今回は、桜十字渋谷バースクリニックの培養室長である、楠本さんにラボツアーや、Q&Aなど様々なことについてお伺いした妊活ライブの模様を2回に渡り連載でお届けします。
1:スピーカーのご紹介
楠本佳香
桜十字渋谷バースクリニック 培養室長
日本卵子学会認定生殖補助医療胚培養士
国際医療福祉大学大学院胚培養分野修士課程終了(生殖補助医療学修士)
症例数世界一の自然周期クリニックで学び、新規クリニック立ち上げなどを経験後、2019年4月より現職。卵ひとつひとつを丁寧に取り扱う自然周期の培養技術を刺激周期治療に生かし、妊娠までの治療期間短縮を目指しています。身近な人の治療経験から、全ての卵を自分の大切な人の卵だと思って取り扱っています。
戸田さやか
公認心理師/臨床心理士
公認心理師・臨床心理士・生殖心理カウンセラー。性や生殖補助医療の専門知識を用いながら、カップル・家族の心理支援を行っている。ファミワンではユーザー対応やサービス設計を担当。
2:桜十字渋谷バースクリニックラボツアー
戸田:今回、なかなか見る機会のない培養室の中を、桜十字渋谷バースクリニックの楠本さんにご案内頂きます。私もクリニックに勤めているのですが、培養士さんも忙しそうにされていたり、清潔さを気にされるので、人が出入りするのもよくない、ということで、培養室にはなかなかな入る機会がないんです。
今日は培養室の中を見せていただけるということで私も楽しみにしています。
楠本さん:患者様もご自分の精子や卵子がどのように扱われているのか大変気にされていると思いますので、さっそくご覧ください。
当院の培養室は、クリーンルームと言って目に見えないチリ・埃の数まで減らしている特殊な部屋です。クリーンルームで一番汚いものは人間です。身支度を調えて汚れの持ち込みを減らす、入室者や入出回数を減らすなど、汚さない工夫が必要です。
外では術衣の上に白衣を着て汚れの付着を減らしていますので、入室前にまず前室で白衣を脱ぎます。
クリーンルーム専用のスリッパに履き替えます。
ヘアキャップ、マスクを正しく付けているか鏡で確認しながら
身支度を調えます。
手洗いをします。指先から肘の先までしっかり洗います。
出入りのたびに手洗いを行うので、毎日20~30回は手洗いを行っているので、
夏でも培養士の腕はガサガサです。準備が整ったら入室です。
当院の培養室は、精子処理を行う部屋と、卵を培養する部屋に分かれています。
こちらは精子処理を行う部屋です。
培養室は開腹手術が行える手術室と同じレベルの清浄度で作られています。
外と比べると100分の1程度まで目に見えないチリ・埃の数を減らしています。
これはパスボックスというものです。外側と内側、片側ずつ扉が開く作りになっていて、埃の持ち込みを減らしながら精液検体を培養室に受け渡すことができます。
精液検体が培養室にきたら、クリーンベンチと呼ばれるさらに清浄度の高いブースの中で、精子の検査や処理を行います。取り違え防止のため、一つのクリーンベンチには一人の検体しか置かず、他の精子と一緒に処理することはありません。全ての器具をワンセットずつ揃えており、動線も分けることで取り違え事故に繋がるリスクを排除しています。
こちらは精子運動解析装置です。精子の数や運動率などコンピューターで自動解析します。
このほか、目視による検査や、染色した精子を高倍率で検査するなど、詳細な検査が可能な体制をとっています。
ここから先が胚培養をしている培養室になります。
再度、手洗いをしてから入室します。
これは、中に顕微鏡が内蔵されているタイムラプス型と呼ばれる特殊な培養器です。お腹の中と同様の環境で胚を培養しながら、定期的に自動で写真を撮ってくれるので、胚を外に取り出さずに観察することが可能です。胚へのストレスを減らし、成長により良い効果が期待できます。
その他、いくつかの種類の培養器を備えていますが、取り違えの防止のため、必ず患者様ごとにインキュベーターの小部屋を用意し、分けて管理しています。
クリーンルーム内は、手術室レベルの清浄度を保つためのクリーンエアコン、静電気防止素材を用いた床、温度を一定に保つための換気システム、紫外線の出ないLED照明などが備えられ、卵へ与えるストレスをできるだけ減らすように工夫した作りになっています。
卵子や胚を操作するクリーンベンチです。培養室内よりさらに100分の1までチリ・埃の数を減らしています。こちらも取り違え防止のために、必ず一人の患者様の卵しか作業台の上には置きません。
クリーンベンチの奥には、倒立顕微鏡があり、顕微授精をするための設備が付属しています。
これから実際に胚を取り扱っているところを見て頂きます。
マイナス196度の液体窒素で保管されていた凍結胚を融かしているところです。
胚はとても小さく、肉眼では見れないので、顕微鏡下で見ながら操作を行います。
極細のガラス管を使って胚を移動します。
凍結している胚や精子はこのようなタンクに入れています。
タンク本体、タンクを保管している棚、棚が設置されている培養室、これら全てに鍵をかけて厳重に保管しています。棚の中にタンクを保管することで、地震などでのタンクの不意な移動を防ぎ、モノにぶつかって破損するという事故を防ぎます。
タンク内は液体窒素で満たされ、超低温に保たれています。
停電が起こって培養器が止まってしまうと、培養している全ての胚がダメージを負ってしまい、最悪死んでしまいます。
非常用電源装置があれば、停電時に自動的に蓄電器に切り替わり、電源が止まりません。自動なので、スタッフがいないときの突然の停電でも安心です。
また、当院のビルには自家発電設備も備わっており、非常用電源装置と合わせてより安心できる環境が整っています。
以上、桜十字渋谷バースクリニック培養室オンラインツアーでした。
皆様の卵をしっかりと守れる設備と環境を備えていますので、安心してお預けいただきたいと思います。
戸田:はい、ということで桜十字渋谷バースクリニックの培養室のご様子を見て頂きました。楠本さん、培養士さんって1日30回くらい手を洗うんですね・・・。
楠本さん:そうですね、人の皮膚片や、人と一緒に持ち込まれる埃などが清潔なクリーンルームを汚す元になりますので、自分たちの身支度を一番気にしています。
戸田:部屋の中のチリやホコリをできるだけ減らすと言うことなのですが、それは、空調の設備とか技術的なものでできることなんですか。
楠本さん:そうですね。ヘパフィルターと呼ばれる超高性能フィルターを通した清浄な空気を、絶えず培養室に入れています。また、陽圧に保つことで培養室から外の部屋に向けて空気が流れる仕組みになっていて、汚れが培養室側に入りにくくなっています。
戸田:培養器など、最近は、どんどん新しいモノが出て来ているんじゃないかと思うのですが、こういった機材は、クリニックのどういった方が選んでいらっしゃるのでしょうか。
楠本さん:機材は医師と培養士が相談して決めているところが多いのではないかと思います。
戸田:培養士さん達は、顕微鏡を見てずっと作業をされているじゃないですか。かなり目が疲れると思いますし、凄く集中していらっしゃいますがいかがですか。
楠本さん:そうですね、毎日眼精疲労と肩こりが。。(笑)
戸田:ご自身のケアは皆さんどうされているんですか?
楠本さん:目が疲れやすいかは個人差もありそうですが、私は定期的にマッサージに通っています。
戸田:職業病みたいな感じですか、眼精疲労や肩こりって。
楠本さん:そうですね。
戸田:今チャットでご質問があったんですけど『培養室内の掃除はどうするんですか。掃除機とか駄目ですよね』というご質問です。
楠本さん:クリーンルーム用の掃除機も存在していますが、使用は推奨されていません。多くのラボでは、業務が終わった後に机の上の埃を拭いたり、クリーンワイパーなどで床に堆積しているチリや埃を取り除くのが一般的ではないかと思います。
戸田:使う物も多いから、毎日のお掃除やメンテナンスがとても大変そうですよね。時間がとてもかかるんじゃないかなって。
楠本さん:そうですね、適切な環境を保てるように、培養室を運営管理するだけでもかなりの労力・マンパワーが必要ですね。
戸田:そういう一つ一つの機材や、ご自身のメンテナンスも含めて培養士さんが卵のために頑張ってらっしゃるんだなというのが、映像を見ると凄くわかりますね。ありがとうございます。『業務で一番神経使うのってどんな業務ですか』というご質問もきています。
楠本さん:一番神経を使うのは、ダブルチェックですかね。培養室では肉眼では見えないものを取り扱っていますので、取り違え事故を起こさないためにも安全管理は凄く気にしています。
各作業工程ごとに、間違いがないかを2人体制でしっかりと確認しながら作業を進めています。