【最新版】PGT-A(着床前遺伝学的検査)について知る!

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

2025年4月26日~29日の日程で、東京国際フォーラムにて第70回日本生殖医学会総会と、国際不妊学会学術集会(IFFS2025)が併催という形で開催され、私も参加をしてきました。この学会では、「生殖医療における多様性、持続可能性、そしてレジリエンス」というテーマのもとさまざまな研究発表が行われました。勤務スケジュールの都合で、私自身は1日だけしか参加できませんでしたが、もともと関心のあった発表に触れることができたことや、尊敬する胚培養士の諸先輩がたとお話しする機会を持てたことで、大変短い時間ではありましたが有意義な時間を過ごすことができました。

さて、今回の学会をふり返ってみると、目にする機会が多かった研究に『PGT-A/着床前遺伝学的検査』があります。最近、実施されることも増えてきたPGT-Aですが、聞いたり目にしたりする機会はあっても、まだまだ「どのようなものなのか?」「何が分かるのか?」「どうやって受けるのか?」など、よく知らないという方も多いのではないでしょうか?

実際、ファミワンの方にも、PGT-Aに関するご相談は数多く寄せられており、ご通院されている施設の先生からPGT-Aを提案されたけど、どういった検査なのかよくわかっていない‥‥というお声も聞かれます。

今回のコラムでは、あらためてPGT-Aについての理解を深めていただくべく詳しく解説をしていきたいと思います。

そもそもPGT-Aとは?

PGT-AとはPreimplantation Genetic Testing for Aneuploidy(;胚の異数性に関する着床前遺伝学的検査)の略で、高度生殖医療の治療の中で行われる検査の一つです。体外受精・顕微授精によって得られた胚盤胞から、細胞生検(Biopsy)によって細胞の一部を採取し、胚移植を行う前に、染色体の数に異常が無いかどうかを網羅的に調べていきます。

アメリカやヨーロッパの一部の国では、すでに治療の一環として組み込まれ実施される機会も増えてきましたが、日本においては、「命の選別につながる恐れがある」という生命倫理の観点から、日本産科婦人科学会が実施を認めていませんでした。

しかし、海外での症例が数多く報告されるようになってきたことや、国内での需要が高まってきたことを受けて、日本産科婦人科学会が主導する形で2017年11月から『PGSの有用性に関する多施設共同研究(PGS特別臨床研究;日本産科婦人科学会のパイロット試験)』が実施されました。当時は、PGS(Preimplantation Genetic Screening;着床前スクリーニング検査)と呼ばれていましたが、現在ではPGT-Aという名称が使われるようになっています。

PGT-Aでなにがわかるの?

PGT-Aは、簡潔に言えば『受精卵(胚)の染色体の正倍数性』を調べる検査になります。

と、これだけを聞いてもなかなかすぐには理解で出来ないかと思いますので、順を追って、まずは染色体について説明をしていきます。

染色体は、細胞の中に存在する遺伝子(DNA)の集合した構造体のことで、ヒトを造るための設計図のようなものです。ヒトの場合では、46本の染色体によって構成されています。

染色体には、1~22番までの常染色体と、性別を決定する性染色体があり、卵子・母親からの常染色体22 本+性染色体1本、精子・父親からの常染色体22本+性染色体1本(=合計46本)を受け継ぎます。

通常、母親由来、父親由来でそれぞれの染色体を1本ずつ受け継ぐため、染色体は2本ずつペアになります。しかしながら、どこかの染色体が半分の1本だけだったり、反対に多く3本だったりすることがあります。(※1本だけしかない場合をモノソミー;monosomy。3本ある場合をトリソミー;trisomyと呼びます。)

先述した通り、染色体はヒトを造るための設計図であり、46本の染色体によってヒトが構成されるため、染色体の数に過不足がある場合にはヒトを成すことができません。そのため、胚の染色体の数に過不足がある(異数性)ケースでは、ほとんどの場合で、そもそも着床をしないか、たとえ着床ができたとしても極めて高い確率で流産や死産となってしまいます。

日本産科婦人科学会の報告によると、流産の原因のおよそ70%以上は胎児・胚の染色体の異常によるものであると示されているため、胚の染色体の数に過不足が無いことが妊娠を継続する上では非常に重要となります。しかしながら、染色体の数が正常(正倍数性)かどうかは、胚の形態的な見た目や発育の観察だけでは判断することができません。

そこで、胚移植を行う前の胚盤胞から細胞の一部を採取し、PGT-Aを行うことで染色体の正倍数性を調べ、染色体に過不足が無い胚を子宮に戻していくことで、流産の可能性を顕著に低下させて治療を進めることができるわけです。

PGT-Aのメリットについて

(1)流産を減らせる可能性

まず、PGT-Aの最大のメリットとして期待されているのは「流産率を下げる」効果です。

先にも解説した通り、日本産科婦人科学会の報告によると、流産原因のおよそ70%以上は胚の染色体の異常であることが示されています。

PGT-Aによって、正倍数性の胚を選別していくことで、染色体の数的異常による異数性胚由来の流産を回避できる可能性があります。

(2)胚移植の回数を減らせる可能性

次に挙げられるのは、胚移植の回数を減らすことができる可能性です。

例えば、3個の凍結胚盤胞を保管しているとします。PGT-Aを実施しない場合では、基本的にはグレードの上位のものから順に戻していくため、妊娠に至らなければ3回の移植を続けていく形となります。

一方で、PGT-Aを実施した場合、染色体の数が正倍数性では無い胚(異数性胚)は移植から除外されるため、もし3個のうち1個だけが正倍数性の胚であれば、胚移植の回数は1回で済み、しかも赤ちゃんになる可能性の高い胚だけを子宮に戻すことができます。

(3)治療の効率が上がる可能性

上記の形で、胚移植の回数を減らし、赤ちゃんになる可能性の高い胚のみを移植することができれば、治療をより効率的に進めることが可能となります。

受精卵・胚側の染色体が正常であることがある程度担保されているため、胚由来の流産の確率を下げることで治療周期の開始から妊娠・出産までにかかる期間を短くしたり、総合的に見た時に治療の費用を減らしたりすることができる可能性があります。

ただし、胚移植を行うためには、胚が正常であることが条件となるため、正倍数性の胚が得られない場合には胚移植まで進むことができず、治療が停滞してしまうこともあることを予め知っておく必要があります。

(4)身体的な負担を軽減させる可能性

最後に挙げられるのは、身体的な負担を軽減させる可能性についてです。

胚移植後に流産となるケースの中に「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」があります。稽留流産とは、子宮の中で胎児が亡くなり、胎児や胎囊だけがそのまま中に留まってしまっている状態のことをいいます。

多くの場合、妊娠12週未満の妊娠早期に起こり、自然に子宮から排出されるのを待つか、手術によって子宮内容物を除去する必要があります。手術を行う場合には当然ながら、身体的な負担が多く掛かるほか、早産など妊娠時のリスクも増加させます。

PGT-Aによって流産の可能性を低下させることで、このような身体的な負担を減らすことができます。

PGT-Aのデメリットについて

(1)検査結果が100%確実なものではない

最初にデメリットとして挙げられるものが、検査結果が100%確実なものではないということです。

PGT-Aで検査されるのは、胚から採取した一部の細胞のみであるため、胚のすべての状態を反映しているわけではありません。通常、胚の細胞生検で採取されるのは、着床した後に胎盤へと成長する組織である栄養膜細胞(TE; trophectoderm)の一部分のみであるため、実際に胎児へと成長する組織である内部細胞塊(ICM; Inner Cell Mass)とでは、細胞内の情報に違いがあるのではないか?とする研究論文が報告されています。

つまり、PGT-Aを実施したTEの一部分だけが正常であっても、その他の細胞、特に胎児になるICMに数的異常がある異数性胚であった場合は、移植が可能と判定され移植まで進んでしまう可能性があります。このような症例を『偽陰性』といいますが、移植をしても着床しないか、着床しても流産・死産の予後となります。また反対に、『偽陽性』といいますが、本来であれば移植が可能で妊娠まで進む可能性のあった胚が異数性胚と判定されてしまい、廃棄となってしまう可能性もあります。

(2)胚由来ではない流産は防ぐことができない

次に挙げられるのが、胚に由来しない流産は防ぐことができないということです。

PGT-Aで期待されている「流産率を下げる」効果は、あくまでも胚の染色体の異常に由来する流産のみであり、母体側やその他の理由に起因する流産は防ぐことはできません。例えば、免疫系の障害に伴う不育症の症例では、もともとの流産の原因が胚に起因していないため、PGT-Aを行っても流産率を下げる効果は期待できません。また、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの婦人科系疾患が着床・妊娠の障害となっている場合も、PGT-Aはあまり有効な方法とはなりません。

特に、このような婦人科系疾患は、産婦人科・生殖医療の分野ではなく外科的な領域となるため、生殖医療が専門の医師では子宮筋腫や子宮内膜ポリープが妊娠にどのくらい影響が出るのかを判断することができないこともあります。実際は、妊娠が難しい状態であるにも関わらず放置され、胚由来の影響ばかりを疑われるというケースも少なくありません。

(3)細胞生検が胚にダメージを与える可能性がある

3つ目に挙げられるデメリットは、細胞生検が胚にダメージを与える可能性です。

PGT-Aを実施するには、胚から細胞の一部を採取する細胞生検という手技が必要となります。細胞生検では、胚盤胞の栄養膜細胞からおおよそ5個くらいの細胞をちぎり取るため、言い換えれば人為的に胚を傷付ける操作を行っています。結果論にはなってしまいますが、もしも検査した胚が正倍数性であった場合は、ただ胚を傷付けただけになってしまいます。

よほど胚の状態が悪くない限りは、細胞がバラバラ、ボロボロになってしまうことはほぼありませんが、細胞生検による負荷が、胚移植の結果や妊娠の予後、胎児や出生後の赤ちゃんにどのような影響を与えるのかはたびたび指摘され、学会等で現在でも議論が続けられています。

(4)検査費用・治療費用が高い

最後に挙げられるのが、やはり検査費用が高いという点です。

2022年の4月から不妊治療の保険適用化がスタートしましたが、PGT-Aは現状では保険が適用されていない項目であるため自由診療(自費)でのみ認められている手技になります。

保険診療と自由診療を併用することを「混合診療」といいますが、日本では原則として混合診療が禁止されているため、PGT-Aを行う場合には治療の最初から最後まで首尾一貫すべて自費で行う必要があります(※採卵は保険で、PGT-Aは自費で‥‥ということが原則として違法とされています)。このことから、PGT-Aを受ける場合には、保険適用化による恩恵を一切受けることができず、保険診療での体外受精と比較すると治療あたりのコストが大幅に増加します。

メリット・デメリット以外に知っておくべきポイントは?

上記以外に知っておくべきポイントとして、非常に重要なものに『モザイク胚』の存在があります。

モザイク胚とは、PGT-Aを実施した時に、検査された胚の細胞の中に正倍数性の細胞(正常)と、異数性の細胞(異常)が混在していることをいいます。

正常も異常も混ざっているため、予後を予測することが極めて難しく、その取り扱い方については、現在も世界中で研究が続けられている段階です。正常な細胞と異常な細胞がどのくらいの割合ならば移植をしてもよいのか?どのような所見が認められたら移植をするべきではないのか?など、未だ明確な規定・基準が無いため、クリニックによってもモザイク胚の処遇が異なります。

検査機関によっては、膨大なデータに基づいて一定のパターンのモザイク胚であれば移植しても問題無い、あるいは移植は避けた方が良い、と判定してくれるところもありますが、それでもやはりリスクがまったく無いというわけではありません。モザイク胚でも、健康な児が産まれたという症例報告もあるものの、患者様によっては、モザイク胚は異常胚と同等という扱いで一律で破棄を希望される方もいらっしゃいます。

PGT-Aはどんな人が対象になる?

ここまで解説してきた通り、PGT-Aには多くのメリットがある一方でデメリットも挙げられる検査であるため、現段階では希望すれば誰でも受けることができる検査というわけではありません。

検査の対象となるのは、

  • 過去に2回以上、良好な胚を移植しているにも関わらず着床に至らない方(反復ART不成功症例)
  • 過去に2回以上、胎嚢が確認できた後の流産・死産の経験がある方(反復流産症例)

のいずれかで、上記の①または②に当て嵌まる場合であっても、夫婦のいずれかあるいは両方に染色体の均衡型構造異常が認められる方、子宮の形態異常が認められる方、抗リン脂質抗体症候群の既往のある方、その他特定の合併症を有する方などでは、PGT-Aの対象にはなりません。

検査には費用はいくらぐらいかかる?

PGT-Aは、すべて自由診療(自費)項目で実施されるため、各クリニックが設定している自費での体外受精費用に加えて、胚1個あたりおよそ60,000~100,000円程度の費用がかかります。

例えば、1個88,000円(税込)と設定しているクリニックであれば、採卵によって胚盤胞が5個発育すれば[88,000×5=440,000円]が検査代金として体外受精の費用とは別にかかります。

検査費用は、地域やどこの検査会社を利用しているかによっても変わってきますが、主な内訳は細胞生検の技術費・物品費と染色体の解析費です。PGT-Aに限らず、染色体や遺伝子の解析は、総じて検査費用がやや高い傾向があります。

この他に、施設によって異なるものの、PGT-Aを受ける前に遺伝の専門医によるカウンセリングや、ご夫婦の染色体の検査、不育症のスクリーニング検査などを受ける必要があることもあり、それぞれの段階で別に費用が発生します。

実施できる医療機関はどこ?

PGT-Aはどこの医療機関でも実施しているというわけではありません。

“基本的”には、医学的ならびに社会的な視点から実施に必要な条件を満たし、日本産科婦人科学会によって認定された施設でしか受けることは出来ません(※一部、研究の目的などで実施している医療・研究・教育機関は除きます)。

[認定施設は、こちらのURLから検索することができますので、参考にしてみてください。]

しかしながら、日本産科婦人科学会の認定を受けていない無認可の施設でも、PGT-Aが実施されていることがあります。というのも、先述した通りPGT-Aは自由診療(自費)項目の検査であるため、混合診療にならなければ無認可の施設であっても検査を行うこと自体は法律で禁止されているわけではないからです。

ただし、日本産科婦人科学会から認可を受けているわけではないため、必ずしも安全性、衛生性、信頼性、品質、精度などが担保されているわけではありません。

一方で、認可施設よりも検査費用が安かったり、都道府県によっては1~2箇所しか認可施設がない地域もあるため、「グレーゾーンなのは理解しているが、検査をしてくれて有難い」という患者様の声も聞かれます。

PGT-Aを検討される場合には、検査内容やリスクなどを十分に理解した上で、あらためて慎重に判断されるようにしてください。

まとめ

今回は、PGT-A(着床前遺伝学的検査)について詳しく解説をしてきました。染色体の正倍数性・異数性、モザイク胚など、かなり難しい専門的な内容も多いPGT-Aですが、今回のコラムを通して、メリット・デメリットなど、あらためてご理解をいただけたのではないでしょうか?

中には、このようなPGT-Aに関するリスクや、検査内容、メリット・デメリットを十分に患者様に説明せず、一方的に検査を進めてしまう施設があるということも実際に耳にします。

『インフォームドコンセント』といいますが、患者様側には、医療行為を受ける前に医師や医療スタッフから十分な説明を受ける権利が、そして医療者には、患者様に説明をする義務があります。

まずは、過去の治療歴などからご自身が対象になるかどうかを含めて医師に相談いただき、実際にPGT-A検査を受けることを検討されるという場合には、検査の内容や費用、リスクのほか、認可施設かどうかなどをご夫婦で十分に理解した上で、是非とも慎重に判断をしていただけたらと思います。

これ以外にも、PGT-Aについてご不明点やご不安なことがあれば、いつでもわれわれファミワンにご相談ください!

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