ていきましょう。

①300万円を限度とする結婚費用

まず結婚費用は300万円を上限とします。挙式の費用、衣装代などの婚礼費用、結婚披露宴の費用です。婚姻日(入籍日)の日の1年前以後が対象のため、婚姻日からしばらく時間が経過してからの結婚式費用も対象となります。

②家賃・資金などの費用

規定の期間における結婚後の家賃費用も対象となります。入籍日の1年前後のあいだに締結した賃貸借契約による家賃・敷金・共益費・礼金・仲介手数料・契約更新などが対象です。また、当該贈与契約から3年を経過する日までに支払われたものが対象となります。引っ越し代に関しては、入籍日の1年前後以内に行った引っ越しが対象です。

③不妊治療・妊婦検診に関する費用

そして不妊治療の費用も対象になります。不妊治療は人工授精や体外受精などの治療・医薬品(処方箋にもとづくもの)が対象です。

出産費用は分娩費用や入院費や産科検診など、育児に関する費用は医療関連の治療費や予防接種などが該当します。保育園や幼稚園、認定こども園やベビーシッターへの入園料や保育料も対象となっています。

問い合わせは金融機関か税理士などの専門家へ

一連の費用が贈与に含まれるといっても、どのような手続きを進めればいいかわからない、という方が多いのではないでしょうか。税理士や、金融機関(銀行など)に問い合わせするようにしましょう。

なぜ結婚・子育て資金は知名度が低いのか

筆者もファイナンシャルプランナーとして仕事をしていて、住宅や教育といった一連の生前贈与施策のなかでも、「結婚・子育て資金」は著しく知名度が低いことを感じます。

贈与に関しては、毎年110万円までの贈与が非課税対象となる暦年課税の知名度が圧倒的に高いです。制度設計がきわめてシンプルで、様々な立場の方が利用できる汎用的な施策ということもあるでしょう。しかし知らなければ知らないまま、所定の期間が過ぎて問い合わせても不受理となります。不妊治療を含め、ライフプランで対象となりそうであれば積極的に活用できるといいですね。

民間保険の活用を考えるなら、不妊治療の「2年前」の加入がポイント

ここまで3回にわたって不妊治療の公的保障と医療費控除をお伝えしてきました。

一部の保険会社が提供している医療保険にも、不妊治療が保障内容に含まれていることがあります。概ね女性疾病保障に重点を置いている医療保険に多く、あらかじめ保障内容に不妊治療が対象となっている旨も記載されています。ただ、このような民間保険を活用する際は、免責期間に注意が必要です。医療保険に限らず生命保険の基本は不意に対象となる状況が到来したときに保障するものであるため、不妊治療のように対象者が自発的な意思で取り組むものは本来対象には含まれません。不妊治療が医療保険の対象に含まれるのは、本来の原理原則からいえば例外的な設計といえるでしょう。

生命保険業界を含めた少子化への対策や、不妊治療に高額の医療費が必要な実態を踏まえた措置は素晴らしいと思います。ただ注意したいのは、医療保険の本質上「今日保険に申し込んで、明日から不妊治療を始めるので保険金給付の対象としたい」ということは不可能です。そこで保険会社各社では、責任開始日(保険成立日)から数年の免責期間を設定し、それを過ぎてから行う不妊治療に関しては対象としています。多くの保険会社では2年、なかには5年を設定している会社もあります。

妊娠・出産を含むライフプランを描く中で、数年後の費用負担リスクに備える

そこで問題になるのは、不妊治療とライフプランの兼ね合いです。子どもが欲しいと思ってから自分たちに不妊治療が必要と理解したときを始点として、実際に不妊治療を始めるまで2年間待つというのはあまり現実的ではありません。

ファイナンシャルプランナーである筆者のアドバイスとしては、不妊治療を対象としている医療保険を選ぶのではなく、不妊治療「も」対象としている保険を選ぶことだと考えています。医療保障は不妊治療単体ではなく、女性を対象としたがんなどを保障しています。子宮癌や子宮頸がんなど20〜40代でも発症リスクのあるがんもあります。民間の医療保険に加入していない方は自分にとって、どのような保険・保障が必要かを考える機会ですし、既に何かしらの医療保険に加入している方は今の保険だと何が足りないのかを考える機会があると良さそうです。そのなかに不妊治療への保障を入れることは、2年後の自己負担を回避する先回りのライフプラン構築といえるでしょう。

今すぐに結婚する予定はないけれど、不妊治療への医療費について考えておくことで、数年後の費用負担リスクの備えとなるかもしれません。

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