管理栄養士が解説!未来の健康と人生設計を支える「プレコン栄養習慣」のすすめ

従来、妊娠や出産に関する栄養指導は「妊娠がわかってから」始まることがほとんどでした。しかし近年、「妊娠前からの健康状態」が、その後の妊娠の経過や、生まれてくる子どもの健康に大きく関わることが明らかになっています。

この考え方をもとに、「プレコン栄養習慣」というアプローチをおすすめしています。


 これは、妊娠を考える前の段階から、自分自身の身体と向き合い、将来の健康リスクを予防するための栄養習慣を身につけることを目的としています。

将来の妊娠・出産に備えることはもちろん、日々の不調の改善や生活の質の向上、さらにはパートナーや家族の健康への意識づけにもつながっていきます。

栄養の視点から見るプレコンの重要性

妊娠高血圧症候群と食事の質

日本の出生コホート研究(JECS, 2023)によると、野菜・魚・豆類を中心としたバランスの良い食事をとっている人は、妊娠高血圧症候群(HDP)のリスクが有意に低いことが示されています。

食物繊維と早産リスク

海外の大規模研究では、野菜・果物・穀物からの食物繊維摂取量が多い女性ほど、早産(PTB)のリスクが低いという関連が報告されています。腸内環境を整えることが母体の炎症状態を改善し、妊娠経過に良い影響を与えると考えられています。

ビタミンDと妊娠転帰

ビタミンD不足は排卵障害や骨の健康リスクと関連しますが、一方で過剰摂取は低出生体重や早産のリスクを高める可能性があることが報告されています。

ビタミンDを豊富に含む、魚介類、鮭、きのこ類を積極的に摂取しましょう。

鉄と葉酸の重要性

鉄欠乏性貧血は世界的にもっとも多い栄養問題であり、日本の女性においても20〜30%にみられます。妊娠前から鉄不足を補っておくことで、母体の疲労感の軽減や胎児の発達支援につながります。

葉酸については、妊娠前からの摂取が神経管閉鎖障害の予防に有効であることが確立されており、世界的にも推奨されています。

全粒穀物・地中海食型のメリット

全粒穀物や豆類、魚、オリーブオイルを中心とした食事(いわゆる地中海食型)は、妊娠率の向上や流産リスクの低減とも関連があると報告されています。

日本人の食習慣の現状

国民健康・栄養調査によると、日本人女性は以下のような特徴があります。

野菜摂取量が平均で1日260g程度(目標は350g以上)

鉄・カルシウム・葉酸の摂取不足が顕著

若年層ほど朝食欠食が多く、加工食品依存傾向が強い

脂質比率は上昇傾向にあり、特に飽和脂肪酸が多い

これはプレコン期に望ましい栄養状態からは乖離しており、「不足と過剰が同時に存在する」という課題が浮き彫りになっています。

今日から始める「プレコン栄養習慣」

① 野菜・果物を毎食1皿プラス

食物繊維・抗酸化ビタミン・ミネラルの補給に直結します。腸内環境改善と生活習慣病予防にもつながります。

② 炭水化物の質を見直す

白米や精製パンだけでなく、雑穀米や全粒粉、オートミールを取り入れることで、血糖値安定・B群補給に効果的です。

③ 鉄と葉酸を意識的に補給

赤身肉、魚、大豆製品、葉物野菜に加え、妊娠を希望する場合はサプリメントも積極的に活用しましょう。

④ 良質な脂質を選ぶ

青魚やナッツ類、オリーブオイルなど、オメガ3や不飽和脂肪酸を中心に。揚げ物・スナック菓子は控えめにしましょう。

⑤ 必要に応じたサプリメントの選択

闇雲に飲むのではなく、食事状況・血液検査に基づき、葉酸・鉄・ビタミンD・カルシウムなどを適切に摂取しましょう。

栄養習慣と“未来設計”のつながり

プレコン栄養習慣は、単に「妊娠のため」ではありません。

生活習慣病予防(糖尿病・高血圧・脂質異常症のリスク低減)

心身のコンディション改善(疲労回復、精神的安定)

・将来の介護リスク低減(骨粗鬆症やフレイル予防)

・キャリア形成やライフデザインの支え(集中力・体力の基盤づくり)

つまり「未来の選択肢を増やす投資」としての意味があるのです。

おわりに

プレコンは妊娠準備にとどまらず、未来の健康を守り、自分らしい人生を歩むための大切なアプローチです。

栄養は毎日の積み重ねであり、最も始めやすいケアのひとつとなります。

今日から「野菜を1皿増やす」「鉄分を意識する」といった小さな一歩を踏み出すことで、未来の自分や家族の健康を支えることができます。

未来の自分に向けた“栄養投資”を、ぜひ始めてみましょう。

参考文献

  1. orld Health Organization. Meeting to develop a global consensus on preconception care to reduce maternal and childhood mortality and morbidity. WHO, 2013.

  2. Centers for Disease Control and Prevention. Recommendations to Improve Preconception Health and Health Care — United States. MMWR, 2006.

  3. Japan Environment and Children’s Study (JECS). Maternal dietary patterns and risk of hypertensive disorders of pregnancy. 2023.

  4. Zhou W, et al. Maternal dietary fiber intake and risk of preterm birth: findings from a large cohort study. Nutrients, 2024.

  5. Zhang Y, et al. Vitamin D supplementation and pregnancy outcomes: a systematic review and meta-analysis. BMC Pregnancy Childbirth, 2022.

  6. 厚生労働省. 国民健康・栄養調査. 令和5年

  7. 厚生労働省. 神経管閉鎖障害の発症リスクの低減に関する報告書
  8. Karayiannis D, et al. Adherence to a Mediterranean diet and IVF outcomes: a prospective cohort study. Human Reproduction, 2018.