不妊治療による夫婦関係の変化

いくつかの国内の研究では、不妊治療中の夫婦は、自分たちの夫婦関係を悪く捉えていると言われています。

不妊治療中、女性は月経前に妊娠への期待や緊張を感じ、月経が来るたびに落ち込む経験を繰り返します。このような心の乱高下は心身ともに大きな負担となります。男性にとっても、すぐそばにいるパートナーが苦しんでいる様子は不安を掻き立て、自分はパートナーのために何をしてあげたら良いのだろう、という悩みをもたらします。

精神的な健康度が高いほど夫婦関係の満足度は高いと言われているのですが、不妊治療中は男女で程度の違いはあれ、抑うつ感や不安感が高まることも明らかになっています。つまり、不妊治療中は治療による精神的負担が大きくなるため、自分たちの夫婦関係を悪く捉えやすい傾向があると考えられます。

 不妊治療期間と夫婦関係の関連については、

  • 治療期間が短い方が夫婦関係の満足度が高い傾向があること
  • 治療期間が短い方が、「不妊の経験は自分の人間的成長に繋がった」など治療経験を肯定的に捉える傾向があること

が示されています。

 また、夫婦間で不妊治療に対するお互いのサポートや調整が上手くいっていない夫婦では、

  • 治療期間が2年以上になると治療成果に対する自信が低下し、先々の生活が予測できない感覚が強まること
  • 治療期間が5年以上になると、「この辛さはいつまで続くのだろう」と感じるようになること

が示されています。

 不妊治療が保険適用化され、自治体によっては独自の助成制度を設けるところも出てきました。企業や自治体、そして社会全体で不妊治療を受けるカップルを支援しようという経済的・意識的な変化が促進されてきたと言えるでしょう。

 一方、一部の人にとって保険適用は、不妊治療の長期化をもたらす制度となっている可能性があります。これまでは自由に治療内容を組み合わせることができましたが、此度の保険適用では決められた内容でしか治療を進めることができません。人によっては、保険適用内で治療をしようとすると、子どもを授かるまで遠回りの治療となることが生じ得ます。

 治療が長期化すればそれだけ年齢を重ねるわけですから、妊孕性(にんようせい:妊娠しやすさ、妊娠する力)は低下します。妊娠しにくくなるだけでなく、精神的負担も大きくなるのは容易に推察できます。すると、夫婦関係を良好に保つことが難しくなってくる、あるいは、夫婦関係を良好に保つために意図的に努力や工夫が必要になると言えるでしょう。

これまでの生活とどのように変わるのか、変えたくないことは何か

では、夫婦関係を良好に保つためにどのような努力や工夫ができるでしょうか。夫婦関係に影響を与える不妊治療の場面として、

  • 家事参加
  • 医療機関の受診、治療の開始・継続・終結などの意思決定

が挙げられます。

 家事参加については、主に通院する女性の具体的な負担を軽減するために重要ですから、イメージしやすいのではないでしょうか。治療のために仕事を休み、遅刻早退をすれば、残りの限られた時間で与えられた仕事のタスクをこなさねばなりませんから、仕事に対するプレッシャーも高まります。休みや遅刻早退を繰り返すということは、職場の人にその都度「申し訳ありません」「サポートしてくださってありがとうございます」と頭を下げて回ることもあります。そういった状況の中、仕事でできるだけ成果を出そう、他のメンバーに貢献しようとして、人一倍がんばろうとする方も多くいらっしゃいます。

 こうした、不妊治療を始めることによって避けられない生活の変化は、治療の種類にかかわらず必ず起きるものです。不妊治療を始めたら、以前と何がどのように変わったか、少しでも二人の負担を少なくするためにお互いに何をしてほしいか、あるいは何を変えてほしいか、具体的に話し合っておけると良いでしょう。

 二人にとって変えたくないことは何か、を話し合っておくことも重要です。「一緒に出かける時間」「1日の終わりにその日の出来事を話すこと」など、不妊治療で生活がに変化があったとしても大切にしたいことは何か、考えてみてください。

「あなたの思うようにしていいよ」は誰のための言葉?

 不妊治療には様々な意思決定場面が存在します。子どもを授かるために不妊治療を受けるか、検査だけでも受けてみるか、治療を始めるならどの治療から始めたいか、治療内容を変える(ステップアップorダウンする)タイミングをどうするか、治療を終わりにするか続けるか…これらの場面でその都度、「二人で一緒に決めている」という感覚を持てることが重要です。

 お互いの気持ちや考えを尊重しようとして、「あなたの思うようにしていいよ」「君の好きなようにしていいよ」と、相手に意思決定をゆだねるコミュニケーションをとることがあります。それ自体が必ずしも問題なわけではないのですが、このようなコミュニケーションは

  •  相手に決断と決定権をゆだねる
  •  相手に責任を負わせる
  •  意思決定の責任を放棄する

ことになります。こう言われた相手は、「パートナーは一緒に考えてくれないのか」「自分の考え次第で、将来子どもができるかどうか変ってしまうかもしれない」と、心細さや責任の重さを感じます。

 相手の気持ちや考えを尊重しつつも、自分にも意見があることを伝えられた方が、「二人で一緒に決めている」という感覚を持つことができます。「私はこうしたい、こう考えているよ。あなたはどう考えているか教えてほしい」といったように、まずは「私は」という言葉から伝えてみましょう。その上で、「あなたはどう?」と問いかけることを心掛けてみてください。

妊娠期以降は夫婦の認識のズレを調整していくことが重要

 妊娠中、女性は自分の体の中で命を守り育てます。自分の行動一つ一つが赤ちゃんの命と発育に影響するかもしれないのですから、食事、歩行、寝る時の姿勢など、生活のあらゆることに注意を払うようになります。また、つわりや胎動など、身体の変化を顕著に感じます。妊娠したことを体で感じることができるため、男性に比べて親になる心の準備も早く進んでいくと言われています。これが、「親になること」に対する夫婦の認識のズレに繋がるのです。

 妊娠期、妻が夫のどのようなかかわりに満足を感じるか、という研究は複数あります。これらの研究では、夫婦の認識が共通していることと、ズレていることがあると示されています。

 夫婦がともに認識していること、つまり、妻が夫に望む行動かつ、夫が実行できていると思っている行動としては、次のようなものが挙げられます。

  • 妻の妊娠を一緒に喜ぶ
  • 妻の仕事を理解して妻の意思を尊重する
  • 妻の家事労働の負担を軽減する
  • お腹を撫でたりお腹の子どもに話しかける

 一方、妻が望む程度に夫は実行していないが、夫は実行できていると思っている行動として、次のようなものが挙げられます。

  • 妻の話を聞く、気づかう言葉をかける
  • 今まで以上に家事労働に参加する
  • 子どもを迎えるための話し合いや準備をする

育児期に入ると、「夫の協力が得られない」と感じることで妻の夫婦関係満足度が低下します。一方で、育児期に「夫からのサポートが得られている」と感じている妻は、夫婦関係満足度が上昇していると報告されています。

育児期に夫が子育てにどれくらい関わるかは、夫の個人的な資質(性格、育児への関心度など)だけで決まるのではありません。夫が子育てに関わるように妻が積極的に促すことで、父親の子育てに関わる程度、一緒に子育てをしているという感覚、夫婦関係の満足度が高まるという調査報告があります。夫が子育てに関わるように妻が積極的に促すとは、具体的には次のようなことです。

  • 夫の育児行動を支持する(肯定する)
  • 夫の育児行動を尊重する(自分と夫の子育て行動について違いがあることを認める)
  • 夫の育児行動を激励する(励まし勇気づける)

 育児の仕方について、夫婦でちょっとしたやり方の違いはあって当然です。例えば乳幼児期なら、

  • おむつを替える頻度
  • 子どもが泣いたときにすぐに声をかけるのか見守るのか
  • お風呂の入れ方
  • 汗をかいた後に着替えさせるかどうかの判断

学齢期以降も、

  • 宿題をしたがらない子どもに根気強く声をかけ、勉強に付き合うのか。声はかけるが基本的に子どもの自主性に任せ、その代わりに宿題を忘れた責任も子ども自身にあることを教えるのか
  • ゲームをする時間を親が管理するのか、子どもと一緒にゲームに関するルールを作るのか

などなど、例を挙げればきりがないほど、夫婦それぞれの知識や価値観が育児に反映されます。

このようなズレがあること自体は、問題ではありません。ズレがあることを認識し、夫婦で一緒に「こうしていこう」と話し合えることが重要です。夫婦間で認識のズレがあるとわかったら、お互いに話し合い、理解し合おうと努めることで、夫婦関係の満足度や精神的健康は高めることができると考えられます。

妊活・不妊治療中から妊娠、出産、育児といった経験の中で、夫婦は様々な葛藤やストレスと出会います。しかし、こうした課題を一つ一つ積極的に乗り越えていくことで、「この人とならピンチを乗り越えていける」という信頼関係に繋がっていきます。

「家族なのだから言わなくてもわかる」「夫婦なのだから察してほしい」と思ってしまうのは、夫婦の信頼関係を強めるチャンスを逃すことになります。大切な家族だからこそ、お互いの気持ちや考えを伝え合うよう心がけていきたいものですね。

参考文献

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加藤道代,黒沢泰,神谷哲司(2014):夫婦ペアレンティング調整尺度作成と子育て時期による変化の横断的検討,心理学研究,84(6),566–575.
・中島久美子,常盤洋子(2011):妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識, 日本助産学会誌, 25(1),  45-56.
・西岡啓子,成田伸(2018):不妊治療を受ける女性の認識する不確かさと関連要因,日本生殖看護学会誌,15 (1),15–25.
・岡永真由美,藤島由美子,北村郁子(2006):より高度な不妊治療を継続し出産に至った女性の体験,神戸市看護大学紀要,10,23–31.

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