
マスクの役割が変わった
「マスクを外すのが怖いんです」・・・いつからこんな声が聞かれるようになったのか?
それはコロナ禍が落ち着いてきた頃から。いつの間にかマスクの役割はウイルスから体を守るためではなく、「心の防御壁」として使われるようになっていた。ポストコロナの今、マスクを外せない人たちの内側には、思っているよりも大きな不安感がある。習慣以上の深い背景を今回は紐解いていきたい。
なぜマスクを外せない?その心理的背景を考えてみる
コロナ禍では、マスクは感染予防の象徴だった。マスクをしていることでウイルスからはある程度守られる。また社会的にコロナ禍に即した行動を取っていると周囲に知らしめることもできていた。つまり社会的に必要なことでもあったわけだ。コロナ禍ではマスクをしていないと不適格な行動をしていると揶揄されるかもしれなかったわけだ。ウイルスから自分を守るためというよりは、周りと協調する為にマスクをしていた人もいただろう。
コロナ禍が終わりを迎え、徐々にマスクをしない人が出てくる中で外国人よりも日本人は長くマスクを外さなかった印象がある。テレビ等でもその様子が取り上げられていた。日本人の警戒心が強いのか、周りがまだ外していないのに自分だけ外すのは気が引けたのだろうか。私には、日本人は同調圧力が高いことを示しているように思えた。
コロナ禍でマスクの役割は徐々に変わっていった。「感染予防」と「社会的な協調行動」から「心理的な安全」や「社会的バリア」に変化して機能している部分がある。マスクを外せない人は、「心の防御壁」としてマスクの機能を手放すことができないでいるのかもしれない。
では具体的にどういう心理的背景があるのか考えてみよう。
・外見コンプレックス
・対人不安 表情を見られたくない気持ち
・匿名性の快適さ 自分を隠せる自由
・見えないウィルスへの恐怖感が取れない
などが考えられる。
特に対人不安という理由は大きいのではないだろうかと、心理カウンセラーである私は思ってしまう。なぜなら表情は心を映す鏡だからだ。表情はどうしても嘘がつけない時間が数秒存在する。無意識に感じたことが表情に表れてしまう。つまり本心が表情に表現されるということだ。何秒なのか、1秒未満なのかは研究によって回答が違っている。ただ言えるのはほんの少しの時間はどうやっても嘘がつけない時間が存在しているということだ。それを相手に見られるというのは不快な場合も多いだろう。相手への気遣いを表現したいけれど、実は気持ちとしては嫌なことを引き受けることになっている場合など、本音の表情をさらしたくないと思うのは自然なことだ。
つまり問題は人間関係にあると言える。表情が読まれてしまい困った事態になっても、どう解消したらいいのかわからないことや、そもそも心の中を読まれるのは嫌だという思いなどがあるのかもしれない。
他の理由である外見コンプレックスも匿名性の快適さも突き詰めてみれば同じ理由ではないだろうか。問題は人間関係の難しさというわけだ。そういえばコロナ禍で幼い子どもたちのコミュニケーション力へのマスクの影響が問われていたことを思い出す。
非言語を読み取る機会が少なかったことで表情を読み取る力が弱い可能性が高いことや、表情のモデリングする機会が少なくなったことで、感情に対してどういう表情を取ればいいのかわからないことも起こっている懸念がある。子どもに影響があることは、大人にもある程度影響するだろう。マスクをしてコミュニケーションが楽になった体験をした人が簡単に外せなくなったという側面がある。コンプレックスを隠したい人たちにとっては便利に思うこともあるだろう。ちまたでは「マスク症候群」と言われることもある現象だ。
周りは理解を示し、本人は対人不安に向き合っていこう
マスクを外せない人が存在しているということがわかってくる中で、周りはそこを許容し、受け入れる姿勢を持っておくことが大事だと思う。受け入れられている環境が整う中で、少しずつマスクを外しても大丈夫だ、楽に話すことができる体験をし、次第に心の壁は取り払われていくだろう。
マスクを外せない人が外していきたい場合の対処法としては、まずは親しい人の前で外す練習をすることから始めるといいだろう。大丈夫だ、(心理的にも)安全だと思える環境であれば、少しの勇気で外せ、その体験は成功事例としてカウントしておくことも大事だ。「他の人は簡単にできていることが自分はこんなことしかできないのか・・・」と思ってしまいがちだがそう思ってしまうとなかなか外すことへのハードルは下がらないだろう。自分は人より少々繊細で、周りへの影響を考えることができる人間なのだと思ってみることが大切だろう。小さなことから勇気を出していく自分を肯定してあげてほしい。
親しい人の前で外せたら、少しずつ外でも外していこう。長くマスクをしていると表情筋が衰えているので、鏡に向かって表情筋を動かすトレーニングも有効だ。笑顔の練習をしていくというわけだ。
最後に・・マスクは外さなくてもいい
マスクを外していこうとは言ったが、対人不安の問題を片づけると周りとのコミュニケーションが楽になるだろうという思いからであって、別に外さなくても問題なわけでもない。無理に外す必要はない。怖いと感じる自分を否定しないことが一番大事なことだ。そこを抑えておくといつの間にかマスクが無くても気にならなくなる日も来るかもしれない。自分らしく生きる選択する権利は自分にある。誰しもが自由に自分を彩っていいはずだ。それは、周りも本人も忘れてはならないだろう。

