冬を楽しむために、見落とされがちな危険と命を守る知識₋ 家族と自分を守るための冬のレジャー安全ガイド -

スキー、スノーボード、雪遊び。冬は非日常を楽しめる最高の季節です。忙しい仕事の合間に家族や仲間と雪山へ向かう時間は、心身のリフレッシュにもなります。しかし冬のレジャーが原因で、取り返しのつかない健康被害につながったケースもたくさんあります。それらの多くは運が悪かったのではなく、正しい知識があれば防げた事故や病気です。

本稿では、準備段階・現地での行動・帰宅後にわたって見落とされやすく、かつ重大になり得る危険を挙げ、それぞれ「なぜ危ないのか」「どのように備えるか」「起きてしまったらどうするか」を、お話させていただきます。

準備の落とし穴:防水スプレーの室内使用は命に関わる

ウインタースポーツの準備で真っ先に思い浮かぶのが、防水スプレーではないでしょうか。防水スプレーは便利ですが、室内や車内での使用は重大な呼吸器障害(化学性肺炎、急性肺障害)を引き起こすことが報告されています。閉鎖空間で霧状の粒子を吸入すると、吸入直後または数時間後に強い咳・呼吸困難・胸痛を呈し、稀ではありますが急性呼吸不全に至る事例も国内で報告されています。家庭で夜に短時間で済ませようと室内で使うことが、時に取り返しのつかない結果を招くのです。

対処と予防

  • ● 必ず屋外で使用し、風上からスプレーする。周囲に人やペットがいないことを確認する。
  • ● 風が弱い日でも屋根の下の換気の悪い場所は避ける。玄関や浴室、車内は厳禁。
  • ● 大量一度噴霧より、規定量を守って使用する。使用後は一定時間(製品表示参照)近づかない。
  • ● 万が一、使用後に激しい咳や息苦しさが出たら早めに医療機関受診を。症状が急速に進むことがあります。

冬場に増える心血管イベント:寒さは血管にとって過酷なストレス

冬は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡が増える季節です。寒冷により皮膚血管は収縮し、全身血圧が上がることで心臓に負担がかかります。実際、外気温の変動と心血管系の発症率や死亡率には関連が指摘されており、特に高齢者や持病のある方はリスクが高くなります。

とくにリスクが高い条件

  • ● 年齢:40歳以上(とくに高齢になるほどリスク増)
  • ● 既往:高血圧、糖尿病、脂質異常、冠動脈疾患の既往
  • ● 生活習慣:喫煙、運動不足、寝不足や脱水
  • ● 環境要因:早朝出発、寒暖差の大きい屋外→屋内の暖かさ→再び外へ、重い運動負荷の急激な導入

スキー場では朝早く出発する方が多く、また旅行中の夜更かしによる睡眠不足、ホテル内と外との寒冷環境、急な運動負荷が一気に重なり、ゲレンデで倒れた、宿泊先で胸痛が出たなどの循環器疾患を発症するケースは珍しくありません。冬のレジャー前こそ、ご自身の体調のチェックが必須です。

予防策

  • ● 旅行前に自己チェック(血圧、服薬確認、睡眠確保)。
  • ● 服薬は慌てていて飛ばす事がないように注意する。
  • ● 寒い朝は急に激しい運動をしない。まずは十分なウォームアップ(ストレッチや心拍を徐々に上げる)を心がける。
  • ● 心臓疾患の既往がある方は事前に担当医と相談し、場合によっては活動の制限や同行者への説明、救急時の対応を話し合っておく。

寒いのに起きる“脱水”と、濡れたままの低体温

普段寒いと喉が渇きにくく、つい水分補給を怠りがちです。しかし雪山では呼吸による水分損失や運動での発汗などで常に体の中の水分が失われています。脱水は血液をドロドロにし、血栓を作りやすくすし、筋肉のパフォーマンスを低下させるため、結果として転倒・骨折・心血管イベントにつながります。ホットドリンクで一時的に満足しても根本的な水分補給が足りないことがあるため注意が必要です。

また濡れたウェアを着たままいると、体温が奪われやすく軽症〜中等度の低体温症に陥ることがあります。低体温は判断力を低下させ、ケガのリスクや重症化につながるため侮れません。救急ガイドラインでも低体温や熱関連疾患のリスク管理が重要とされています。

対処法

  • ● こまめな水分補給を行う。
  • ● 濡れたらすぐに着替える。防水・透湿素材を適切に使う。
  • ● 体調変化(めまい・ふらつき・著明な疲労など)があれば無理をせず休む。

転倒・外傷は「年齢」で負担が変わる

ウィンタースポーツで起こりやすい外傷には、靭帯損傷や半月板損傷、肋骨骨折、手首の骨折などがあります。
脚や手首、肋骨の骨折と聞くと、命に関わるほどではないと感じる方も多いかもしれません。しかし、同じ骨折でも、若い世代と40代以降とでは回復のスピードも、その後の生活への影響も大きく異なります。

年齢を重ねると、靭帯や腱といった軟部組織は少しずつ弾力を失い、損傷した際の治りが遅くなる傾向があります。さらに、骨密度の低下が進んでいる場合には、転倒そのものが骨折につながりやすく、治癒にも時間を要します。
少し休めば治るだろうと思っていたケガが、仕事復帰の遅れや日常生活の制限につながることは、決して珍しくありません。

整形外科の診療ガイドラインでも、年齢に応じた転倒予防と骨折予防の重要性は繰り返し強調されています。ウィンタースポーツを楽しむためには、無理をしない判断と、身体の変化を受け入れた安全意識が欠かせません。

アドバイス

  • ● 年齢や運動歴に応じた無理のない滑走を心掛ける。
  • ● ストレッチと十分なウォームアップ、特に下肢の筋力・バランス強化を日常的に行う。
  • ● 骨折リスクが高い人(既往に骨粗鬆症がある、閉経後女性、過度の飲酒や喫煙)は、装具やプロテクターの活用を検討する。
  • ● 受傷後は適切な医療機関で受診し、画像・機能評価に基づいた治療計画を立てることが大切です。遅延は回復を遅らせます。

当日の行動指針

出発前(前日〜当日朝)

  • ● 防水スプレーは必ず屋外で。換気の悪い場所では絶対に使わない。
  • ● 睡眠は最低6時間(理想は7時間前後)。睡眠不足は心血管イベントや注意力低下のリスクを上げる。
  • ● 常用薬の確認・携帯(血圧薬や抗凝固薬などは特に重要)。担当医に短期のレジャー計画を伝えておくと安心。
  • ● 飲水計画(保温ボトルに温かい飲み物+スポーツドリンクを準備)。

現地/当日

  • ● 到着後は必ずウォームアップ(10〜15分の段階的な負荷増加)。
  • ● こまめに水分を摂る(行動中の小休止ごとに)。汗をかく量は寒さでも侮れません。
  • ● 体調不良(胸痛・強い息切れ・めまい・片側のしびれなど)が出たら即中止、救護所または救急要請。
  • ● 子どもや高齢者が一緒の場合は、移動と休憩の時間を十分に取る。無理な時間割は事故につながります。

帰宅後

  • ● 強い咳・呼吸苦、胸痛、片側のしびれ・言語障害などがあればすぐに救急受診する。
  • ● 転倒して痛みが強い場合は自己判断で様子見にせず、整形外科での評価を受ける。

最後に

最後に、ウインタースポーツをするにあたり大切な事2つは準備をしっかりとすること、そしてご自身の身体を大切に扱うことです。準備というのは、荷物を揃えることだけではありません。しっかり眠ること、いつもの薬を忘れずに管理すること、こまめに水分をとること、そして「無理をしない」という判断を持つことも、大切な準備のひとつです。

40代を過ぎると、どうしても若い頃と同じようにはいかない場面が増えてきます。それは衰えではなく、これまで身体を使ってきた証でもあります。だからこそ、ほんの少し立ち止まって、自分の身体に目を向けてあげてください。

その小さな心がけが、冬の楽しさを何倍にもしてくれます。
この冬が、皆さまにとって安心と笑顔に満ちた、あたたかな思い出の季節になりますよう、心から願っています。

参考文献

  1. 防水スプレーの吸入により急性肺障害を呈した一例
  2. 防水スプレー吸入により肺傷害をきたした一例
  3. 冬季の室内寒冷曝露による健康影響に関する疫学研究
  4. 気温が心血管疾患に及ぼす影響について(総説2023–2024)
  5. 日本循環器学会/循環器病ガイドラインシリーズ— 循環器診療に関するガイドライン
  6. 日本救急医学会・熱中症診療ガイドライン 2024年版
  7. スポーツと水分補給に関する一般的な実践

加齢に伴う靭帯・腱の変性と回復能の低下

企業担当者の方へ

ファミワンでは法人向けサービスとして、女性活躍推進を軸としたダイバーシティ経営を支援する法人向けプログラム『福利厚生サポート』を提供しています。従業員のヘルスリテラシー向上や、組織風土の変容に役立つのみならず、利用促進の広報資料の作成までカバーしており、ご担当者様の負荷の削減にもつながります。