北海道の培養士が教える!道内の妊活ポイント ~たばこ編~

赤ちゃんを望むご夫婦にとって、たばこは正に「百害あって一利なし」です。

喫煙が健康や生殖に悪影響をもたらすことは、今では広く知られています。喫煙により発生する主流煙には、粒子成分がおよそ4300種、ガス成分がおよそ1000種、計5300種ほどが含まれていると報告されています。たばこに含まれる多くの化学物質は、肺から血液を介して全身の臓器に運ばれるため、卵子や精子の染色体にも損傷をもたらし、卵子や精子・受精卵の質を低下させる可能性があります。また、喫煙は、女性側では血流減少や卵質低下、卵巣機能低下、着床能低下などをもたらし、男性側では精液量減少や異常精子増加、EDリスク上昇などにつながります。結果として、妊娠率低下や流産率上昇、先天異常の増加をもたらすことが、これまでに多く報告されています。体外受精でも、喫煙習慣がある場合には、たばこを吸わない場合に比べ妊娠成立までに2倍の時間がかかる、との報告もあります。

北海道民の喫煙率は女性がワースト1

全国的に喫煙率は年々低下していますが、最近の成人(20歳以上)喫煙率を見てみますと、「毎日吸っている」または「時々吸う日がある」と回答した割合は、全国平均が男女計16.1%、男性25.4%、女性7.7%であるのに対し、道内平均は男女計20.1%、男性28.1%、女性13.2%であり、すべて全国平均を上回っています。都道府県別順位では、北海道の喫煙率は男女計がワースト3位(1位福島、2位青森)、女性はワースト1位となっており、特に、道内女性の喫煙率は他県と比べて突出して高いことが示されています。また、妊活希望者の多い年齢層である25~49歳に焦点を当てた場合、喫煙率の全国平均は男女計20.7%、男性31.5%、女性10.1%であり、道内平均は男女計26.2%、男性37.3%、女性16.1%と、さらに高い喫煙率が示されています。

20歳以上喫煙率(2022年)

全国北海道
男女計16.1%20.1%
男性25.4%28.1%
女性7.7%13.2%
(厚生労働省 国民生活基礎調査より)

25~49歳喫煙率(2022年)

全国北海道
男女計20.7%26.2%
男性31.5%37.3%
女性10.1%16.1%
(厚生労働省 国民生活基礎調査より)

喫煙は妊活に大敵

以前、妊娠希望で医療機関を受診された際のご夫婦の喫煙状況別に、

  1. 男女とも喫煙なし
  2. 男性のみ喫煙あり
  3. 女性のみ喫煙あり+男女とも喫煙あり

の3グループに分け、3年後の転帰を比較したことがあります。どのグループが最も妊娠や出産に至る割合が高かったでしょうか?

結果は、みなさまのご想像通り、1の「男女とも喫煙なし」のグループでした。1グループでは3年後までに多くの方が出産に至っていましたが、3グループで同期間内に出産に至った割合は1の半分にとどまりました。また、流産に至ってしまった方の割合についても2グループと3グループでは、1グループの2倍以上と大きな違いが認められました。さらに、2グループと3グループに比べ、1グループでは妊娠や出産に至るまでの期間がより早く、喫煙状況が妊娠率や出産率に及ぼす影響について再確認されています。

しばしば耳にするご夫婦の悩みの1つとして、“夫が禁煙してくれない…”という相談をお受けすることがあります。男性の中には、精液検査で異常を指摘されないと、“自分の精子は大丈夫!たばこを吸っていても問題なさそう!”と考えてしまうケースも見受けられますが、喫煙により精子はDNAレベルでの損傷を確実に受けます。通常の精液検査より高拡大して精子を観察した場合、運動率は良好であっても、精子頭部に穴が開いている精子など高い染色体異常率を有すると推定される精子が多くなり、顕微授精の際に形態良好な精子を1つ探すのにも苦労することがあります。

精子は日々作られ続けますので、禁煙することで精液所見や精子の質が改善してゆく可能性は十分にあります。精子が作られるまでの期間は2~3ヶ月ですので、ぜひ今から禁煙に取り組んでいただきたいと思います。

加熱式や電子たばこも同様にリスクがある

最近では、従来の紙巻きたばこだけではなく、加熱式たばこや電子たばこなど、様々な種類のたばこが見受けられます。加熱式たばこなどは、紙巻きたばこのように火をつける必要がないことから、燃焼による煙や灰が発生せず、においも比較的少ないため、他者への配慮から選択されている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、加熱式たばこには紙巻きたばこと同様にニコチンやタール等が含まれており、リキッド式電子たばこでは従来のたばことは異なる有害物質が含まれている製品もあることが指摘されています。そのため、加熱式たばこも電子たばこも、従来のたばこと同じくらい人体に有害であり、生殖へのリスクも認められます。

ご自身が喫煙されていなくても、周囲からの受動喫煙や三次喫煙により、同等の悪影響がもたらされる可能性があります。多くの有害物質は、主流煙より副流煙に高濃度に含まれていることも知られています。たばこは妊娠を希望されるご夫婦にとって、最も避けたい生活習慣のひとつであると言えます。

おわりに

年齢などを考慮した上での適切な治療法の選択は大切ですが、禁煙による体内環境の改善は妊娠率の上昇につながりうることや、より負担の少ない治療での妊娠成立が期待できることから、ぜひ禁煙に取り組んでいただきたいと思います。

ご夫婦自身の健康のためにも、これから出会う赤ちゃんのためにも、たばこの煙のない生活をお勧めします。

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