はじめに
不妊治療をいろんな問題によって受けることができなかったり、始めることを躊躇したりする方も少なくないと思います。
治療費のことでいうと、令和4年4月から開始された保険適用化や地方自治体による助成金によって負担が少し軽くなったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、その他にも仕事との両立、通院のタイミングや治療にかかる時間の調整、薬の副作用や治療による精神的・身体的負担など計り知れません。
また、これらから不妊治療を受けようとされている方にとっては未知の世界で不安になっていませんでしょうか?
そこで今回は、不妊治療の内容や厚生労働省が出している仕事の両立調査についてまとめました。
不妊治療について
<不妊とは>
妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、「一定期間」妊娠しないことと定義されています。
この「一定期間」とは、年齢などの条件によって異なりますが、日本産科婦人科学会によると一般的には1年間とされています。
<不妊の原因と男女比率>
女性不妊の原因
・卵子の老化
・卵管の異常(クラミジア感染症、卵管閉塞、卵管狭窄、卵管水腫)
・排卵障害
・子宮の異常(子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮奇形、子宮内癒着など)
・子宮頸管粘液の異常
・免疫の異常(抗精子抗体)―精子を敵とみなし弱らせる抗体のこと
男性不妊の原因
・造精機能障害―精子を造る精巣(睾丸)機能の低下(うまく精子が造られない)
・性機能障害―勃起不全(erectile dysfunction;ED)
・精路閉塞障害―射精障害、逆行性射精
・低ゴナドトロピン性性腺機能(下垂体ホルモン)低下―造精を促すホルモンの低下
WHO(世界保健機構)によると原因の比率は、女性だけでなく約半数は男性にも原因があるとされています。また、検査をしても不妊の原因がわからないということが多々あります。
<不妊治療の流れ>
はじめに不妊の原因を調べるための精液検査、ホルモン検査などを行います。
不妊治療には大きく分けて、「一般不妊治療」と「生殖補助医療」の2つに分けられます。
通常は、「一般不妊治療」から始めていき、より高度な「生殖補助医療」へとステップアップしていきます。また、状況に応じて「生殖補助医療」から開始する場合もあります。
<通院日数の目安>
一般不妊治療については、排卵周期に合わせた通院となるため、治療の予定を決めることが困難な場合があります。また、生殖補助医療(体外受精や顕微授精)については頻繁な通院が必要となります。
男性よりも女性の方が、通院回数は多くなるために身体的・精神的・経済的な負担を伴い、ホルモン刺激法等の影響で腹痛、頭痛、めまい、吐き気等の体調不良が生じることがあります。
治療 | 月経周期ごとの通院日数の目安 | |
女性 | 男性 | |
一般不妊治療 | 診療時間1回30分程度の通院:4日~7日 人工授精を行う場合、上記に加え 診療時間が2時間/回程度の通院:1日~ | 0~半日 ※手術を伴う場合には1日必要 |
生殖補助医療 | 診察時間1~2時間/回:4日~10日 + 診察時間半日~1日程度の通院:1~2日 | 0~1日 ※手術を伴う場合には1日必要 |
<出生児における不妊治療の割合>
2020年に日本では、60,381人が誕生し、全出生児の7.2%(約13.9人に1人)が生殖補助医療で誕生しています。
<不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合>
不妊を心配したことがある夫婦:39.2%(夫婦全体の2.6組に1組)
実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦:22.7%(夫婦全体4.4組に1組)
仕事と不妊治療の両立における労働者の現状調査
職場における不妊治療に関する認知度調査では、約8割が実態を理解しておらず、約7割が不妊治療を行っている従業員の把握ができていません。
<仕事と不妊治療の両立状況とできない理由>
不妊治療をしたことがある(または予定している)労働者の中で、
「仕事と両立している(または両立を考えている)」:53%
「仕事との両立ができなかった(また両立できない)」:35%
両立ができない理由:「精神面が大きい」「通院回数が多い」「体調、体力面での負担が大きい」
<不妊治療の職場への共有状況>
不妊治療をしている人のうち、
「一切伝えてない(または伝えない予定)」とした人が最も多く、
「職場ではオープンにしている(またはオープンにする予定)」とした人は1割強になります。
伝えない理由:「不妊治療をしていることを知られたくない」
「周囲に気遣いをしてほしくない」
「不妊治療がうまくいかなかったとき職場に居づらい」などとする人が多く、
不妊治療をしていることを職場の一部でも伝えている人のうち、職場で上司や同僚から嫌がらせや不利益な取扱いを受けた人も一定程度いるようで、職場で不妊治療していることを受け入れる風土が十分にいきわたってないことが分かります。
<仕事と不妊治療を両立する上で利用した制度と会社等への希望>
利用した制度としては、「年次有給休暇」が最も多く、次いで「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」「休職制度」となっています。
また、主な希望としては、
「不妊治療のための休暇制度」
「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」
「有給休暇を時間単位で取得できる制度」が多く挙げられますが、
他にも「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」
「上司・同僚の理解を深めるための研修」等の一定程度ニーズが見られます。
企業の主な事例
企業によっては、不妊治療と仕事との両立を支援するためいろいろな取組がされています。
公開されている企業の事例を種類別にまとめました。
大きく分けると5つに分けられますが、最も多かったのは、「不妊治療のための休暇や休職制度」でした。
不妊治療と仕事との両立を支援している企業に関して言えば、前述に述べた希望が受け入れられているのが分かります。
①不妊治療のための休暇や休職制度:有給の積立や特別休暇など
②勤務時間や働き方:フレックスタイム制、短時間勤務、再雇用、テレワークなど
③メンタルケアサポート:相談窓口
④管理職、社員に向けた不妊治療に関わる周知、研修など
⑤不妊治療に係る費用を助成:補助金制度、貸付制度
まとめ
今回の調査では、不妊治療と仕事の両立をする上で、最も希望することは治療するための時間の確保であり、有給休暇を利用されている方が多かったということ、有給の積立やフレックスタイム制など休暇や働き方の改善に取組まれている企業が多かったことが分かりました。
しかし、治療をされている一部の中には職場に言えずに悩んでいる方や嫌がらせを受けているという現状もあります。その対策としては、もっと企業全体で不妊治療についての理解を深める必要性があるようです。この背景には、昔から言われているような「日本人は働きすぎ」というような国民性が問題なのかもしれません。
現場の管理者側からすると有能な人材がなくなく辞めないといけない状況になるのは避けたいものです。
不妊治療だけではなく介護、育児、妊娠などのいろんなライフサポートが受けられる取組がもっと広がり多様性のある働き方ができるようになることを願っています。
参考資料:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立について」