不妊症看護認定看護師の西岡です。私はこれまで10数年不妊治療の専門医療機関で看護師として勤務してきました。その中でたくさんの患者様に出会い、学んできたことから、少しでも皆様の妊活・不妊治療のお役に立てるような情報をお伝えしていきたいと思います。
今回は、不妊治療で妊娠した子どものことについてお伝えします。
不妊治療と自然妊娠で生まれた子どもの違い
実際に
「体外受精で妊娠した子どもの場合、何か病気になる可能性はありますか?」
「不妊治療の影響で子どもに障害があるリスクはありますか?」
という質問を多くいただきます。
不妊治療を受けることで、何か子どもによくない影響が起きてしまうのではないかと不安に思われる方が多くいらっしゃいます。実際にはどのような影響が考えられるのか説明していきます。
不妊治療の中でも人工授精は性交渉をもたないところ以外は自然妊娠と同じように人の手を介しません。体外受精は受精や分割の段階で人の手がはいるため、その影響が心配になる方が多くいらっしゃいます。
体外受精で生まれた子どもとそうでない子どもとにはどういう違いがあるのか、いくつかわかっていることをわかっているデータをもとに分けてまとめていきます。これらは調査の結果をまとめたものですので、必ずこれらのことが自分に降りかかるということではありません。
双子の妊娠が増える可能性がある
体外受精による胚移植やアシステッドハッチングなどの技術によって双子を妊娠する可能性が増加すると考えられているが、まだわからないことが多くあります。
複数の胚を移植しただけではなく、1つの胚を移植した場合でも双子になる可能性があります。
凍結胚移植では出生時の体重が70g程度多い
凍結胚の場合出生時の体重が70g程度多いことがわかっています。ただ、生後18ヶ月になるとこの差は無くなることもわかっています。
新鮮胚移植では出生児の体重が軽い
新鮮胚移植の場合は出生時の体重が自然妊娠よりも軽いことがわかっています。凍結胚移植では出生時の体重が重くなり、新鮮胚移植では軽くなる、ということです。
初期流産の可能性は変わらない
自然妊娠でも体外受精の妊娠でも初期流産の可能性は変わらないことがわかっています。
出生児の性別の比
アメリカの調査では、男女比は変わらないことがわかっています。
精神発達については自然妊娠とかわらない
生後18ヶ月児について精神発達は自然妊娠で生まれた児とかわらなかったということがわかっています。
精子や卵子が作られる段階での遺伝子の異常による子どもへの影響の可能性がある
高齢出産や排卵誘発剤の使用、男性因子などさまざまな要因で、遺伝子の誤作動による病気の可能性があることがわかっています。
おわりに
いかがでしょうか。
このようにデータを並べていと、なんだか怖くなってしまうこともあるかと思います。
体外受精で産まれた子どもたちがどのように生きているのかはこれからも調査が続いていくところです。
誤解しないでいただきたいのは、自然妊娠であればすべての可能性がゼロになるということではない、ということです。また、体外受精そのものによる影響だけではなく、年齢による影響などその他の影響もあるということです。
私たちが、安全なお産を、そして健康な子どもをと願うことは自然なことです。ですが、全てのリスクを排除することはできません。それは人間が別の人間を創る上で、計り知れない多くの要因と現象が絡み合っているからです。私たちはこのようなデータを必要以上に恐れることなく、そして、体外受精による影響、それ以外の影響、避けられないリスクなどを理解した上で、自分はどのような選択肢を取るかを考えていくことが重要です。
こういったことは、普段あまり考えることはないかもしれません。そして、専門的な知識や情報が必要なことです。専門家と一緒に考え、自分たちの今を、人生を決めて行けたらと思います。
▼参考文献
- Hall JG:Twinning Lancet 2033;362:735-743
- 生殖補助医療により生まれた時の長期予後の検証と生殖補助医療技術の標準化に関する研究:厚生労働科研:2012
- ART出生児の発育・発達に関する研究:厚生労働科研:2012
- 久慈直昭;生殖補助医療の変遷と展望~厚生労働科学研究ART出生児予後調査結果より~日本周産期・新生児医学学会雑誌:50:1:2014