女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、兵庫県下でエルザ動物病院グループとして、動物病院を7つ運営する「株式会社エルザクライス」を取材しました。
獣医師、動物看護師、アニマルケアスタッフ、フロントスタッフなど100名以上のスタッフがいきいきと働ける環境づくり・仕組みづくりについて、経営管理本部 総務企画チーム 藤田マネージャーにお話を伺いました。
専門性を持ったスタッフによるチーム医療で動物たちの健康と幸せを守る
― まずは貴社の事業内容についてお聞かせください
当社は、エルザ動物病院グループとして、兵庫県姫路市を中心に地域密着型の動物病院を7つ運営している会社です。犬・猫・エキゾチックアニマルなどの小動物診療、動物園の野生動物診療、動物保護NPO団体の運営受託を中心に事業を展開しています。
「動物愛護精神を持って 動物たちの健康と幸せを守り 飼主さまに安心を提供する」をミッションに掲げ、町のホームドクターとしての1次診療から、転院や紹介にも対応した高度医療まで行っています。
― スタッフの構成や男女の比率はどのようになっていますか?
獣医師や動物看護師、アニマルケアスタッフ、受付フロントスタッフなど、全体で150名弱のスタッフが所属しています。各職種が互いの専門性を持ち寄ってチーム医療を行うことで、人の医療同様に深く専門的に診療できる体制を整えています。
年代のボリュームゾーンは20代〜30代前半で、比較的若いスタッフが多い環境です。男女比は男性3:女性7です。
女性スタッフが長く働ける環境を目指して 両立支援の制度や運用の工夫
― 両立支援や女性活躍のためのこれまでのお取り組みの結果として、「プラチナくるみん」の認定取得につながったと伺っておりますが、その背景や取り組みのきっかけをお聞かせください。
獣医師は比較的男性も多いのですが、動物看護師や受付スタッフの多くは女性です。女性スタッフの活躍なくして、当グループの事業、特に病院の運営は成り立たないと思っています。
女性スタッフに長く安心して働いてもらいたいという会社としての想いがあり、子育てとの両立がしやすい仕組みを整えてきました。その取り組みを行う中で、認定や認証があるというのを後から知って、申請を行ったという経緯です。
― 具体的にはどんな制度やサポートがあるのでしょうか?
スタッフの年齢層として若い人が多いので、子育ての両立支援にまず取り組んでいます。
特長的な部分としては、子どもの看護休暇の制度を一般的には小学校就業までのところ、当社は中学校就業まで延ばしています。
そのほかには、育休から復帰予定のスタッフに対して、予定より早めに復帰していただける場合は、月2回まで家事代行サービスを会社が費用を負担しますよという制度があります。昨年始めたばかりの制度なので、まだ利用実績はないのですが、会社の都合で早めに復帰していただきたい時や、ご本人の希望で早めに復帰したい時などにうまく活用してもらえるといいなと思っています。
あとは保育園ですね。地域の保育園で企業主導型の保育事業を提携して、入園できる枠を確保しています。
―男性の育休取得についてはいかがでしょうか?
男性育休の取得は、まだ8割程です。ただ、期間は最大で2週間取得したスタッフもいましたが、ほとんどが有給取得程度の短期的な取得にとどまっています。
人事担当としては、1ヶ月間などの期間単位で取得してほしいという想いはありますが、特に専門職種は人手が増えないとまだ難しい部分もあります。
また社内には、まだまだ男性が育休を取るということに対する抵抗感のある方もいると思っています。制度や環境の整備も含め、男性育休取得に対する意識を変えていく必要があるなと感じています。
― 子育て以外の両立支援への取り組みはありますか?
今ちょうど取り組んでいるのが、子育て前の若い世代に対する、健康課題へのサポートです。
生理休暇の制度はすでにあるのですが、若い女性スタッフでずっと取得する状態の方がおり、話を聞いてみると、誰かに相談したり病院に行ったりするわけでもなく、毎回苦しさに耐えながら休んでいるという状態でした。周りの女性スタッフが、若いスタッフこそもっと自分の身体や体調を気にかけるきっかけをつくった方が良いのではないかという提案もあり、社内で意識調査のアンケートをとりました。
アンケートの結果として、20代のスタッフは体調や自身の健康、特に女性特有の健康課題にあまり意識がまだ向いていないことがわかりました。
その結果を受け、女性の健康管理についての研修を社内で実施しました。どこまで本人たちの意識が変わっているか現状ではまだ追えていないのですが、特に若い女性スタッフに対して健康管理について伝えるような施策を継続的に実施したいと考えています。
より良い獣医療の提供と安心して働ける動物病院を目指して
― 女性が安心して働ける、継続して働きやすくするための取り組みを最初に始められた時期はいつ頃になりますか?
10年ほど前に経営管理本部という部門をつくりました。その当時は、管理本部の部長として、今の代表(エルザ動物病院グループ代表 長谷 宜勇さん)が就任していました。これから人がどんどん少なくなっていく時代を見据え、従業員スタッフの支援をしっかりするべきだという想いのもと取り組みが始まったと聞いています。
― 女性の活躍という部分で、活躍している女性やロールモデルとなるような方はいらっしゃいますか。
もともと動物看護師として入社して、ご結婚、ご出産を経て、2人のお子さんを育てながら、現在看護部長かつ執行役員として活躍している方がいます。
あと、社内ではないのですが、今、獣医師を目指す女性が増えています。
採用担当として獣医学部の学生とも接する機会が多くあります。以前は、獣医師や獣医師の志望者は男性の方が多かったのですが、今はだいたい6割〜7割近い学生が女性になっています。
今後、当社に入社する獣医師も、女性の方が多くなってくると思っています。
―獣医師に女性が増えているという点からも、貴社の女性活躍のための取り組みが今後のためにも重要だなと思いました。
そうですね。女性獣医師が働く環境は、これまでの一般的な働き方でいうとフルタイムでずっと働くのが当たり前の世界で、結婚・出産を経てしまうと復帰できないという状況でした。
当社の場合、産休・育休を経て継続して働く、育児がひと段落してから復帰する、どちらの場合でも管理職として勤務を続けている方も多くいますので、業界の中でも継続して働きやすい環境がしっかり整っていると実感しています。
― 一度現場を離れたけど、戻りやすい仕組みが整っていることがポイントだなと感じました。
20年ほど前までは、獣医師として動物病院の勤務医として働くことは当たり前ではなく、獣医学部を出たらまずは病院に勤務して、何年か経験を積んだら開業するという選択肢しかありませんでした。 当社で勤務医として継続的に働く方が増えてきているという点では、全国的にはかなり珍しいと思います。今30人ほどの獣医師が在籍していますが、10年以上継続して勤務している方も多くいます。
― 経営側としては、長く働けるような仕組み作りをしてきて、この業界の中では珍しいくらい勤続年数が長い人たちが多いという状況になったということは、これまで取り組んできたことが結果になって見えてきているっていうことですよね。
そうですね。当社では、各職種が互いの専門性を持ち寄ってチーム医療を行うことで、広く深い動物医療の提供を実現したいというビジョンがあります。また、創業者である先代の代表が、個人で獣医を営んでいた時の原体験も、今の当社の働き方や方針への影響が大きいと思っています。
みんなで協力しながら働いた方が、飼主さまや動物たちに良い獣医療を提供できて、安心してご利用いただけるし、スタッフの満足度も高まるでしょうという発想で、体制を整え病院を大きくしていったという経緯があります。その代表の考えがずっと根付いて今の会社の方針につながっていると思います。
― 復帰しやすい工夫や社内で制度を浸透させる取り組みを教えてください
産休や育児休暇を取得する対象者には、休みに入る前と復帰前にカウンセリングや面談を実施して、制度や使い方の話をしています。
全体には、社内コミュニケーションツールを使って周知を行なっています。
また、育休中の方に対しても社内コミュニケーションツールを使って、業務に関する最新の情報を共有しています。何か不安なことがあれば、担当業務に対する研修資料を見てもらう、オンラインでの研修やセミナーに参加してもらうなど、なるべくスムーズに業務に戻れるよう準備期間を設けるようにしています。
― 7つの病院でそれぞれ勤務しているスタッフ同士のコミュニケーションの工夫はありますか?
新人歓迎会や忘年会で集まる機会を作っています。
また社員旅行も年一回実施しています。獣医師、看護師、管理部門など職種や勤務形態はバラバラなので全社員は同時には休めないのですが、各職種、各病院の人を折り混ぜて10人から15人ぐらいのグループに分けて、グループ毎に予算内で行く場所、内容を決めて行ってもらっています。
近場に出かけて日帰りでも豪華な食事をするグループや、弾丸で沖縄に一泊二日で行くグループなどいろいろあります(笑)。
また最近新たに、3名以上での食事やカフェ利用などで気軽に使用できる「コミュニケーション手当」を設けました。利用確認のために、参加者全員が写った写真をタイムラインで共有してもらう仕組みなのですが、スタッフから毎日様々な写真がアップされていて、みなさんが楽しみながらこの制度を利用してくれています。
―さいごに、今後さらに取り組んでいきたいことがあればお聞かせください。
代表の想いと我々の取り組みは、徐々に浸透しているかなと思っています。
これまでは会社側から制度をつくってという流れが多かったのですが、最近、企業主導型保育園のことを知ったスタッフが、自宅の近所の保育園を利用したいので会社で契約してもらえないかという相談があり対応することがありました。
経営管理本部 総務企画チーム 藤田マネージャー
今後取り組みたい点としては、先ほどお話した家事代行サービスが利用できる制度、ルール自体はありますが、まだ実績が全くない状況です。制度を利用する側はもちろんですが、支える側のサポートの一環としても、安心して復帰を早められるような制度や実績を増やしていきたいなと思っています。
―すばらしいですね。会社として取り組んでいることがきちんと社員に伝わって、社員から声が上がってくるっていうのはすごく理想的だなっていうのは思います。本日はありがとうございました!
■ 会社情報
会社名 | 株式会社エルザクライス |
所在地 | 兵庫県姫路市 |
事業内容 | 動物病院運営 |
創業 | 1979年 |
設立 | 1985年 |
従業員数 | 149人(パート・派遣社員含む) |
公式ページ | https://www.elsa-hp.com/ |