男性が妊活中にアルコールを飲んではならない切実な理由 ≪前編≫ ~妊活・妊娠中に飲酒を控えるべきなのは女性だけではない!~

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

今回は、妊活・妊娠における“男性側”の生活習慣、特に『飲酒』に焦点を当てたお話しです。

量の多い・少ないはあるにせよ、普段からお酒を飲まれる機会があるという方は性別を問わずいらっしゃるかと思いますが、実際に『妊活・妊娠においては、飲酒は極めてリスクが高い』ということを自覚しているという方は非常に少ないように思います。特に男性の方では。

また、妊活・妊娠における“女性(母親側)”の飲酒について焦点を当てた研究や「妊娠中は飲酒を控えましょう!」といったキャンペーンは数多く存在しますが、“男性(父親側)”の飲酒のリスクに関する問題は、長い間その影に隠れてきました。

しかしながら近年、様々な学術的な研究報告によって、その状況は大きく変わりつつあります。

本コラムでは、妊活・妊娠中に、男性においてもアルコールを控えた方がよい理由について、ここ数年に新たに発表された研究論文をご紹介しながら解説していきたいと思います。

なぜ妊娠中の女性はアルコールを控えるべきなのか?

そもそも、なぜ妊娠中の女性は飲酒を控えるように指導をされるのか?ということですが、現在までに報告されているものでは、古い文献を辿れば実に50年以上も前から『妊娠中の女性の飲酒に関するリスク』についての研究論文が非常に数多く存在します。
近年の報告でも、例えば2020年にアメリカの精神医学会が発刊するジャーナルThe American Journal of Psychiatryに発表された論文では、妊娠中の女性(母親側)が週にコップ1杯であっても飲酒の習慣があった場合(1)胎児の脳の発達、(2)認知機能や行動、(3)身体の形成(骨格や顔の形など)に影響を及ぼす可能性が高いことが報告されています。
これ以外にも、潜在的な影響として、産まれた子どもの(4)神経発達障害、(5)言語遅延、(6)行動・認知その他学習障害、といった複数の項目に渡るリスクについても多々指摘されており、妊娠中の女性の飲酒が胎児へ与える影響、『妊娠中のアルコール曝露=胎児へさまざまな問題を引き起こす』ということについては、長年の研究における様々な視点からの科学的なコンセンサスやエビデンスはかなり明確であると言えます。
このような、潜在的に妊娠中にアルコールの曝露の影響を受けた子どもは、胎児性アルコール症候群あるいは胎児性アルコールスペクトラム障害(FAS ; The Fetal Alcohol Syndrome、FASD ; Fetal Alcohol Spectrum Disorders)と呼ばれます。
これらの研究報告から、「妊娠中の母親が安全に飲めるアルコールの量は存在しない」というキャンペーンは何十年にも渡って行われてきました。

生殖・妊娠に関する研究は、女性(母親)に重点が置かれすぎていた

女性(母親側)のアルコール摂取に関するリスクが明らかとなった一方で、FAS/FASD のもう一つの潜在的な要因である男性(父親側)の飲酒量については、実は現在まで、ほとんど見過ごされていました。
しかしながら、FAS/FASDという疾病の存在が一般に知られるようになるにつれて、「妊娠中に一度も飲酒したことがないのにFASDの子どもが生まれた」「女性側では無く、男性パートナーがアルコール依存症だった」という報告が、世界各国で上がるようになります。
例えば、FAS/FASDの子どもでは、身体形成の障害によって子どもの顔にFAS/FASDに特有で発現する特徴を持つことが知られていますが、このような特徴が、妊娠中に一度も飲酒を行わなかった女性から産まれた子どもでも認められたというケースが報告されるようになったのです。
過去、数十年に渡る研究によって女性(母親側)の飲酒に関するリスクの確実性は明らかになったものの、女性側、特に妊娠中の胎児への影響という部分に重点が置かれすぎていたことで、近年まで男性(父親側)の影響については十分な調査が行われてきませんでした。
つまり、「妊娠する前の男性側のアルコール摂取がその子どもに影響を及ぼす」という可能性については否定的な見方をされることが一般的であったわけです。

大規模調査によって男性(父親側)にも飲酒のリスクが大きいことが明らかに!

このような常識が、2020年代に入って一変します。

2021年に、アメリカ医師会が発行する学術誌JAMA pediatricsに発表された研究では、中国で50万組以上のカップルを対象に実施された大規模調査で、母親が妊娠中に一切アルコールを摂取していなくても、男性(父親側)が、パートナーが妊娠する前から飲酒をしていた場合、口唇口蓋裂、先天性心疾患、消化管異常、神経疾患など、出生異常のリスクが顕著に高くなることを明らかにしました。

また、2020年に先天性異常予防医学の国際学会が発行する学術誌The journal Birth Defects Researchに報告された別の研究論文では、こちらも中国国内で、先天性心疾患のある子ども5,000人と、健康な子ども5,000人を比較した大規模調査で、男性側がパートナーが妊娠するまでの最低でも過去3ヶ月の間に、1日50mlを超えるアルコールを常習的に摂取した場合、産まれてたき子どもが先天性心疾患を持つ可能性が飲酒習慣の無い男性と比較して3倍近く高くなったことを明らかにしています。

男性もアルコール摂取については意識が必要

男性(父親側)の飲酒習慣が、子どもの先天性異常のリスクを大幅に上昇させてしまう可能性を考慮すると、妊娠中、あるいは出産後のリスクを減らすためにも、将来、父親になる男性は妊活中からアルコールの摂取について高い意識を持ち、量を調整することが非常に大事であると言えるでしょう。
次回のコラムでは、引き続き、男性側のアルコールを摂取が胎児の発育について影響を与える可能性と子どもが成長してからも影響を及ぼすという研究論文をご紹介していきます。

[参考文献]

  1. Briana Lees et al, The American Journal of Psychiatry, Volume 177, Number 11
    https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2020.20010086
  2. Qiongjie Zhou et al, JAMA Pediatrics. 2021;175(7):742-743.
    https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2778779
  3. Zhiqiang Nie et al, The journal Birth Defects Research. 2020 Oct;112(16):1273-1286.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32696579/

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