妊活のためのコミュニケーションスキル
Frustrated woman for man not helping housework

妊活のために大切なコミュニケーションスキル

パートナーさんとの間に、こんなやり取りを経験したことはあるでしょうか。

やりとり例①

妻「私達もそろそろ妊活始めない?」
夫「そういうのは自然に任せればいいんじゃないかな」
妻「1年以上子どもができなければ妊活を考えた方がいいって聞いたよ」
夫「へ~、そうなんだ。子どもは授かりものだし、あんまり焦らなくてもいいと思うけどね」

やりとり例②

妻「今日がタイミングの日だって言ってあったのに、どうしてこんなに遅いの!?」
夫「仕方ないだろ、仕事なんだから」
妻「前もそうやって遅く帰ってきたことがあったよね。こんなんじゃ、いつまでたっても子どもなんてできないよ…」
夫「勘弁してよ、疲れてるんだからさぁ…」

このようなやり取りが繰り返されると、

「パートナーは妊活に本気ではない」
「妊活の話になるといつも責められる」
「自分ばかり子どもが欲しいようで孤独な気持ちになる」

など、まるでお互いの関係に問題があるように感じてしまいますよね。

ですがここでお見せした例はどれも、自己表現の仕方、つまりコミュニケーションの仕方の問題であって、信頼関係や愛情の問題ではありません。

コミュニケーションのトレーニングの一つに、アサーション・トレーニングというものがあります。アサーションとは、自己主張とか自己表現という意味があります。

アサーションで一番大切なのは、「自分も相手も大切にすること」。そして、自分の気持ち、考え、欲求などを率直に、その場の状況に合った適切な方法で述べることです。

アサーションは自己表現の方法なので、相手を思う通りに動かすためのテクニックではありません。
よく、「パートナーが高度な不妊治療をしようとしているのをやめさせたいから説得したい」とか、「パートナーが妊活に乗り気になるにはどうしたらいいでしょう」というご相談を頂くのですが、相手を思い通りにコントロールしようと考える時点で相手の気持ちや考えを尊重していないことになります。
コミュニケーションの結果、相手の気持ちや考えが変わることはあっても、意図的に変えることはできません

Asian couple talking together in bed

アサーション・トレーニングでは、「自分と相手の考えが違うのは当然だ」という前提で考えます。
夫婦も親子も親友もどんなにお互いを知っていたとしても、気持ち、考え、望んでいることは違っていて当然です。

「子どもが欲しいよね」と言っていても実は、「子どもを授かるために不妊治療を受けたい」「治療までするのは不自然だ」といった違いがあるかもしれません。

子どもがいる人生が当然だと思っている人もいれば、そうではない人もいます。

そういった違いを知るためには、伝えるだけでなく「きく」ということが重要です。

アサーションは自己表現の方法を3つのタイプに分けて考えます。
これらは、その人が取りやすい傾向ではあるものの、「Aさんはこのタイプです」と分類するものではありません。誰でも、相手や場面、状況、話題によって、3つのタイプをそれぞれ使っています

非主張的な自己表現

非主張的な自己表現とは、自分の気持ちや考えや欲求を率直に伝えない表現で、自分よりも相手を優先する特徴があります。曖昧な言い回し、遠回し、遠慮がちだったり、小さな声で言うなど、相手に真意が伝わりにくいという特徴もあります。

冒頭でお伝えしたやり取り例①を見てみましょう。

「私たちもそろそろ妊活始めない?」というのは、「私は妊活を始めたい」という意思を率直に伝えられていない表現です。

次の「そういうのは自然に任せればいいんじゃないかな」という夫からの返しは、相手の「妊活を始めない?」に対して同意もしていないけれど、「自然に任せれば」と言っているので「子どもが欲しくないわけではないんだろうな」ということはわかります。しかし、はっきりどう思っているのかイマイチわかりにくい、曖昧で遠回しな言い方ですね。

次の「1年以上子どもができなければ妊活を考えた方がいいって聞いたよ」という言い方も、妊活したい気持ちは感じ取れるものの、自分の気持ちをオブラートに包んだ遠回しな言い方です。

最後の「へ~、そうなんだ」というのは、相手が妊活したがっているのを何となく感じ取ってはいるものの、「本格的な妊活をする必要は本当にあるの?」といった率直な疑問や思いを伝えると相手を傷付けて気まずくなるから、何となく濁してその場をおさめようとしている感じがしますね。

このように遠回しなコミュニケーションをしていると、言いたいことが相手に伝わらない、理解してもらえないストレスがたまります。怒りがつのっていつか爆発するかもしれません。

非主張的な自己主張をする背景には、葛藤・もめごと・言い合いを避けたい・嫌われたくない・察して欲しい、などの思いがあると考えられます。
その場を波風立てずやり過ごすために、問題を先送りにしてしまうことになるわけです。

攻撃的な自己表現

攻撃的な自己表現は、非主張的な自己表現とは逆で、自分の気持ちや考えや欲求は率直に表現するのに、相手の気持ちや考えや欲求を考慮しない自己表現です。

言いたいことを言うという意味では自己主張できているのですが、相手の気持ちを理解しよう・大切にしようということが欠けてしまいます。「自分は言いたいことを言っている。言わない相手が悪い」と自分の自己主張を正当化している場合も少なくありません。

攻撃的とは、口調がきつい、大声を出す、無視する、けなすといった表現方法になります。自分でもこのような表現をしてしまうことに気付いていて、何とかしたいと悩んでいる場合もあります。つい相手を責めてしまうんです、というご相談はファミワンにもたくさん寄せられます。

攻撃的な自己表現をしてしまうとき、その人は実はストレスを抱え込んでいて気付いていない場合が少なくありません。ストレスが強くイライラしやすいので、お酒やたばこに頼ったり、攻撃的な自己表現になりやすい話題を避けるために、リフレッシュと称して趣味の世界に没頭することもあります。

また、攻撃的な自己表現をされた相手は、不満や怒り、憎しみを感じます。結果的にカップルの信頼感や愛情を失ってしまうという影響があります。

攻撃的な自己表現をする背景には、自分が相手より優位に立ちたいとか、身近な人だからこそ甘えが出て、攻撃的になってしまうということも考えられます。

自分は正しいという自信がある一方で、「自分の気持ちを受け入れてもらえないなんて、自分は否定されている。正しいはずの自分を受け入れない相手は間違っている。だから攻撃する」という葛藤を抱いている場合もあります。

まじめで責任感が強い、自分の弱さや無知を認められない、忙しくて余裕がない、疲れているなども、攻撃的な自己表現の背景として考えられます。

アサーティブな自己表現

アサーティブな自己表現は、自分も相手も大切にする自己表現のことです。アサーティブな自己表現の特徴をご紹介します。

「アイ・メッセージ」を使う

「私は」を主語にした、「私はこう思う」「私はこんな気持ち」「私はあなたにこうして欲しい」という表現方法です。時には「私はあなたにこれをやめてほしい」と「No」をはっきり伝えることもアサーティブな自己表現です。

弱さを表現できること

「寂しい」「悲しい」「つらい」「自信がない」「どうしたらいいかわからない」など、弱さを表現します。「私は不妊治療について意見を求められても、知識がないからあなたの役に立つ自信がないんだ」など、自分に欠けている要素を理解して伝えることも、弱さの表現です。

肯定的なメッセージ

当たり前だと思うような行為であっても「ありがとう」「大丈夫?」「大変だったね」と相手を思いやる言葉をかけたり、「あなたのそういうところがとても素敵だね」と相手の好きなところに気づいて伝えることです。

3種類の「きく」

アサーションは自己表現ですが、相手の話を「きく」ことも重視します。「きく」には3種類あります。

 ①聞く…音が耳に入ってくる、聞こえる。受動的で、あまり意識やエネルギーを必要としない。

 ②聴く…相手の気持ちや考えや欲求を理解しようとする。積極的に耳を傾ける。

 ③訊く…質問する。相手が伝えたいこと、思っていることに関心をもつ。

自分の興味や関心ばかりを尊重して次々に質問していると、尋問や詰問のようになり、相手は責められているように感じてしまうことがあります。今、話したい時なのかどうか、話したい内容なのか、相手の様子を見ながら②の聴くと一緒に使えるとよいですね。

自己表現する権利

自己表現するのは、誰もが平等に持っている権利です。「自己表現してもよいし、しなくても良い」のです。

自分の気持ちや考え、欲求を受け止めて欲しいことを、相手に求めても良いのです。
あなたが真剣に考えたいことに対して、相手が「気にしすぎだよ」とか「そんなに気負わなくてもいいんじゃない?」と軽く扱われた時は、「もしかしたらあなたは気にしすぎだと思うかもしれない。でも、私にとってはとても大切な問題で、あなたと一緒に話し合いたいと思っている。私が大切にしたい気持ちをあなたにわかってほしい」と伝えて良いのです。

また、どんなに相手を大切にしたくても、余裕がなかったり自信がない時、不安なとき、相手を傷つけてしまうこともあります。

そんな時は、相手を傷付けたことをきちんと謝って、修復する努力をしましょう。

アサーションには「自己表現しない権利」もあります。例えば、パートナーが疲れている、言いたいことはあるけれど今は相手の準備ができていないときは、「言わない」という選択をすることができます。

「同僚や友達、実家の親族に妊活していることを言いたくないな」

「妊活の話題になると好き勝手にアドバイスをされたり、変に気を遣われるんじゃないかな」

そんな心配があるときには、「言わない」という選択をすることができます。「言えない」のではなく、自分で選択して「言わない」ということです。

誰に対しても100%アサーティブである必要はなく、あなたが信頼している人、わかってほしいと思う人に、アサーティブでいられるようエネルギーを注いでください。わかってくれないかもしれない、相手がどう感じるかわからなくて不安だ、というときは、「今はまだ言わない」というのも大切なことです。

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