不妊治療と医療費控除について

今回のコラムはロボット保険ガイド「リアほ」を展開するInsurtech企業のWDC社に執筆して頂きました。複数回に分けてお届けします。まずは一年間にかかった費用を所得税と住民税から控除できる医療費控除について。不妊治療費用も医療費控除に含まれることは知られてきましたが、どのような注意点があるのでしょうか。WDC社員であり、数多くの執筆記事を手掛ける工藤崇さんに寄稿して頂きます。

はじめに

子どもと一緒に楽しい日々を過ごしたいけれど、何かしらの理由で子どもに恵まれないかもしれない。そのような悩みを持つ夫婦の助けになるものが不妊治療です。現在、不妊治療で生まれた赤ちゃんは年間56,000人を超え、1年における出生総数の16人に1人の割合となっています(国立社会保障・人口問題研究所:第15回出生動向基本調査)。

これほどの高割合に反し、2021年まで不妊治療は全額自己負担でした。厚生労働省によると、人工授精の費用は1回平均で約3万円、体外受精は約50万円です。国が強力に推進するとアピールしてきた割には各家庭の自己負担は高額で、不妊治療を選択したがためにその後のライフプランを大きく見直さざるを得ない夫婦も増えています。2022年、国はついに重い腰を動かし、不妊治療費を公的健康保険に加えることを発表しています。両者の違いと、これにより不妊治療を進める夫婦の生活はどう変わるのか、をお伝えしていきます。

公的保険と医療費控除とは

毎月の給与明細を見ると、組合もしくは協会の健康保険料が引かれています。これは会社が単独か、同業の数社と病気になったときに医療費を補填する仕組みを作っており、その団体に加入している証明に健康保険証を配布しています。そのため病院など医療機関で健康保険証を出すと、自己負担分の費用だけで受診できる仕組みです。現役世代では自己負担額は3割のため、たとえば医療費が全体で10万円かかったとき、3万円の支払いで済みます。この保険料はお給料から半分と、会社から半分が拠出されています。

会社員の方も使える医療費控除

もうひとつの医療費控除についてです。毎年年末が近くなると生命保険の保険料控除証明書を会社に出すと思います。保険料の代わりに、1年間で医療費を支払った証明を提出するのが医療費控除です。とはいえ医療費控除は会社で行う年末調整では申請できません。

自営業の方などが行う毎年2月~3月の確定申告は、会社員の方も利用することができます。もちろん年末調整が終わっている方も対象です。数年前から住宅購入時の減税制度(住宅ローン減税)が開始され、年末調整からの確定申告を経験した方も多いでしょう。

医療費控除は支払った医療費全体分が所得税から引かれるわけではありません。まず、医療費控除として申請できるのが以下の金額です。

医療費控除の金額=10万円または総所得金額の5%のいずれか低い方を超えた医療費

つまり年間の総所得が低い方ほど多額の医療費を医療費控除として申請できる仕組みです。医療費控除は本人のほか生計を一にする家族、つまり配偶者の所得から引くこともできます。まず、公的保障と医療費控除はまったく別の仕組みで、自分にとってそれぞれどのように活用できるかを把握しましょう。

不妊治療も出産費用に含まれるとの見解

さて、医療費控除には出産費用が含まれています。出産費用は実際にかかった出産費用の総額から出産育児一時金(多くの場合42万円。2023年4月以降の出産は50万円)を引いた金額が医療費控除の対象額となります。不妊治療に関しても、この「出産費用」の定義に含まれることが当局から発表されています。不妊治療といっても定義が曖昧な部分もあるため、医療費控除の対象となるものを見ていきましょう。

(医療費控除の対象となる不妊治療)   ①人工授精・体外受精・顕微授精の費用 ②医薬品・漢方薬代 ③採卵消耗品代 ④卵子凍結保存料・保管料 ⑤マッサージ指圧師・鍼師・柔道整復師の施術費 ⑥通院のための交通費 ⑦医師の紹介状  

漢方薬や鍼・指圧は領収書を保存することを忘れずに

病院などの医療機関は不妊治療が対象になる前から、利用者に領収書を出すことが徹底されています。今回、上記表における②と⑤が含まれたこともあり、領収書を受け取らない可能性が懸念されています。不妊治療の医療費控除にこれらが含まれることを知らなかったケースなどです。

当然ですが医療費控除の申請段階になってから対象になることを知り、会員カードや通っている履歴を手帳などで証明しようとしても受け付けて貰えません。この記事をご覧になって不妊治療をこれから検討されている方は、領収書やレシートを必ず保存しておくようにしましょう。

なお⑤ですが、あん摩マッサージ指圧師、鍼などの国家資格保持者が行う治療は医療費控除の対象です。通常、健康維持を目的とした整体などは対象外ですが、病気やケガの治療は対象となります。

⑤以外の医療機関の場合も上記の表だけで判断することなく、必ず受診する医療行為が医療費控除の対象なのか、確認するようにしましょう。

なぜこれまで不妊治療は公的健康保険適用の対象外だったのか

先進医療の多くが含まれていないように、公的健康保険適用の対象は「ある程度実績があり、広く使われているもの」とされています。これまで不妊治療でたくさんの子どもが生を受けたことは国も認識していましたが、まだ一部の方が使う医療行為との認識だったため、対象外となっていました。不妊治療といっても定義が広く、何を含め何を含めないのかという議論が続いていたこともあります。

不妊治療を利用する方が増加傾向にあることに加え、少子化を危惧した菅前首相が鶴の一声で保険対象の検討を指示したことにより、急展開が進んだとみられています。2023年春、発表された2022年の出生率は統計上はじめて80万人を割り込み、国からも大きな懸念が表明されています。2022年の出生率である79.9万人という数字は、少子化を懸念する国の想定より11年も早い状況です。

1年ずれますが2021年の1年間における死亡数は143万人のため、単純計算で70万人の人口が減少している計算となります。70万人は、日本の中核都市ともいえる静岡市や相模原市(神奈川県)、岡山市の人口が1年で無くなっている計算です。今回不妊治療が保険適用の対象となったことで、少子化に歯止めがかかることが期待されます。我々の生活レベルでも少子化は影響が大きく、公的年金の維持や現在の様々なビジネスが狂いを生じ、社員の生活に影響が生まれることにも繋がります。

一方で不妊治療の負担が子どもを望む家庭の家計にとって、著しい負担軽減となることは事実です。なんとなく認識して対象外の医療行為を受けないように、あらかじめ対策しましょう。

公的健康保険適用の対象とならない先進医療は女性保険で対応

なお、不妊治療は公的保障に加え、民間の医療保険でも給付対象となることはあまり知られていません。現在医療保険に加入している方で不妊治療を始める方は、加入中の保険が不妊治療に対してどのような保障内容となっているのか、一度確認することをお勧めします。保険加入直後すぐに不妊治療を始める予定がある場合は、保険により実質上の免責期間が設定されていますので、加入商品の規定に注意しましょう。公的保障の対象とはいえ、治療期間が長くなると家計を圧迫します。民間保険を上手に活用して、上手に家計管理をしていきましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。WDCでは保険の相談をお受けしています。記事の通り不妊治療と生命保険は密接な関係があるため、ファイナンシャルプランナーに相談してみましょう。同じようなテーマで悩む方の事例を数多く受けていますので、きっと最適な回答を受けられるはずです。

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