【2026年最新版】胚培養士が解説するAIと不妊治療|人工知能はいかにして不妊治療に寄与しているか?

はじめに

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

2026年1月7日~8日の日程で、第31回 日本臨床エンブリオロジスト学会が神奈川県横浜市の大さん橋ホールにて開催されました。本大会は『つなげよう、未来のARTへ』をテーマに、現在のART(生殖補助医療)を未来のARTにつなげていくために、胚培養士/エンブリオロジストとして今なにを学ぶべきか?技術をどう磨くのか?といったトピックについてたくさんの学びがある学会でした。

さて、この学会で取り上げられていた講演の中に、いま話題のAI(Artificial Intelligence;人工知能)と不妊治療についてのシンポジウムがありました。加藤レディスクリニック培養部主任の上野 智先生を座長として『AIの導入がラボ業務にどのような変化をもたらすのか?』をテーマに、

◆ AIとの対話がつなぐ、切り拓かれる培養室の未来(演者:京野アートクリニック高輪 培養部門主任 奥山 紀之先生)

◆ AIを用いた画像解析による卵子評価の最前線を目指して(演者:リプロダクションクリニック東京 培養部主任 森本 高史先生)

という2つの講演が行われました。

そこで今回は、いま話題のAIが、われわれが提供している不妊治療の中でどのように使われ、どのように貢献しているのか?を胚培養士の視点から詳しく解説していきたいと思います。

AIが胚培養士の役割を担う?

高度生殖医療の治療の中では、われわれ胚培養士が評価・決定を下す機会というのが数多くあります。

例えば、

  • ● 媒精した卵子と精子が正常に受精しているか(2つの前核が確認できているか)
  • ● 受精卵の細胞分裂は進んでいるか
  • ● フラグメントの量は?
  • ● 細胞の変性は見られていないか
  • ● 細胞分裂のスピードは正常か?停止や遅延がないか
  • ● 倍数で増えているか(1→4細胞、2→5細胞などのDirect Cleavageはないか)
  • ● 凍結や移植の基準を満たす胚盤胞に育っているか

などなど多岐に渡ります。

特に、「どの胚を移植するか?」「妊娠の可能性が十分にある胚か?」は、胚培養士が行う評価・決定の中でも非常に重要な項目です。

一般的には、胚の成長やその予測については、患者様の年齢や胚の外観(形態的な見た目の評価)、男性であれば精液所見などに基づいて評価・決定を行いますが、実はこのような、従来は胚培養士が行っていた胚の観察から評価・決定までの操作を、現在、AI;人工知能が取って代わろうとしています。

実は、グレードから得られる情報はとても少ない

通常、高度生殖医療では、卵子と精子を媒精(ばいせい;受精させる手技のこと)し、胚盤胞というステージまで培養していきます。胚盤胞まで育ったら子宮の中に胚を戻す胚移植、または凍結保存をするために胚凍結を行います。

無事に胚盤胞まで育つと、胚培養士はGardner;ガードナー分類と呼ばれる国際的な評価方法に基づいて、それぞれの胚盤胞にグレードを付与していきます。

Gardner分類は、

  • ● 大きさや形態について表す1~6までの数字
  • ● 内部細胞塊(Inner Cell Mass;ICM/着床後に胎児になる部分)の状態を示すA~Cの評価
  • ● 栄養膜細胞(Trophectoderm;TE/着床後に胎盤になる部分)の状態を示すA~Cの評価

からグレーディングされます。

例えば、4ABであれば

  • ・4:大きく拡張した胚盤胞(拡張期胚盤胞)
  • ・ A:内部細胞塊の細胞数が多く密集している
  • ・ B:細胞数はある程度多いがやや薄い箇所がある、ややフラグメントが認められる

といったように付与されていきます。

この『グレード』については聞いたことがある方も多いのではないかと思いますが、実はGardner分類によるグレードは、胚盤胞の“形態的”な評価を示したものであり、簡潔に言えば、胚培養士が顕微鏡を覗いて胚を観察した時に「どれだけ胚がきれいな状態に見えるか?」という“見た目”の評価に過ぎません。

グレードが良好であるほど着床・妊娠率が高くなることは確かなのですが、必ずしもグレードと妊娠率が釣り合うというわけでは無く、残念ながらこのグレードだけでは、それぞれの胚の本当のポテンシャルを推し量ることは不可能なのです。

従来の受精卵の培養方法が抱えていた“課題”

グレードだけでは胚のポテンシャルを十分に反映することが困難となると、別の手段でそれぞれの胚の特性を評価していく必要があります。

例えば、時には患者様の治療背景や体質にまで遡る必要がありますし、男性側の要因も当然ながら注視する必要があります。そして、なんといっても、胚がどのように受精し、どのように発生していったのか、その“成長の過程”というのを知ることも非常に重要です。

通常、受精卵はインキュベーターと呼ばれるいわゆる培養器の中で発育していきます。インキュベーターは、温度や湿度、気層環境(ガス濃度)、pHなどが女性のお腹の中に近い状態に維持・管理されており、受精卵は採卵した日から最大で一週間、インキュベーターの中で発育をしていきます。

胚がどのくらい成長してきたかを確かめるには、当然ながら胚の観察を行う必要がありますが、従来、胚培養士が胚の観察を行う際には、インキュベーターから一度胚を取り出して、顕微鏡下に設置してから観察を行う必要がありました。

しかしながら、先述した通り、インキュベーターの中は、温度・湿度・気層・pHが女性のお腹の中に近い環境になっており、われわれが普段生活しているインキュベーターの外の世界は、胚にとっては非常に大きなストレスとなる環境です。そのため、観察を行う時にインキュベーターの外に胚を取り出すことは、胚に対して人為的にダメージを与えている可能性が指摘されていました。

また、上記の理由から、なるべくインキュベーターから胚を取り出さないようにするため、一週間の培養期間の間、観察のタイミング・回数も限られており、胚の特性を評価していく上では、いわゆる「定点的」な観察からでは得られる情報が極めて限られていました。これが、従来の胚培養における“課題”でもあったわけです。

タイムラプスインキュベーターのここがすごい!

そこで近年、日本中のクリニックで少しずつ使用されるようになってきているのが『タイムラプスインキュベーター』と呼ばれる培養器です。

タイムラプスインキュベーターは、培養器の中にカメラが内蔵されているタイプのインキュベーターのことで、胚をインキュベーターの外に取り出すことなく、24時間好きなタイミングで胚を観察することが可能です。

また、内蔵されているカメラは、おおよそ10分おきに自動的に培養中の胚の観察+撮影を行うため、従来の「定点的」な観察では無く「連続的」な観察を行うことが出来るようになりました。

この「連続的」な観察によって、従来の観察では知ることができなかった受精→分割→細胞融合→胚盤胞の拡張といった“受精卵の成長の過程”を、撮影された胚の画像を繋ぎ合わせることで、パラパラ漫画のように動画で追うことも可能となりました。

このように様々なメリットを生み出したタイムラプスインキュベーターですが、これまで見ることができなかったものが可視化できるようになったことで、“受精卵の異常な発育パターン”というのも発見されるようになりました。

それが、『Direct Cleavage;ダイレクトクリーヴェージ』と呼ばれる現象です。

通常、受精卵は受精後に1細胞期→2細胞期→4細胞期→8細胞期と、細胞分裂を繰り返して細胞の数を倍々に増やしながら成長していきます。しかしながら、異常な発育パターンとして1細胞の状態から一気に4個以上の細胞へと分割するダイレクト4(あるいはストレート4)という発生過程を経る胚が一定数あることが分かってきました。このような1細胞期から4細胞期以上、あるいは2細胞期から5細胞期以上に細胞が増殖する胚のことをDirect Cleavage胚(DC胚)と呼びます。

DC胚は、そのまま培養を継続すると、最終的に“見た目上”はきれいな胚盤胞に育つことがあるのですが、正常な発生過程を経た胚と比較すると、胚移植対着床・妊娠率は有意に低く、学会などでは出産例も報告されているようですが、胚培養士としての私自身の臨床経験では、数えられるほどのごく僅かなケースしか出産まで至った症例はありません。

先述した通り、従来の方法のような時間ごとにインキュベーターから胚を取り出して確認する「定点的」な観察の場合、DC胚だと認識できずに継続して培養を行い、最終的に胚盤胞まで成長してしまうと「きれいな胚盤胞だから」とそのまま移植してしまうことがほとんどでした。

しかしながら、タイムラプスインキュベーターの登場によって異常な発育パターンを検出することが可能になったため、このような発育パターンの胚を除外したり、凍結・移植の優先度を下げたりすることができるようになりました。

“成長のクオリティ”をAIが評価する

さらに近年、タイムラプスインキュベーターは革命的な進化を遂げ、AI;人工知能による胚の評価・解析機能が搭載されたモデルのインキュベーターが登場しました。

卵子と精子を媒精させたところを起点として、

  • ● 受精の反応が発現するまでの時間
  • ● 雌雄2つの前核が認められるか
  • ● 分割が開始するまでの時間
  • ● 細胞が分割する時のフラグメントの量や細胞の動態
  • ● 細胞内に多核が認められていないか
  • ● 1回目の分割から2回目の分割までの時間
  • ● 4細胞期までの到達時間、8細胞期までの到達時間
  • ● 桑実期胚(Morula)への発生
  • ● 内部細胞塊の評価、栄養膜細胞の評価
  • ● 拡張(Expanding)の動態

などについて、数十万~数百万個以上の胚のデータを分析することでAIアルゴリズムを構築し、胚の発育と着床・妊娠にいたるパターンと特性を学習させて、Gardner分類のような“見た目”のグレードではなく、胚の“成長のクオリティ”に対してスコアリングをするということが可能になりました。

例えば、先述したようなDirect Cleavageを認めた場合には、最終的にどんなにきれいな状態の胚盤胞に成長していたとしても、このスコアリングが大幅に下がるように学習されていますし、2つ前核が認められない異常受精の胚の場合には、移植・凍結の候補から除外されます。

では、「このAIの解析技術はどのくらい優れているのか?」「信憑性に足りるのか?」ということですが、これについてはすでに日本を含め世界中で学術的な研究発表が数多く行われており、《高度な訓練受けた高い技術・知識を持ち合わせているベテラン胚培養士による胚の選択 vs 人工知能による胚の選択》において胚移植対着床・妊娠率の比較を行った結果、AIもベテランの胚培養士と同じくらい優れている‥‥というよりも、ベテラン胚培養士のレベルになって、やっとAIと同じくらい胚の選択能力になるということが証明されています(すでに人工知能おそるべし‥‥なのです)。

このような、臨床において国際的に使用されているAIスコアリングシステムには現在いくつかのバリエーションがあります。

日本のタイムラプスインキュベーターを導入している施設では、

  • ● Vitrolife K.K(本社:スウェーデン)
    インキュベーター:EmbryoScope+(エンブリオスコーププラス)
    iDA ScoreやKID Scoreと呼ばれるAIモデルが搭載されており、胚の成長過程から半自動的に胚のスコアリングを算出することが可能

  • ● 株式会社Astec(本社:日本)
  • インキュベーター:CCM-CHRONOS(クロノス)
  • AI胚評価ツールの「Life Whisperer(ライフウィスパラー)」との互換性があり、投影された画像から妊娠の可能性を予測することが可能

などが主流で、比較的多くのクリニックで使われていると思います(※ちなみに、私が室長を務めている生殖医療クリニック錦糸町駅前院では、EmbryoScope+とiDA Scoreを導入しています)。

ただし、タイムラプスインキュベーターやAIの導入には難点もあります。それは、導入するためのコストがめっっっっっちゃくちゃ高い‼‼‼ということです。

高い機種だと、この一台だけでなんと地方の一軒家が買えてしまうほど‥‥。現在、タイムラプスインキュベーターは『先進医療』という枠組みになってはいますが、中・小クリニックや地方のクリニックではなかなか簡単には導入できるものではなく、残念ながら、どこの施設でもその恩恵を容易に受けられるというものではありません。

まだまだ完全では無い側面も‥‥

と、ここまで「いまタイムラプスインキュベーター&AI解析がアツい‼」ということをお伝えしてきましたが、やはり医学的な視点から『もう一歩足りない部分』というのも当然ながら存在します。

その一つが、AIによって生成されたデータの“解釈”です。

≪注意≫ここからは少し難しいお話しになりますので、是非覚悟して読み進めていただきたいです。

まず、ヒト(人間)は46本の染色体によって構成されています。染色体とは、細胞の中に存在する遺伝子(DNA)の集合した構造体のことで、よく『染色体=ヒトを造るための設計図』と表現されます。

ヒトの染色体には、1~22番までの常染色体と、性別を決定する性染色体があり、卵子・母親からの常染色体22 本+性染色体1本、精子・父親からの常染色体22本+性染色体1本=合計46本を受け継ぎます。この46本の染色体によってヒトが構成されているため、染色体の数が多かったり、少なかったり、といった過不足がある場合にはヒトを成すことができません。

正常な数の染色体を持つ胚を『正倍数性胚(euploid embryo)』、過不足のある胚を『異数性胚(aneuploid embryo)』と呼びます。日本産科婦人科学会の報告において、流産原因のおよそ70%以上が胎児・胚の染色体の異常によるものであることが示されている通り、異数性胚の場合には着床障害や流産、染色体異常を伴う児の出産に結び付きます。

高度生殖医療においては、治療によって生み出されるヒトの胚の中には、患者様の年齢に限らず正常な数の染色体を持たない異数性胚が一定数存在するということが数多くの学術研究より明らかになっており、「いかにして異数性胚を特定し、排除するか?」が生殖医療業界における課題でもあります。

そして残念ながら、タイムラプスインキュベーターやAI解析だけでは、胚の染色体に数的な異常があるかどうかを完全に把握することは不可能で、詳しく調べるということもできません。

現在、胚の異数性を調べる方法としては『Preimplantation Genetic Testing(PGT);着床前遺伝学的検査』が一般的に行われていますが、PGTは、発育した胚盤胞の細胞の一部を切除するという侵襲性のある(物理的な負荷、ストレスを与える)手技を伴うため、細胞生検による負荷が、胚移植の結果や妊娠の予後、胎児や出生後の赤ちゃんにどのような影響を与えるのかがたびたび指摘され、学会等で現在でも議論が続けられています。

AI解析がPGTの役割を担うのではないか?という研究報告もいくつかありますが、AIによって高いスコアリングが付けられた胚であっても、PGTの結果、異常が認められる胚というのもしばしばあります。将来的に、AI解析がPGTに取って代わることができれば、胚にダメージを与えること無く正常・異常の有無を知ることができるようになるわけですが、現状としては、AIが生成したデータの“解釈”についてはまだまだ精査・改良していく必要があるという段階です。

まとめ:AIの進化が生殖医療の未来を変える!!かも?

さて今回のコラムでは、[【2026年最新版】胚培養士が解説するAIと不妊治療|人工知能はいかにして不妊治療に寄与しているか?]というタイトルで、人工知能が、現在の不妊治療の中でどのように使われているのかについて解説をしてきました。

ご存知の通り、生殖医療の領域に限らず、AIは目まぐるしく進化をしており、2030年にはAI技術の普及により、世界GDPを最大で約15.7兆ドル(約2,300兆円)押し上げるのではないか、という試算も予測されているほどです。

これまで、生殖医療の歴史を築きながら蓄積された膨大なデータが、人工知能へと学習され、そして、現在の生殖医療へ貢献している‥‥と考えると感慨深いものがありますが、その反面、「実際に胚培養士が積んだ臨床での経験よりも、AIの方が優れた選択をするのではないか?」「将来的に若い胚培養士たちがAIに頼り、技術や知識の研磨をしなくなるのではないか?」という不安もあり、やや複雑な心境でもあります。

また、現実的な問題として、ハルシネーション(AIが実際には誤っている情報を正しい情報と誤認識して回答してしまうこと)やサンプリングバイアス(もともとの学習データが、実際の適用対象を代表していない偏った標本であること)といったマイナスな面も様々な分野で指摘されており、AIを私たちの生活の中で最大限に活用できるのはいつになるか?と考えた時には、もう少し時間がかかるのかもしれません。

しかしながら、今回のコラムでも解説してきたように、すでに不妊治療においてはAI解析が広く活用されるようになってきており、治療に中にもかなり深く溶け込むようになってきています。

人工知能のさらなる進化は、生殖医療の未来を変えていくのかもしれません。もしもこのコラムも実はすべてAIが書いているとしたら‥‥皆さんは気付きましたか?

(※一応、注意書きを添えておきますが、7000字以上にわたって長々と読みにくく書かれてしまった本コラムは、AIを使用せずに執筆しています。著:ファミワン胚培養士 川口優太郎)

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