<取材>“家族的経営”でお互いを知り、安心してチャレンジできる風土を醸成 「食」のパイオニアとしてユニークであり続けるために −リボン食品株式会社

1907年に日本で初めてマーガリンの製造・販売を始めて以来、食のパイオニアとしてチャレンジし続けている「リボン食品株式会社」の筏社長を取材しました。

経営者として大切にしていることや社員との関わり方、ご自身の経験から立ち上げたフードブランドのお話などを伺いました。

感謝の気持ちを社員とその家族に伝えたい リボン食品が大切にする「家族的経営」とは

― 昨年のカンファレンスでは、高橋常務にご登壇いただき、その中でリボン食品のカルチャーについてお伺いしました。社員旅行や誕生日会の実施、社員のご家族まで大切にしたウェットな関わり合い方をされているというエピソードが印象的でした。筏社長が、経営の中で大切になさっていることを教えてください。

リボン食品は110年以上続く業界のパイオニアとして、伝統を守りながらもユニークであり、新しいことへのチャレンジをしていく会社でありたいと考えています。そして大切にしていることのひとつに、「家族的経営」という考え方があります。

自分の夫や娘と同じように、社員やそのご家族が幸せであってほしいと思っていて、自分の大切な人に幸せになってもらうためには、その人たちが何を求めているのかを知って理解することが大事だと思っています。

社員の誕生日をお祝いするため、誕生日会を開きます。また誕生日カードを手書きで書いて毎年自宅に送っています。メッセージには、その社員と私とのエピソードを盛り込みたいので、勤務時や社内行事の際にはコミュニケーションを心がけています。

なぜそこにこだわるかと言いますと、カードを受け取ったご本人はもちろん、そのご家族が一緒に読んでくださって、ご本人がどれだけ会社から必要とされているかということを分かってもらいたい、ご家族のサポートがあってこそご本人が輝けて、輝けているからこそ会社が輝けるということをお伝えしたいと思っているからです。

また社内行事は、社員のことを知る良い機会と考えています。社員の中に混ざってわいわいと、普段なかなか話をできない社員の話を聞くことで、『この人は今こんなことに興味があるのか』とか、『この人は若いのに揚げ物が嫌いなのか』など、新しくその人を知るきっかけになっています。

―社員とのコミュニケーションを大切にされていらっしゃると感じるエピソードですね

伝えたいのは社員への感謝の気持ちです。こうやって会社をやっていけるのも働いてくれる人がいるからであって、全員が辞めてしまったら私一人では動かすことはできません。

そういう感謝の気持ちは伝え続けたいと思っていて、本当にありがたいと感じています。

ただし、この距離感が合わない人がいることは理解していますし、全員にとって良い環境というわけではないとも思っています。愛情に関しては私の片思いだと感じることもあります。

先日も1人辞めた方がいまして、辞める理由を聞いてみたら、社員間の距離が近すぎて自分には合わない、ということでした。採用時に自社の文化や雰囲気、距離感が近いという話をしっかりとするのですが、それでも合わない人は一定数いるかなと思っています。

― 退職される方ともきちんとコミュニケーションを取られるのですね

そうですね。ご縁あって一時的だとしても一緒に働くことになったので最後にきちんと感謝の気持ちを伝えたいですし、離れても次にはもっと活躍してほしいなと思います。

辞める人は、何も言わずに出ていきたいのも理解しています。そこをあえてコミュニケーションを取る理由は、私自身が辞める方から学べることがあるなら学んで、次に活かしたいと思っているからです。耳が痛い話もあり、本当はお互いに目を背けたいところではありますけれど、そんな話をしてもらえるだけでもありがたいことだなと。同じ思いを他の人にさせないように頑張らないといけないと思っています。

時代に合わせて変わっていく”家族的”のあり方

― 会社の風土や文化って、その会社の特徴が出る反面、合わなかった時に辞めてしまうと困るとか、言い過ぎると人が集まらないのではないかなど、企業側の葛藤があると思います。リボン食品としてこの距離感や家族的なスタンスを貫くことにはどんな思いがあるのでしょうか

企業としてひとりひとりの社員を思いやるとか寄り添うことは絶対に必要です。当社はそれをメッセージとして前面に出していて、他の企業より関わり方として特徴的であるだけだと思っています。それを当社のユニークさにもつなげていきたいという思いはあります。

ですので、入社して勤務してくれた人への愛情や感謝の気持ちは先ほどお話しした通りですが、当社の風土に合わないまま無理して働くくらいであれば、よりご自身に合った会社を選び直す方がその方の幸せにつながると心から思っています。

― 明確にメッセージとして打ち出すことで、会社としての特徴やユニークさにつながって、その考えに共感する人が集まることにはなりますよね

そうですね。ただこのウェットさとか家族的っていう形も、時代によってずいぶん変わってきたなと感じています。

私の祖父が社長だった頃は、それこそ年末には自宅に社員全員が集まって食事をしてお年玉を渡して、みたいな関わり方が家族的経営とされていました。経営者としては社員にごはんを食べさせてあげるということが当たり前でしたし、社員にとっては食事に誘われる、連れて行ってもらうことがうれしい時代だったと思います。

今だと価値観は変わってきていますし、さすがに過去のようには出来ないですが、お互いに良い距離感で家族的な関わり方を心がけています。

― 核家族化と言われるように、家族や家庭のかたちって変わってきているので、関わり方の変化は必要だろうなと思います

家族的という意味も、ただ仲が良いとか距離感が近いというだけではなくて、変化に気づけるってことが大事だと思っています。あの人普段となにか違うなと感じられる関わり方ですね。

安心して働けること、家族という小さな単位が幸せであることで、ひいては社会に役立つ企業になれると考えています。家族的な関わり合いの中で、失敗をおそれずどんどんチャレンジしてほしい、いきいきと活躍してほしいと思っています。 リボン食品を退職した人たちは、退職してからもめちゃくちゃ社員同士で仲がいいんですよね。私としては次の会社の人と仲良くしたらいいのにとも思うのですが(笑)。風土としては合わなかったとしても、人同士の関わりが続いているという部分はうれしいなと思っています。

― ここまでのお話のほかに、社員がいきいきと働くために工夫されていることってありますか

3年ほど前から、部署の担当役員とその部門の各社員が1 on 1で面談する「キャリア面談」を始めました。その中では、やってみたいことや異動したい部署はないか、どんなキャリアプランを描いているかなど、本人の意向を聞きます。

本来は私が自分で直接社員全員に話を聞きたいと思っていますが、なかなか時間を取ることができないので、メンバーの声を役員が吸い上げて、最終的に全て私にレポートするという仕組みを運用しています。そのレポートを見て、本人の意向と社内の状況が合えば、社内転職という形でチャレンジする機会をつくったり配置替えを行なったりしています。

先ほどお話しした、退職希望者とのコミュニケーションの中で、違うことをしたいキャリアを変えたいという理由での退職は、もしかしたら他社に移る必要はなくて社内で解消できるのではないかと考え、それを言いやすい環境づくりに取り組んでいるところです。

― 退職者とのコミュニケーションもそうですが、それぞれ個々の社員の声を筏社長自身が吸い上げ、次に活かすための施策につなげていらっしゃるところがすばらしいなと思って伺っていました

最近、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)という言葉を学びました。

こちらから勝手にこうだろうとか押し付けるのではなく、その人の置かれている環境をまず把握して、その上で何が働きやすい環境なのか、またそれを会社として提供することができるのか、そしてそれが会社としてみんなに平等性があるのかどうなのかっていうことを考えながらやっています。

― ご本人の声を聞きながら、その時々にその人にあったような働き方を会社から提案できる取り組みですね

仕事と家庭の両立って難しい、だからこそ社会を変えていく原動力に

―筏社長ご自身も子育てされながら社長をされているかと思いますが、家庭と仕事の両立についてはいかがですか

小学生になる子どもがいますが、はっきり言って仕事と家庭の両立はできていません。

もう本当に苦労していて、日々悩んでいます。社内でも、子育てしているメンバーにみんなどうやって両立しているのか聞いたり、自分の困っていることを聞いてもらったりしています。

一方では、社内でこれからお子さんが欲しいなと思っている人もいるはずです。本来であれば両立できているよ、みたいな言葉を聞いた方が不安にならないだろうなとは思います。

不安にさせる、怖がらせる意図は全くないのですが、私自身が身をもって体験していること、共働きや家庭との両立がこんなに難しくて大変であること、良い面ばかりではないことを知ってほしいと思っています。

その上で、これからの社員たちが同じ思いをしないように解決していく、仕組みや制度を整えていく覚悟ですし、社員にも変えていくからね、と伝えています。

私は自分が言葉にしたことは、絶対に実現すると信じています。伝え続けて誰かの耳に一度でも入れば、そこから社会を変えていく力になると思っています。

― 自分の思いを発信して知ってもらうことで、同じ思いを持つ人が集まったり興味を持ってもらえたりして、徐々に力になっていきますよね

私自身が妊娠、出産を経て強く感じたのは、もっと事前にいろんなことを知っておきたかった、良い面だけでなくネガティブな面もあることを知っておけば、取り組み方も変わったのではないかという思いでした。

妊娠、出産、育児って幸せで素敵なことだと思っていたのが違っていて、それまではアクティブにできていたことができない、気持ちのコントロールもできず、私自身はすごくつらい思いをしました。こういう壁があるよっていうこと、でもその解決方法は意外と簡単なところにあるんだよっていうのを伝えていきたいという思いがあります。

本来は教育が変わればいいなと思っています。男女の身体や心の違い、ホルモンの影響について、自然に妊娠することもあれば不妊治療というものがあることなど。今は当事者になって初めて知ることになるという状況で、情報量の差や意識の違いもあって、当事者も周囲も困惑していると感じています。

知っているだけで『あーそれもあるよね』、『そんなもんだよね』、と向き合い方も変わると思っています。

伝え続けること、一企業の取り組みが社会を変えていくと信じて 「Minotte」に込めた想い

― 筏社長の想いの詰まった「Minotte(ミノッテ) https://www.minotte.jp/」というブランドについて伺っていきたいと思います。ブランド立ち上げの経緯やブランドに込めた思いなどをお聞かせください

リボン食品は今年(2024年)で117年を迎えます。会社として100年以上、食に関わってきた中で、「食」は、生活や身体の変化によって起こる問題の解決に非常に大切な役割を担っていると感じています。

「Minotte(ミノッテ)」は、ライフステージの変化によるさまざまな不調や、人には言いづらい悩みを、「食」を通じて解決してもらいたい、ひとりで悩むのではなく、ご家族も一緒に心も身体も幸せな毎日を送ってほしいという想いをこめてつくったフードブランドです。

栄養素を摂るだけであれば、サプリメントという選択肢もありますが、Minotteには、「食」を通じて健やかな生活をサポートしたいという願いが込められています。パンやスープといった普段の食事の中で、パートナーやご家族と一緒に楽しく食事をしながら、必要な栄養素を摂取して健やかな生活につなげてほしいと思っています。

私自身、過去に4年強不妊治療をしてきました。当時は、周囲からの言葉に非常に傷つくこともありましたし、そんな中でも、同じ経験をしている人の言葉や看護師さん、胚培養士さんの言葉にすごく救われた一面もありました。

その当時は、何にでもいいからすがりたい、心のよりどころがほしいという気持ちでいっぱいでした。Minotteはそんな悩みを抱えている人の支えに少しでもなるような商品でありたいと思っています。 もちろん商売としてやっている以上は、売上も必要なのですが、人口減少、少子化など今の社会課題に向き合う、ある種の社会貢献という意味合いでの取り組みという一面もあります。

このブランドを立ち上げて、発信すること自体が、社会へのメッセージと思ってやっていますし、これを見て真似てくれる企業が増えて広がる、それが私の描く良い未来だなって思います。

― 必要な人に届けること、横への広がり、浸透が難しくもあり大事なことですよねエビデンスが、治験がと言われてしまう一面もあり、すぐに全体は変わらないものの、コツコツ発信を続けることでどこかのタイミングでガラッと流れが変わることもあると思います。今後の展望についてはいかがでしょうか

Minotteというブランドは、私自身の経験を通して立ち上げたブランドで、これまでは主に妊活中の方や、産前産後の女性をターゲットにしていましたが、手軽においしく栄養素を摂れる食品として、より多くの方に届けていきたいと考えています。

たとえば、貧困で困っている女性や子供たち、望まない妊娠をしてしまった女性や若い世代の方へのサポートとして、コンビニのおにぎりではなくこのMinotteを届けられるように取り組んでいるところです。

― 最後にメッセージをお願いします

リボン食品という会社が、なぜこの社会に存在していて、どういった意味で必要とされているのかを見つめ直し、そこで働く私たちひとりひとりがどんな強みを持っているのかを理解していきたいと思っています。その強みを引き出せる環境が今あるのか、まだないのであればつくっていきたいしもっと強めていきたいと考えています。

リボン食品がより良い会社になることにより、社会が変わっていけばいいなと思っています。

社員に対するメッセージとしては、部下であっても上司であっても、ひとりひとりのいいところを見て、お互いに成長していけるよう毎日を過ごして、仕事につなげてほしいなと思っています。

(取材日 2024年3月8日)