新型コロナウイルス感染症の“5類”移行後から見えてくる男性の妊活への影響~後編~

ファミワン胚培養士の川口です。

前回、新型コロナウイルス感染症の“5類”移行後から見えてくる男性の妊活への影響~前編~では、男性が新型コロナウイルスへ感染することによって、高度な乏精子症が引き起こされる可能性について、ヨーロッパの生殖医療専門学術誌Human Reproductionに掲載された研究論文をご紹介させていただきました。

この研究論文の中では、もともとの造精機能(精子を造る機能)が正常の方であれば、感染状態から治癒した後、時間の経過とともに造精機能が回復してくる可能性を示唆していました。

では、新型コロナウイルス感染症に罹患してしまったら、どのくらいの期間で造精機能に回復が見られてくるのでしょうか?そして、感染後に妊活を再開するタイミングはいつ頃にしたらよいのでしょうか?

今回は、これら課題解決の糸口として、昨年、アメリカの生殖医療専門学術誌Fertility and Sterilityに掲載された研究論文をご紹介します。

新型コロナウイルス感染後どのくらいで造精機能が回復する?

この研究では、新型コロナウイルス感染症から回復した約120人の男性(平均年齢34.7±9.1歳)を対象とし、リスト化された15症状(発熱、咳、息切れ、倦怠感など)が治まった後の➀精液中のウイルスの有無、➁精液検査所見(精子数・運動率・形態的な評価・DFIなど)、➂血液中のウイルス抗体価、などについての調査を180日(6カ月)に渡って経時的に行いました。

まず、①の結果として、感染による症状が収まり治癒した後では、精液中に新型コロナウイルス(RNA)は検出されませんでした。

次に➁については、精子濃度(精子の数)が、WHOが示す精液検査基準値である1600万/mlよりも顕著に少ない乏精子症が、感染後0~31日では37.1%、感染後32~62日では29.4%、感染後63+日では6.3%に認められました。

また、精子の運動性が不良とされ、WHOが示す精液検査基準値である精子運動率42%よりも低い精子無力症は、感染後0~31日では60.0%、感染後32~62日では37.2%、感染後63+日でも27.6%で、精子の運動性の回復にはかなりの時間を要する可能性について示唆しています。

加えて、精子の形態的な評価について、形が異常を示す奇形精子症が、全体の67.0%という極めて高い頻度で確認されたことも報告しています。

さらにもう一点、非常に興味深いのは、本研究ではDFIについての評価も報告している点です。

DFIとはDNA Fragmentation Indexのことで精子のDNA断片化指数、簡単に言えば、DNAの損傷した精子が精液中にどのくらいの割合でいるのか?を調べる検査です。

精子の“質”を調べる検査としても知られており、喫煙や飲酒などの生活習慣のほか、年齢やBMIなどの健康指数とも関係性が高いと言われています。

感染しても治癒後であれば妊活は可能

DFI検査の結果、高頻度の精子DNA断片化(※損傷した精子の割合が全体の25%以上)が示されたのは、感染後0~31日で28.6%と顕著に高く、63+日では15.6%に低下し、その後も感染からの経過時間が長くなるほど低下傾向が見られたと報告しています。

以上、本研究の報告をまとめると、新型コロナウイルスに感染してしまった場合、精子になんらかの負荷がかかることは否定できず、感染による精子への悪影響を防ぐことは極めて難しいと考えられます。

特に、感染後0~62日(1~2ヶ月間)は精子の性状が悪くなっていることが考えられ、中でも精子の運動性については回復に長い時間を要する可能性があります。

精子数や運動性、形態評価などを総合的に見ていくと、最低でも3ヶ月程度は回復に時間がかかると考えられます。

一方、感染による症状から完全に治癒した後では、精液中にウイルスが認められなかったことから、治癒後であれば性交渉(精液)を介しての感染の可能性は低いです。このことから、一般的な妊活であれば、症状が完全に治癒した後であれば再開が出来ると考えてよいと思われます。

終わりに

5類への移行後、感染者への行動制限が無くなり、海外への往来も解禁され、街に活気が戻ってきている反面、第9波、第10波のリスクも非常に高まっていると言えます。

前編・後編とご紹介した2つの論文が示す通り、精子に悪い影響を与えない一番の方法は「新型コロナウイルスに感染しないこと」です。妊活においては引き続き感染対策に留意しましょう。

さまざまな専門家が在籍!ファミワンにあなたのお悩みをご相談ください
企業担当者の方へ

ファミワンでは法人向けサービスとして、女性活躍推進を軸としたダイバーシティ経営を支援する法人向けプログラム『福利厚生サポート』を提供しています。従業員のヘルスリテラシー向上や、組織風土の変容に役立つのみならず、利用促進の広報資料の作成までカバーしており、ご担当者様の負荷の削減にもつながります。