シーシャ(水タバコ)は、従来の喫煙と同様に妊活には有害である

ファミワン胚培養士の川口 優太郎です。

先月(※2023年9月)、ギリシャのアテネで開催されたIFFS・国際不妊学会学術会議に参加し、3つの研究演題について発表を行ってきました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、ここ数年はオンライン開催の学会が圧倒的に多かったのですが、久々の現地参加の“リアル”学会でした。

やはり、画面を通してでは無く、直接色々な方々からお話しを聞けたり、意見交換が出来たりする機会というのは非常に貴重だなと改めて思いました。

学術会議や発表内容のご報告は、また別のタイミングでさせていただくとして———

アテネの街を散策していると、ほとんどのレストランやカフェが、お店の外にテーブルを並べているのですが、どこの店先でも非常によく見かけたのが、水タバコ、いわゆる『シーシャ(フーカー)』を吸っているお客さんです。水タバコは、中東やエジプトが起源とされており、ヨーロッパでも中東側に近いギリシャでは、古くから根付いている文化なのでしょうか?

シーシャは数年前から日本でも流行

数年前から日本でも若い人を中心に流行ってきており、私が勤務している渋谷・新宿近辺では、シーシャを取り扱うバーやカフェがここ数年で乱立しています。もしかしたら、これを読んでいる方の中にも、吸ったことがあるよ…という方がいらっしゃるかもしれません。

そんなシーシャですが、ここ最近、われわれファミワンの方に「シーシャは妊活には影響無いのですか?」といったご質問・ご相談を寄せられる事案が、非常に増えてきています。

そこで今回は、イギリス(open access journal)の学術誌であるSubstance Abuse: Research and Treatmentから、シーシャが妊活に及ぼす影響について、2023年1月に公開された最新の研究論文をご紹介したいと思います。

水タバコは紙タバコと同じくらい有害

先に結論から言いますが、妊活に限らず「水タバコも紙タバコと同じくらい有害」であることが、この論文を含め多くの研究から、強いエビデンスのもとに明らかになってきています!気になる方はぜひこのまま読み進めてみてください!

本研究は、シーシャの起源の一つとされているイラン共和国のシャヒード・サドゥイ医科大学の研究チーム行ったもので、イラン国内で体外受精を行っている104人の男性患者を対象として、水タバコの使用による

  1. 一般的な精液検査項目(濃度、運動性など)
  2. DNA断片化指数
  3. 酸化ストレス指数(ORP)
  4. 特定の遺伝子・タンパク質の発現

などについての調査を行いました。

その結果、1.の一般的な精液検査項目である精子の濃度や運動性については、水タバコの使用による大きな影響は見られませんでした。

一方で、2.DNA断片化、3.酸化ストレス値については、水タバコを使用していないグループと比較して有意に高いレベルで認められることが示されました。

通常の紙タバコによる喫煙は、男性女性を問わず、生殖器官に対して潜在的な悪影響を与えることは数多くの研究によって明らかになっていますが、特に精子のDNA断片化、ならびに酸化ストレスについても極めて悪影響でることが指摘されています。

受精卵は、卵子と精子の融合した細胞であり、精子DNAが正常であることが胚の発育には非常に重要です。DNA断片化が高い場合、精子が卵子と受精しない。受精しても受精卵が育たない。といった障害を引き起こすだけでなく、着床不全や流産、死産の直接的な原因となることが示されています。

また、興味深いことに、4.特定の遺伝子・タンパク質の発現については、水タバコの使用者ではプロタミンと呼ばれる特定のタンパク質が顕著に欠乏していることがわかりました。

プロタミンは、精子を成熟させる核タンパク質の生成に最も重要なタンパク質の一つと考えられており、プロタミンの欠乏が男性不妊と相関関係を示すといった研究も多数報告されています。

以上から、水タバコの使用は、精子に対して表面的な検査値(濃度や運動性)には影響を与えないものの、分子細胞レベルで破壊的な悪影響を与える可能性が高いとしています。

まとめ

水タバコというと、紙のタバコよりもお手軽な感じがしてしまいますが、一回数分の紙タバコに対して、通常一回で30~45分吸引し続ける水タバコでは、一回当たりで比較すると約3~9倍の一酸化炭素 (CO) と、約1.7~3.0倍多くのニコチンにさらされることになります。

論文の著者であるマリアム.T.ニアキ博士によると、水タバコを含め、喫煙者の多くがこのような有毒物質が身体に与える負荷に気づいておらず、喫煙は人々にとって健康を損なう最も重大な脅威の 1つとなっているとし、本研究が示す通り、水タバコの喫煙によって酸化ストレスやDNA損傷を増加させることによって、男性の生殖能力を著しく損なう可能性がある。と論文をまとめています。

喫煙、飲酒が妊活だけでなく、健康上悪影響であることは周知の事実であり、過去のコラムやセミナーなどでも再三お伝えしている通りですが、水タバコについても同様であるということを知っていただけたらと思います。

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