こころのプレコン~恋愛から学ぶ、伝え方・断り方~

「プレコンセプションケア」と聞いて、「なんだか妊娠とか出産の話でしょ?」と思った人もいるかもしれません。

確かに、医療の世界でプレコンセプションケアは、“将来の妊娠・出産に備えて、知識を身に着け健康管理をすること”を指します。けれど、心理士の立場から見ると、プレコンセプションケアはもっとずっと早くから始まっているのです。

たとえば、恋愛。

誰かに好かれてドキドキしたり、逆に「これ以上はちょっと…」と感じたり。

そのとき、「自分の心をどう扱うか」「相手にどう伝えるか」を知っているかどうかで、将来のパートナーとの関係性づくりは大きく変わるかもしれません。

自分もパートナーも大切にしながら関係を深めていくコミュニケーションスキルを、私たちは恋愛を通じて学んでいきます。そしていつか子どもが欲しいと思ったとき、そのスキルを発揮しながら家族を作っていくわけです。

つまり恋愛は、プレコンセプションの入り口のひとつだと考えられます。

目次

恋愛は身体に影響を与える

恋愛の初期は、ある意味、幻覚を見ているような時期です。

脳内でドーパミンやフェニルエチルアミンといった恋愛ホルモンが暴れており、相手が3割増しで素敵に見える。

この時期、人は「好きな人のためなら無理できちゃう」と思い込みやすいのです。

でも、長期的に見ると、それは身体にあまりよろしくない。

心理学では、他者との関係を保ちながら自分の心身の安定を守る力を「セルフレギュレーション(自己調整)」と呼びます。セルフレギュレーションを保つには、ある程度、自分を客観視する必要があります。

しかし、恋愛初期は相手のことしか見えていなくて、セルフレギュレーションが鈍っている状態でもあります。

「彼(彼女)のことを考えると食事が喉を通らない」「LINEが返ってこないと心臓がキュッとなる」…。

ドラマならロマンチックでも、現実の神経系はずっと緊張していて、不安や嫉妬でコルチゾール(ストレスホルモン)が増えやすくなったりします。

良くも悪くも、恋愛は身体に影響するのです。

「好き」だからこそ、境界が必要になる

恋愛関係で特に難しいのが、“どこまでが自分で、どこからが相手か”という境界(バウンダリー)の線引きです。

相手を大切に思うほど、「嫌われたくない」「合わせなきゃ」と思ってしまう。

でも、それが続くといつの間にか自分の心の声が聞こえなくなっていきます。そう、セルフレギュレーションが鈍ってくる。

境界を持つというのは、「拒絶」ではありません。

「お互いに安心していられる距離を調整する力」です。

たとえば「疲れている日は電話したくない」「身体的なスキンシップにはまだ早い」と感じたときに、その気持ちを我慢するか伝えるかで、その後の関係性はまったく変わります。

境界線を引くことは、“自分と相手、どちらも尊重すること”です。

相手の要求に合わせ続けるのではなく、「私はこう感じている」と伝えることも、「あなたはそう感じているんだね」と受け止めることも、どちらも両立している…これが、境界線を引けている状態です。

とはいえ、「そう言われても難しいんだよ」という声が聞こえてきそうです。

はい、その通り。

日本の恋愛文化は空気を読むことが美徳とされるため、言葉にするのが苦手な人が多いのかもしれません。

でも、空気を読み合う関係は、最初のうちは心地よくても、いずれどこかでズレが生まれます。

確かに、「言葉にしなくても伝わる」ことも、時にはあるでしょう。でも私たちはエスパーじゃない。「言葉にしなきゃわからない」ことが、私たちの人生にはたくさんあるのです。

言葉にして、「そうだね」「ちょっと違うかも」という確認を取ること。それを言えるのが適切な境界線を引けている状態であり、親密な関係性を育むことでもあります。

沈黙はNot YES、YESだけがYES

「性的同意(sexual consent)」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。

「相手の同意がなければ性的行為をしてはいけない」「NOが言えない状況でのYESには意味がない」というのが基本的な考え方ですが、心理的にはそれだけでは語り尽くせません。

あなたはこれまでの人生で、「YESと言わないけど、NOとも言えず流された経験」がどれくらいあったでしょうか。

恋愛に限らず、様々な場面で幾度となく経験してきたのでは?

その背景には、拒否したら相手を傷つけるのではという不安や、自分の気持ちを明確にすることへの怖さがあります。

つまり、「同意」は言葉よりも、心の安全感に左右されるものなのです。

「嫌なら嫌って言えばいいじゃん」と簡単に言う人がいますが、実際は“断る”という行為そのものが、相手の怒りや失望を招く可能性があるから難しいのです。

拒否は、単なるNOではなく、勇気を要する自己表現。

そして、その勇気を支えるのは「自分の気持ちは尊重される」という確信です。

同意とは、「YES/NO」の二択ではなく、お互いが安心して考え・話し合える関係を作ること。だから本当は、“同意”よりも“関係構築”と言ったほうが正確かもしれません。

自分の心に「同意」を取る

恋愛では、相手の気持ちを優先しすぎて、自分の本心がわからなくなることがあります。

頭では“好き”と思っていても、体や心がサインを出していることもあります。

・一緒にいると妙に疲れる

・スキンシップのあと、罪悪感が残る

・ちょっと否定的なことを言われると、その言葉が頭から離れない

そんなときは、まず「本当に私はこれを望んでいるのか?」と自分の心に同意を取ることが大切です。

一呼吸おいて自分の感情を確かめること…それが“自分の心とのコンセント(consent)”です。

もし「NO」や「わからない」という気持ちが出てきたら、それを尊重してあげてください。

相手を拒むためではなく、自分を大切にするためのサインです。

プレコンセプションケアは、未来の子どもや家族を守るためだけではなく、いまの自分の身体と心を大切に扱うことから始まるのです。

「同意」は愛情のスキル

ここまで読むと、「なんだか恋愛って面倒くさい」と感じた人もいるかもしれません。

そうですよね、恋愛はめんどくさい。コスパが悪い。

でも、その面倒くささを引き受けて、特定の他社と親密な関係を築いていくことが、人としての成熟でもあります。

(もちろん、恋愛だけが人として成熟する唯一の方法というわけではありませんよ)

性的同意は愛情のスキルです。

相手に確認するのは、信頼しているからこそ。

相手の沈黙を気づかうのは、思いやりがあるからこそ。

そして、「今日はやめておこう」と言えるのも、勇気があるからこそ。

プレコンセプションケアの原点は、自分の身体と心を大切にすること。

それができる人は、きっと未来のパートナーも大切にできます。

おわりに

恋愛は、普段は隠れている心の柔らかい部分を浮き彫りにします。

自分の感情のクセ、境界のゆるさ、我慢のしやすさ。

自分でも知らなかった、自分の汚いところや幼いところがたくさん出てきます。

自分や相手を傷つける経験も、きっとたくさんするでしょう。

そんな経験を通して、

「私はどうしてこんなに自信が持てないのだろう」

「自分の感情って、どうやって落ち着ければ良いんだっけ?」

という問題を一つ一つクリアしていってください。

それが、未来のあなたとパートナーの関係性を作っていくでしょう。

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この記事を書いた人

不妊治療や性、カップルのことを専門にしています。
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