不妊治療と健康保険制度の適用について

ロボット保険ガイド「リアほ」を展開するInsurtech企業のWDC社によるコラムの2回目です。不妊治療にとって、費用負担が大きく削減される健康保険制度への組入は大きな関心ごとです。ただ、配偶者の公的保険に入っていても対象なのかなど、詳細理解は広がっていません。不妊治療を続けながら、転職や退職をした場合はどうなるのでしょうか。WDC社員であり、数多くの執筆記事を手掛ける工藤崇さんに寄稿して頂きます。

不妊治療に取り組んでいる方の中には長く自己負担で取り組んでいた方も多い中、2022年に不妊治療が保険適用化されました。ライフプランを考える上で、不妊治療や出産における費用負担を知っておきたい方は多いのではないでしょうか

3号被保険者も不妊治療の保険適用は対象か

3号被保険者とは、公的健康保険の保険料を支払っている会社員や公務員の方(2号被保険者)の配偶者が加入することができる制度です。以前は結婚後に男性が2号被保険者に加入し、パートナーが3号被保険者に入ることが多かったのですが、現在は共働き世帯も増えており、それぞれが2号被保険者というカップルも増えています。

3号被保険者の方も公的保険の被保険者となるため病気やケガの場合は所得に応じ自己負担上限額が設定されており、もっとも多くの方は医療費の3割が自己負担上限額で、残りは配偶者が加入している健康保険組合が支払います。2022年4月より医療費に不妊治療が加わり、保険適用の対象となる不妊治療に関しても3割の自己負担額となりました。

不妊治療と高額療養費

不妊治療が公的保険の対象である以上、高額療養費制度も活用できます。高額療養費とは、1か月にかかった医療費の総額が世帯収入によって定められた一定の基準を超えたとき、自己負担上限額が設定される仕組みです。短期間での医療費急増に対応する公的保障の仕組みです。

不妊治療が公的保険に含まれることによって、高額療養費制度も対象になります。不妊治療が保険適用されたとはいえ、治療が長引くほど費用負担も大きくなります。ご自身の高額療養費適用額はいくらなのか、確認しておくといいでしょう。

保険適用の不妊治療中に転職・退職した場合はどうなるか

不妊治療中に転職された場合も、転職先の保険に加入する場合は変わらず健康保険制度を活用することができます。ご本人が2号被保険者に加入している場合も、配偶者が2号でご自身が3号として加入している場合も同様です。ご自身やパートナーの転職後に保険適用が受けられなくなるということはありませんので、ご安心ください。

ただ、配偶者が退職して1号被保険者(自営業の方などが入る公的保険)になった場合は、3号の仕組みはありません。ご自身も1号被保険者として、国民健康保険に加入する必要があります。

不妊治療と民間の保険

さて、不妊治療と家計管理を考えるなかで意外と知られていないのは、民間の生命保険のなかにも不妊治療費用が保険金支給の対象となるものがあるということです。いわゆる女性向けの医療保険のなかに、体外受精の費用が保障対象となるものがあります。

ある保険会社の医療保険です。特約のなかに女性医療特約の保障内容があり、「体外受精・顕微授精の治療過程で、採卵または胚移植を受けられたとき[1] 」が保険金支給の対象として記載されています。いわゆる3割の自己負担からの保障となるため、将来的に不妊治療を予定されている方は必ず確認するようにしましょう。

この保険会社のほかにも、不妊治療を保険金対象のなかに含めている保険会社は存在します。

また、女性医療特約の補償をつけられていない方でも、不妊治療が保険適用となった事で「術」と名が付くものが対象となる場合もあります。

例えば「採卵術」「胚移植術」「人工授精術」などです。

そして保険適用となった事で、先進医療に区分された治療や検査があります。つまり既に先進医療の特約を付けられている方は、不妊治療の中で行なった先進医療も保証の対象となります。

しかしここで注意すべき事があります。先進医療としてその治療や検査を行える医療期間は許可が出ている病院のみとなります。その為全ての病院が対象となる訳ではないため、先進医療が認められている医療機関であるかどうかを実施前に確認する必要があります。

また女性だけではなく、男性の不妊治療を対象としているものもあります。

上記と別の保険会社には、対象となる医療保険の保険金支給の条件として「精巣または精巣上体からの採精[2] 」と記載されています。2023年3月現在の情報ですが、国を挙げて少子化対策にまい進するなか、更に範囲が拡大したり、あらたな保険会社が不妊治療を対象に加えたりする可能性が考えられます。


[1]  https://www.life8739.co.jp/product/iryo/hoshou

[2]  https://help.axa.co.jp/s/article/000001788

不妊治療への保険金給付は「免責期間」に注意

ここでとても大切な注意点が1つあります。既に結婚されていて、何かしらのきっかけで不妊治療を考えられているご夫婦がいるとしましょう。当然、不妊治療を対象としている医療保険への加入を検討すると思います。ただ、不妊治療への保険金給付には「免責期間」が設定されています。

医療保険の加入方法は契約書や告知書などの各種書類を保険会社にて審査し、第1回の保険料を納付した段階で完了します。手続き完了により「責任開始日」が設定されます。保険会社によっては責任開始日から数年が経過した被保険者に限り、不妊治療が保障対象となります。つまり、保険に加入してから不妊治療に民間の保険保障を加えるまで、数年間におよぶ期間が必要です。

これは医療保険の本来の保障が、自発的に不妊治療をするという行為と直結しないためです。保険に加入してすぐに行った不妊治療を対象としてしまうと、数年前に医療保険に加入して、万が一自分に不妊治療が必要になったら保障を希望する人とのあいだに不公平が生じてしまいます。上記2社の場合、責任開始日から2年間の期間が必要と明記されています(2023年3月現在)。

正常分娩は保険適用対象外

現在、分娩費用は公的保険の対象外で10割負担となっていますが、出産育児一時金として42万円(2023年4月からは50万円)を受け取ることができます。出産費用の実費がこの金額を超えると、残額は医療費控除として本人、もしくは配偶者への所得税・住民税の課税対象から控除することができます。この点については前回のコラム「不妊治療と医療費控除について」で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

前首相が正常分娩も健康保険の対象に加えるよう主張?

2023年3月10日夜、菅前首相による「正常分娩も公的保障の対象に加えるべき」という主張が報じられました。現在、正常分娩費用は自己負担となっており、出産後に出産一時金として42万円(産科医療保障制度の医療機関における出産の場合)が支給されます。この出産一時金は、2023年4月より50万円に拡大しますが、帝王切開の場合など超過分の負担は大きくなっている現状があります。

もし将来的に分娩費用が公的保障化の対象となったり、民間保険も加えたりすることができれば出産関連費用を抑えることができ、出産前後のライフプランにおいて大きなメリットとなり「子どもを持ちたい」と前向きに考えるカップルが増えるかもしれません。

少子化対策に伴い、妊娠・出産にかかる諸制度の検討が進められています。政府の動向にも注目して、新しい情報をチェックしていくと良さそうです。

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