「夜中に急に子どもが耳を痛がって泣き出した」
「テレビの音量が大きくなったり、呼びかけに反応しにくくなったりしている気がする」
子育て中、多くのお子さんとご家族が経験するのが「中耳炎」です。子どもは体の構造上、どうしても中耳炎にかかりやすいため、保護者の方にとっても非常に身近な病気のひとつといえます。
しかし、「痛みがあるときだけ治療すればいいの?」「夜中に痛がり出したらどうすればいい?」「何度も繰り返すのはなぜ?」など、疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、子どもの中耳炎の主な種類や症状、診療ガイドラインに基づいた治療法、そして夜間に痛がったときの応急処置を含めたご家庭でのケアポイントを分かりやすく解説します。
なぜ子どもは中耳炎にかかりやすいの?
耳の奥にある「中耳(ちゅうじ)」という空間は、「耳管(じかん)」という細い管で鼻の奥(上咽頭)とつながっています。
大人の耳管は傾斜があり細長いため、鼻から細菌やウイルスが入ってきても中耳まで到達しにくい仕組みになっています。一方で、子どもの耳管は大人に比べて太く、短く、水平に近い角度をしています。そのため、かぜをひいて鼻水が出たり、鼻の奥に細菌・ウイルスが増殖したりすると、それらが簡単に中耳へ侵入してしまうのです。
また、子どもは免疫機能が未発達であることや、自力で上手く鼻をかめないことも、中耳炎を繰り返しやすい原因となっています。
子どもの中耳炎の主な3つの種類と症状
一口に「中耳炎」と言っても、大きく分けていくつか種類があります。特に子どもに多く見られるのは以下の3つです。
1. 急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)
子どもがかかる中耳炎の中で最も一般的なタイプです。かぜなどの感染症に続いて、細菌やウイルスが耳管を通って中耳に入り込み、急性の炎症を引き起こします。
• 主な症状:強い耳の痛み、発熱、耳だれ(膿が出る)、耳の詰まった感じ(耳閉感)。
• 言葉で伝えられない乳幼児のサイン:機嫌が悪い、夜泣きをする、しきりに耳を気にして触る・引っ張る、食欲がない。
2. 滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
鼓膜の奥(中耳腔)に「滲出液(しんしゅつえき)」という液体がたまってしまう状態です。急性中耳炎が治りきらずに移行する場合や、かぜやアレルギー性鼻炎などが原因で耳管の働きが低下したときに起こります。
• 主な症状:痛みや発熱はありません。主な症状は「聞こえにくさ(難聴)」や「耳が詰まった感覚」です。
• 気づくためのサイン:テレビの音量を大きくする、返事をしない・聞き返すことが増える、返事の代わりに「は?」と聞き返す、呼びかけに反応が薄い。
痛みがないため見過ごされやすく、気づかないうちに長期化してしまうケースが少なくありません。
3. 難治性・反復性中耳炎
急性中耳炎を短期間に何度も繰り返す、あるいは適切な治療を行っても症状がなかなか改善しない状態を指します。特に2歳未満の乳幼児、保育園などの集団生活を行っているお子さんに多く見られます。
中耳炎の治療法:種類に応じたアプローチ
中耳炎の治療は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会などのガイドラインに基づき、年齢や重症度に合わせて選択されます。
急性中耳炎の治療
軽症の場合は、自然治癒することもあるため、年齢や症状に応じて鎮痛薬などを使いながら数日間経過観察を行うこともあります。
• 薬物療法:中度〜重度の場合は、原因となっている細菌を抑えるための「抗菌薬(抗生剤)」の内服を行います。また、痛みを和らげるために解熱鎮痛薬を使用します。
• 鼓膜切開:痛みが非常に強い場合や高熱が続く場合、鼓膜の一部をわずかに切開して中にたまっている膿を排出させる処置を行うことがあります。切開した穴は通常、数日から数週間で自然に塞がります。
滲出性中耳炎の治療
急いで抗菌薬を使う必要はなく、経過を観察しながら段階的に治療を進めます。
• 経過観察と鼻の治療:発症から3か月程度は自然に改善することも多いため、無理な処置はせず経過を観察します。鼻水が出ている場合は、鼻の治療(吸引や粘膜の炎症を抑える薬、去たん薬の内服など)を優先します。
• 鼓膜換気チューブ留置術:3か月以上経っても水が抜けず、難聴が続いて日常の学習や言語発達に影響が出る懸念がある場合は、鼓膜に小さなチューブを差し込む手術を行うことがあります。これにより中耳の通気を保ち、液体の排出を促します。
「途中で通院をやめる」のが一番危険な理由
中耳炎の治療で最も大切なのは、「痛みが消えたからといって、自己判断で通院や薬をやめないこと」です。
痛みが引いても、鼓膜の奥にはまだ炎症や液体が残っているケースが多くあります。この段階で通院をやめてしまうと、急性中耳炎が「滲出性中耳炎」へと移行したり、何度も再発する原因になったりします。
滲出性中耳炎が長期間改善しない場合には、まれに鼓膜が大きく変形し、将来的に手術が必要になる病気へ進展することもあります。
「お医者さんから『もう大丈夫ですよ』と言われるまでしっかり通い切る」ことが、お子さんの耳の健康を守る最善の方法です。
夜間や休日に痛がったら?家庭での緊急応急処置と予防ケア
中耳炎の痛みに襲われやすいのは、実は「夜間や就寝中」です。横になると頭に血が上りやすく、耳の圧力が上がって痛みが増しやすいからです。病院が開いていない時間帯にお子さんが耳を痛がって泣き出した場合、まずは慌てず以下の応急処置を試してみてください。
1. 夜間に痛がるときの緊急応急処置
• 耳の周囲を冷やす
耳のうしろ(耳たぶの後ろあたり)を、冷やしたタオル、保冷剤(必ずハンカチやタオルで包んだもの)で冷やしてあげると、炎症が落ち着いて痛みが和らぐことがあります。
• 少し頭を高くして寝かせる
平らに横になると痛みが強くなります。枕やクッション、抱っこなどで頭の位置を少し高くしてあげると、耳への負担が軽くなります。
• 手持ちの解熱鎮痛薬を使用する
以前小児科や耳鼻科で処方された解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)の座薬や飲み薬の残りが手元にあれば、指示通りの量を服用させて痛みをとってあげましょう。痛みが治まれば眠れるようになります。
※翌朝になれば速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。なお、「息苦しさがある」「水分がまったく摂れない」「ぐったりして意識が朦朧としている」といった症状を伴う場合は、救急相談窓口(#8000 やお住まいの地域の救急相談)に相談するか、夜間救急の受診を検討しましょう。
2. 日常生活での予防と鼻水ケア
• 鼻水をこまめにケアする
鼻水を放置すると耳管を通って耳に菌が回りやすくなります。鼻をうまくかめないお子さんの場合は、市販や耳鼻科の鼻水吸引器を活用してこまめに吸い取ってあげましょう。
• 正しい鼻の取り方を教える
両鼻を同時に強くかむと、圧力がかかって耳に鼻水が流れ込んでしまいます。「片方ずつ、優しくかむ」習慣をつけさせましょう。
• 授乳時の体勢に気を配る(乳幼児)
寝かせたまま授乳すると、母乳やミルクが耳管に入りやすくなります。授乳時は少し頭を起こした状態で飲ませるようにしましょう。
おわりに
子どもの中耳炎は、成長の過程で多くの子どもが経験する身近な疾患です。しかし、「痛がっていないから」「かぜが治ったから」と油断してしまうと、聞こえのトラブルや長期化につながることもあります。
「夜急に痛がったけれど応急処置で落ち着いた」「いつもよりテレビの音量が大きく呼びかけても振り返りにくい」など、少しでも気になる様子があれば、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。適切な時期に正しく治療を受けることが、大切なお子さんの耳と聞こえを守る第一歩になります。
参考文献
• 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「みみ・はな・のど・頭頸部の病気:中耳炎」
• 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会 編「小児急性中耳炎診療ガイドライン」
• 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会 編「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン 2022年版」








