【令和8年最新版】日本産科婦人科学会ARTデータブックを胚培養士が解説!

はじめに

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

今年も、皆さまおまちかね(?)の最新版となる『ARTデータブック2024年版』(2026年9月3日付)が日本産科婦人科学会より公表されました。

そもそも「『ARTデータブック』とは一体全体なにものだ??!!」という方が多いのではないかと思いますが、まず体外受精や顕微授精などの生殖補助医療・高度生殖医療のことをAssisted Reproductive Technology;ARTと呼びます。日本で高度生殖医療を実施・提供しているすべての医療機関は、日本産科婦人科学会ならびに厚生労働省にART実施施設としての認可を受けており、北海道から沖縄まで約630施設程が登録されています。

実は、すべての医療機関で行われた個々の治療は、一周期ごとに日本産科婦人科学会に対して結果を報告する義務があり、学会側は、このようにして日本中の医療機関から送られてきた治療データを集計・解析し、その一年間で行われた治療の“総まとめ”として『ARTデータブック』という形で公表をしています。

ここで気になるのが、「なぜ最新版なのに、2026年では無く2024年版なのか?」ということですが、端的に言えばこの『ARTデータブック』には治療による出産率や生まれた児の数などの情報も含まれていることが理由です。

妊娠期間がトツキトオカと言われるように、治療開始から妊娠成立、出産に至るまでどんなに早くても約1年かかります。2024年に治療→2025年に出産、までのデータを得ていることから2年前の治療データが最新版となるわけです。

それではさっそく、私たちと一緒に『最新版ARTデータブック』を読み解いていきましょう!

どれくらいの人たちがARTを受けているの?

まず、2024年に日本全体で行われたARTの総治療周期数は550,265周期でした。前年の2023年に行われた総治療周期数が561,664周期でしたので、前年比で約10,000周期ほど減少した形です。

ここで、治療周期数が減少した理由を知る上では、日本の人口動態統計(※日本の年齢別の人口の割合)を把握しておかなければなりません。というのも、昨今の日本では、およそ3人に1人以上が65歳以上の高齢者であり、55~59歳をピークに54歳以下の人口の割合は顕著に減少しています。

つまり、根本的な理由として、出産を担う中心的な世代である15歳から49歳の女性人口の割合が非常に少ないです。このような傾向は、イタリアやドイツ、韓国なども同様に見られますが、人口の多い国上位20ヵ国のうち65歳以上の高齢者の割合が3割を超える国は日本だけです。

加えて、個人の多様性が尊重されるようになり、社会的、経済的な理由などから婚姻数が減少していることも理由として挙げられます。

こども家庭庁が行った15〜39歳の未婚者を対象にした調査によると、結婚に否定的あるいは消極的な意見を持っている人の割合が全体の35.1%を占めているというデータも示されています。

どの年齢層の人がARTを受けているの?

では、およそ550,000周期の治療が行われた中で、どのような年齢層の方々がARTを受けているのでしょうか?

2024年のデータで、最も治療周期数が多かった年代は39歳で45,124周期。次に多かったのが40歳で44,315周期でした。

年齢層で見ていくと、~34歳が約30%、35〜39歳が約35%、40歳~が約35%で、年齢層別で数字を出すと、ARTを受けたそれぞれの年齢層にそこまで大きな差が無いことがわかります。

ここで少し話は逸れますが、(ご存知の方も多いかと思いますが)2022年の4月から不妊治療が保険適用となりました。しかしながら、不妊治療における保険診療には、一般的な保険診療とは大きく異なる点が2つあり、(1)年齢制限、(2)回数制限、が存在しています

(1)年齢制限は、『治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること』と定められており、43歳以上の方では保険を用いて治療を受けることは出来ません。

(2)回数制限は、『初めての治療開始時点の女性の年齢が40歳未満では6回まで。40歳以上43歳未満では3回まで。(いずれも1子ごと)』と定められています。

私自身、2024年版のARTデータブックに目を通して「これは意外だったな‥‥」と思ったのが、上記(1)の年齢制限にかかる43歳以上の治療が66,789周期あったこと、⑵の回数制限にかかる40歳以上での治療の割合が全体の1/3以上と非常に多かったということです。

少し厳しい見方をすれば、得られる結果に対して、かかるコストがどんどん見合わなくなっていく場合、一般的に考えれば本来は件数が少なくなっていくはずです。

例えば、牛丼1杯が500円で味もそこそこであれば「それぐらいなら——」と考える方が多いかと思いますが、これが1杯5,000円、あるいはそれ以上払っても美味しくない、そもそも食べられるかどうかすらもわからない‥‥となると躊躇してしまう方が大半なのではないでしょうか?

つまり、不妊治療に関して言えば、通常とは逆の現象が起こっているということになります。

どれくらいの赤ちゃんがARTで生まれているの?

次に、どれくらいの赤ちゃんがARTによって生まれてきたのかを見ていきましょう。

2024年に実施されたARTを介して生まれた赤ちゃんの総数は86,473人でした。この数字は、前年の85,048人を上回り、過去最多の数字となりました。

一方で、厚生労働省によると、2024年に日本国内で生まれた子どもの総数が686,173人で過去最少だったことを報告しています。

つまり、86,473÷686,173=約12.6%(約7.9人に1人)がARTによって誕生している計算になります。私が小学校~高校ぐらいの時は、1つのクラスが約40人でしたので、1クラスにARTによって生まれた子が5人くらいいるイメージでしょうか。

実際のところ、私が今まで受け持ってきた患者様の中には、ARTをなにかすごく“特別なもの”“異質なもの”と捉えられている患者様も少なくなく「人工授精までしかやりたくない!」「ARTは絶対にやらない!」と嫌悪感を示されていた患者様もいらっしゃいます。

しかしながら、このような数字が示すように、社会的に見ればすでに“特別なもの”では無いということを認識する必要があるのかもしれません。

年齢別で読み解く:①妊娠率

ここからはさらに、具体的な治療成績について見ていきましょう!

と、その前に、これだけはしっかりと知っておいて欲しい・受け止めて欲しいことがあります。それは、妊娠の成立ならびに出産にいたるためには、女性の『年齢』という要因が極めて大きく関係しているということです(つい先日、SNSで「『年齢』のことばかり言う胚培養士、マジでク●うんざりする」と“名指し”で叩かれたばかりなのですが‥‥)。

耳の痛い話しということは重々承知しておりますが、これは切っても切り離せない、絶対に向き合わなければならない事実で、女性はどうしても年齢を重ねるとともに卵子の“質”や卵巣機能(卵子の残りの数)が低下し、妊娠はしづらくなっていってしまいます。

そして、その傾向というのが『ARTデータブック』の中でもはっきりと示されています。

(※もしも、これを読んでいる方で「『年齢』のことをとやかく言われるのは不快だ」という方がいらっしゃいましたら、ここで読むのを止めてもらっても構いません。)

では2024年のデータを見てみましょう。

まず、20代から34歳までの胚移植一周期あたりの妊娠率は50〜55%と報告されています。おおよそ2人に1人が一回の胚移植で妊娠に至るということです。

しかしながら、35歳を超えると胚移植一周期あたりの妊娠率は47.6%で50%を下回るようになります。38歳では41.8%でかろうじて40%を超える数字となりますが、39歳になると38.3%と40%台も下回り、妊娠率の低下がより顕著に見られるようになっていきます。

そして、保険対象のリミットとなる42歳では26.7%。以降、43歳以上の年齢では妊娠率は大幅に低下していきます。

年齢別で読み解く:②生残率と流産率

と、ここまで妊娠率に関して詳しく解説をしてきましたが、妊娠率の数字だけを見て一喜一憂するは少し待ってください。

私の受け持っている患者様の中にも「移植をした時の妊娠率ってどのくらいですか?」と妊娠率ばかりを気にされる方は非常に多いのですが、実は治療を進めていく上では、妊娠率よりも重要な項目があります。それが、生産率ならびに流産率です。

というのも、仮に胚移植で着床・妊娠をしたとしても、そこで治療は終わりでは無く、結果的に流産に至ってしまう症例も決して少なくないからです。

まず、20代から34歳までの妊娠確認後の流産率はおおよそ15~20%程度で、一般的に示されている自然妊娠における流産率とほぼ同程度ですので、34歳くらいまでは妊娠の予後も自然妊娠とほとんど変わりません。

しかしながら、39歳になると流産率は30%を超え、40歳以降では40%を大幅に超える数字となります。そして、45歳以上になると半数以上の症例が流産となります。

さらに、治療一周期あたりの生産率で見ると、35歳までは20%台を維持しますが、40歳では10.9%、それ以降は10%を大幅に下回るような数字となります。つまり、高齢になるにつれて、妊娠にいたったとしても流産となる可能性が顕著に増加していくということです。

日本産科婦人科学会ならびに日本産婦人科医会によると、流産原因のおよそ70%以上が卵子・受精卵(胚)の染色体異常であることが示されており、女性は年齢を重ねるとともに染色体異常を持つ卵子の割合が増えていってしまうため、どうしても妊娠の成立や出産と『年齢』という要因は切っても切り離せないわけです(私個人の意見では無く、データとして示されているものですので、SNS等で“名指し”で叩くのはやめていただきますよう切に願います(泣))。

不妊治療をすると双子になりやすいの?

このARTデータブックには、成績などの他にも興味深いデータが色々と載っています。

例えば、「不妊治療をすると双子になりやすい」というのを聞いたり調べたりしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところはどうなのでしょうか?

「これってもしかして都市伝説?!」も、解決してくれるのがARTデータブックです。

2024年のデータを見てみると、多胎妊娠(双子以上を妊娠した方)の割合は4.15%でした。

自然妊娠の場合、双子となる確率はおおよそ80~100人に1人(1.0~1.2%程度)ほどと言われているため、ARTを介した症例ではやや高くなる傾向にあります。

ただ、実はひと昔前までは、多胎妊娠となる割合がもう少し高い時期もありました。これは、一回の胚移植で複数の受精卵を戻すということが、現在よりも頻繁に行われていたためです。

しかしながら、多胎妊娠は早産や流産・死産、高血圧症や糖尿病などの合併症、低出生体重児や児の発育・発達遅延など、死亡リスクも含めて母体にも胎児にも極めて危険性が高いことから、現在では、日本産科婦人科学会より安全性ならびに衛生性の確保のため『胚移植の数は、原則として1個(単一胚移植)に制限する』という方針が示されています。

患者様の中には、「1個しか戻さないとなると、妊娠率が下がってしまうのではないか?」とおっしゃる方もいらっしゃるのですが、実は胚1個あたりの妊娠率は、単一胚移植でも、複数の胚を一緒に移植しても、まったく変わらないという具体的なデータが示されています。ですので、とにかくたくさん卵をお腹に戻せば妊娠する!と考えるのは大きな間違いです。

ARTデータブックはどのように活用したらいいの?

さて、今回は最新版となる『ARTデータブック2024年版』について詳しく解説をしてきました。

そもそも、これまでARTデータブックの存在そのものをご存知無かった方、このコラムを読んで初めてその存在を知った方も少なくはないのではないかと思いますが、ARTデータブックには、これから妊活を始める方や、将来的に子どもが欲しいと考えている方々にとっては非常に有用となる情報が満載です!

例えば、先述した通り、保険診療で6回まで治療可能な年齢のリミットである39歳では治療周期あたりの生残率は12.9%ですが、3回のリミットとなる42歳では6.0%まで低下します。

もしも、あなたが「将来的に子どもが欲しい」と考えているのであれば、このような数字や保険回数・年齢制限なども含めて、ライフプランニングという名の戦略を練っていくための言わば“ナレッジ”として、この上なく有益な情報になるのではないかと思います。

  • 生残率までを考慮し、33歳までに自然妊娠ができなかったら34歳以降は治療を始める
  • 保険回数や年齢制限を考慮して、保険回数が6回適用される39歳までには治療を始める
  • 40歳以上ではどこまでやるのか?どのくらいお金をかけるのか?などを夫婦でしっかりと話し合いながら治療を進める
  • 43歳以上では、子どもを持たない可能性や選択肢も理解し、視野に入れた上で治療と向き合う

など、将来的な人生設計を行っていく上でARTデータブックを上手に活用していただけたらと思います。

最後に:いかに正しくデータを理解し危機感を持って向き合えるかが大切

最後に、ARTデータブックで示されている数字は、あくまでも日本全国で行われた治療の『平均値』を表しているものです。

なにが言いたいのかというと、たとえ20代、30代前半の方でも、卵巣に残っている卵子の数や卵子の“質”が年齢の平均よりも大幅に低いという方が、当然ながら一定数いらっしゃいます。

また、子宮筋腫や子宮頸がんなどの婦人科系疾患の有無やホルモンなどの内分泌系の他、生まれながらの体質などによっても妊娠・出産の可能性やポテンシャルは大きく変わります。

そして言うまでもなく、男性側の因子というも妊娠の成立や出産のためには非常にウエートが大きいです。というよりも、不妊原因の約半数は男性側に起因していることが多くの先行研究により、すでに明らかとなっていますので、“男性こそ”こういったARTデータブックを基に妊活・妊娠を意識して取り組んでいく必要があると考えます。

人間は、どうしても自分に都合の良い情報ばかりを集めてしまいがちです(私ももれなくそうです)。ですが、40歳の治療一周期あたりの生残率が10.9%、つまり100人の患者様に対して一回の治療で出産にまで至るのは10人しかいないという事実は厳しくてもしっかりと読み取らなければなりません。

データを正しく受け入れ、適切な戦略を立て、その上で人生を進めていくことは、結果的にQOL(Quality Of Life)を向上させることに繋がります。

『ARTデータブック』を読み解くには、専門的な知識が必要になる箇所もあります。そういう時には是非ファミワンのサービスを活用していただき、人生設計のヒントとして役立てていただけたら幸いです。

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