東京都にお住まいで、不妊治療を検討されている方、あるいは現在治療中の方に、非常に大きなニュースが届きました。
東京都は、2026年度(令和8年度)から不妊治療への公的助成を大幅に拡充する方針を明らかにしました。2022年の保険適用化という大きな転換点から4年。この予算案が成立すれば、保険診療をさらにバックアップする、都独自の画期的な支援策となります。
日々、クリニックの現場で働く看護師として、この新制度がどのように皆さまの治療を支えるのか、詳しく解説します。
これまでの振り返り:2022年4月「保険適用化」の現状
まず、現在(2022年4月〜2026年3月まで)のルールを整理しましょう。
2022年に不妊治療が保険適用になったことで、窓口での支払いは原則3割負担となりました。
● 一般不妊治療(タイミング法・人工授精): 年齢制限なく、保険診療として受けられます。
● 生殖補助医療(体外受精・顕微授精)
年齢制限: 治療開始時に43歳未満。
回数制限: 子ども1人につき、40歳未満は通算6回、40歳以上43歳未満は通算3回まで。
● 東京都の助成(これまで): 保険診療と併用して行う先進医療(自費)の部分に対してのみ、1回最大15万円が助成されていました。
この制度により、かつては1回50万〜100万円かかっていた体外受精が、高額療養費制度も合わせれば数万〜十数万円程度で受けられるようになりました。しかし、それでも「10万円前後の出費が何度も続くのは経済的に厳しい」というのが、多くの患者さまの本音だったはずです。
2026年度からの新制度:何が「画期的」なのか?
今回の東京都の発表における最大のポイントは、これまで助成対象外だった保険診療の自己負担分(3割分)に対しても、都が最大15万円の助成を出すという点です。
負担額の劇的な変化
これまで、体外受精等の保険診療にかかる自己負担額は、高額療養費制度を利用しても、1周期あたり概ね5万〜15万円程度(薬剤や治療法による)となっていました。
2026年4月1日からは、この3割の自己負担分に対しても東京都が15万円を上限に助成を行うこととなれば、窓口での実質的な負担額が平均4,000円程度(薬剤や治療法による)まで抑えられる見通しです。2026年4月以降の治療が助成対象となる予定ですので、ご注意ください。
この方針が決定されると、助成額は男女ともに治療1回15万円で、子ども1人の出産につき、39歳以下の都民は6回90万円まで、40歳以上は3回45万円までが補助されます。
さらに、この助成は女性だけでなく、男性不妊治療(精子採取術など)も同様に1回15万円を上限にサポートされる予定です。カップル二人で治療に取り組む際の経済的なハードルが、実質的にほぼ解消されることになります。
看護師として伝えたい「注意点」と「保険の壁」
制度が手厚くなる一方で、皆さまにお伝えしておかなければならないルールがあります。
この助成には、明確な条件があります。
① 「保険回数」を使い切ると助成も終了
今回の都の助成は、あくまで「国の保険診療」に連動しています。
● 39歳以下の方: 6回まで
● 40歳〜42歳の方: 3回まで
この回数を使い切ってしまうと、その後の治療は全額自費(自費診療)に切り替わります。自費診療となった場合、原則として今回の東京都の15万円助成も、従来の先進医療助成も基本的には受けられなくなります。
② 「子ども1人につき」リセット
嬉しいルールとして、出産(または妊娠12週以降の死産)を経験された場合は、これまでの利用回数がリセットされます。
第2子、第3子を希望される際、再びゼロから6回(または3回)の保険適用と都の助成が受けられます。
看護師の視点から:治療の「価値」を最大化するために
制度が手厚くなることは素晴らしいことですが、不妊治療において考えなければならないのはお金だけではありません。
「時間」のエビデンス
費用負担が軽減されることで、「少し様子を見よう」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、不妊治療において年齢が成功率に与える影響は、医学的に非常に大きなウェイトを占めます。日本産科婦人科学会のデータでも、年齢とともに妊娠率は低下し、流産率は上昇することが示されています。制度を賢く利用するためにも、適切なタイミングでのステップアップを検討することが重要です。
精神的なゆとりを治療の力に
これまでの不妊治療は、「お金がかかるから、今回で終わりにしなきゃ」という、強い経済的プレッシャーの中で行われてきました。2026年からの新制度によって、そのプレッシャーが軽減されることは、心の安定、ひいては治療への前向きな姿勢に繋がります。
私たちは、皆さまが「お金のために諦める」のではなく、「自分たちの人生のために選択する」ことを支えたいと考えています。
結びに
一人で悩まず、まずは相談を
今回の東京都の発表は、子どもを望むすべての方にとっての「追い風」です。
しかし、不妊治療のステップや方法は一人ひとり異なります。
回数制限がある中で、今の自分にとって最適な治療は何か。私たち看護師は、皆さまが最新の制度を正しく理解し、納得して治療を選択できるよう、全力でサポートいたします。
未来の家族を迎えるための第一歩を、私たちは一緒に歩んでいきたいと思っています。
参考文献・エビデンス資料
厚生労働省: 「不妊治療の保険適用について(令和4年4月〜)」.
https://www.mhlw.go.jp/content/000901932.pdf(2026年1月15日現在)
日本産科婦人科学会: 「ARTデータブック(年次報告)」.
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf(2026年1月15日現在)
東京都福祉保健局: 「東京都特定不妊治療費(先進医療)助成制度」の現行規定https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/funin-senshiniryou/gaiyou(2026年1月15日現在)
TBS NEWS DIG:「東京都の不妊治療補助 新たに体外受精なども適用拡大へ」https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2394825(2026年1月15日現在)








