不妊症と、樹の精霊と、ヤムイモ、のお話し ~ある国に古代から伝わる伝説 Part.➁~

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。
前回のコラム〖不妊症と、樹の精霊と、ヤムイモ、のお話し ~ある国に古代から伝わる伝説 Part.①~〗では、アフリカ・ナイジェリアに、イボ・オラという『双子の都』と呼ばれる双子の出産率が特筆して高い地域があること、そして、実際に報告されている学術論文のほか、その地域の伝承について解説をしてきました。
今回のコラムでは引き続き、イボ・オラ地域になぜ多胎妊娠が多いのか?と、ナイジェリアに古代から伝わるとある「ことわざ」と「おとぎ話」について、そして日本の食文化とのつながりについてもご紹介をしていきたいと思います。

ナイジェリアの食文化が多胎妊娠に関係しているという研究も

なぜイボ・オラでは多胎妊娠が多いのか?ということに関して、現在行われている研究で最も有力な説としては、Part.①でもご紹介したイラサやヤムイモなど、この地域でよく食べられている料理や食材に含まれているなんらかの天然由来の化学物質が、女性の身体、特に生殖器官や内分泌系に影響を与えて複数の卵胞発育を促すという可能性と、この地域に住む人々が、それらの化学物質の影響を受けやすい遺伝的な要因を持っていることが関係しているのではないか、と考えられています。

その食材の中で最も注目されているのが、ナイジェリアの主食である『ヤムイモ』です。

ナイジェリアは、ヤムイモの生産量・消費量が全世界で見ても圧倒的に多く、また、ナイジェリアでは豊穣や子宝の象徴とされており、結婚式の際にはトラックに山積みにされたヤムイモが贈られるそうです。

ヤムイモには、“ディオスゲニン”と呼ばれる免疫ホルモン(DHEAの前駆体)や性ホルモン(エストロゲンやテストステロンなど)などの前駆体となる成分が含まれており、先行研究から、このディオスゲニンには、アンチエイジングや心臓病・脳卒中などの生活習慣病を予防する効果があると報告されています。

また、体内ではエストロゲンと似た作用を持つことから、女性のホルモンバランスを整え、更年期障害を緩和させたり、月経に伴う肌荒れやイライラなどを緩和させたりする効果が期待されています。日本でも、このディオスゲニンやDHEAを主成分としたサプリメントが販売されており、婦人科領域でも注目されています。

≪ヤムイモの年間生産量≫ ※2021年データ

順位国名生産量世界での割合
1位ナイジェリア50,377,344t67.04 %
2位ガーナ8,309,911t11.06 %
3位コートジボワール7,853,084t10.45 %

ナイジェリアに古代から伝わる「ことわざ」と「おとぎ話」

ナイジェリアには、ヤムイモにまつわる言い伝えが数多く存在します。

その一つに、『子どもがイロコの樹に悪戯をしても、樹の精霊は辱められたその日のうちに仕返しをすることはないが、忘れた頃に罰を受ける』という「ことわざ」があります。

これは、何か悪いことが起きた時、それは自分が過去に犯した悪事が原因であるため、常に善い行いするように心掛けなさいというものなのですが、この「ことわざ」には、もととなった「おとぎ話」があります。

ある女の子が、イロコの樹(※クワ科の木の一種で学名Milicia excelsa)を傷つけて、樹液を出すという悪戯をします。アフリカでは、イロコの樹には妊娠・出産にまつわる精霊が宿るとされており、この精霊が胎児に魂を吹き込むと言われています。イロコの樹の樹液は、やや茶色がかった乳白色をしており、母乳のような見た目をしていることから、妊娠・出産の象徴になったのではないかと考えられています。

「ことわざ」にある通り、女の子は大人になってから、悪戯をしたことすら忘れた頃にイロコの樹の精霊からの仕返しを受け、子どもを授かることが出来ない身体(不妊症)になってしまいます。

イロコの樹の精霊の仕返しによって不妊症になってしまったこの女性は、自分が犯した悪事を悔い改め、不妊症を治してもらうためにイロコの樹の精霊に毎日毎日ヤムイモを捧げて懇願し、ついに子どもを授かることが出来た‥‥というお話しです。

なかなか良く出来たストーリーですよね。

このお話しからも、ナイジェリアの人たちにとって、ヤムイモが古代から妊活や子宝の象徴として伝えられているということが伺い知ることができます。

実は、日本の食文化にも馴染みがある食材

とはいえ、日本人にはあまり馴染みが無さそうな『ヤムイモ』なのですが、実はヤムイモの“仲間”は、われわれの食卓にも良く並ぶ食材です。

ヤムイモは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属に分類され、世界中で約800種以上あるといわれています。このうち、食用となるものを英語で「ヤム(Yam)」と総称し、日本では「自然薯(じねんじょ)」、「大和芋」、「長いも」、「つくねいも」などがこの中に分類されます。

自然薯や大和芋などは、すりおろして“とろろ”で食べたりすることが多いかと思いますが、よく『ネバネバの食材が免疫力を高める!』といったことをテレビなどでも特集され普段から見聞きしている通り、カルシウム・鉄分・リン等のミネラルのほか、ビタミンB1や食物繊維などが非常に豊富で、古くから疲労回復や免疫力を高める効果が知られています。また、“とろろ”のネバネバ成分には、胃の粘膜を保護する働きがあり食欲増進にも良いとされており、東洋医学においても、精のつく滋養強壮効果のある漢方薬の一つとして重宝されてきました。

今回は、ナイジェリアに伝わる伝説を取り上げてきましたが、やはり古代から現代にまで、ヤムイモが子宝の象徴として伝承されているのには、それなりの理由があるのかもしれません。

連日、日本各地で猛暑日が続いており、夏バテ気味という方も多いかもしれませんが、いまの季節には是非、日本の『ヤムイモ』を食べて妊活に取り組んでみるのもよいかもしれませんね。

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