はじめに
あと数日で2025年も終わり、新しい年が始まります。
年末年始は心も身体もリセットされる貴重な時間ですが、仕事や家庭、育児に追われる方々にとっては、休んだようで休めていないまま新年・仕事始めを迎える方も多いのではないでしょうか。そうして毎日忙しく過ぎてゆく中で自分の健康はついつい後回しという方も多いかと思います
しかし、健康は病気や怪我をした「後から取り戻す」ものではなく、健康な状態の「今から整える」ものです。 今回は、これから新しい年を迎えるにあたり、看護師の視点から日々忙しい方でも無理なく続けられる健康管理と、新しい年を健やかにスタートするためのヒントをお話させていただきます。
目標は「小さく・明確に」立てる
新年に立てる健康目標は、漠然としたものでは続きません。
「週3回運動する」「お菓子を控える」といった抽象的な目標よりも、「会社帰りに1駅分歩く」「午後3時以降は甘い飲み物を飲まない」といった具体的で小さな目標に落とし込むことが成功の鍵です。脳は「達成感」を感じると、ドーパミンという幸福ホルモンが分泌され、モチベーションが上がります。そのため、達成しやすい目標を設定することは、実は脳科学的にも理にかなっています。
睡眠を「削らない」という選択
仕事や家事・育児のために睡眠を削る生活が続くと、自律神経のバランスが乱れます
。夜になると休息モードである副交感神経が優位になるはずが、ストレスや遅い時間のスマホ使用により緊張モードである交感神経優位が続いてしまうため、深い眠りに入れません。慢性的な睡眠不足は、免疫低下、血圧上昇、糖代謝異常、動脈硬化の進行にもつながることがわかっています。これは医学的にも循環器疾患のリスクを高める重要な因子です。
よい睡眠をとるために
- 寝る90分前に照明を落とし、脳を「夜モード」にする
- スマートフォンは“枕元に置かない
- 就寝前は白湯やハーブティーでリラックス(お茶やコーヒーなどカフェインの入ったものは極力避けましょう
- 休日も起床時間を大きくずらさない
たった1時間の睡眠不足でも、翌日の集中力・判断力は約20%低下すると言われています。「睡眠を削る=仕事の質を落とす」ことにつながる、という意識を持つことが大切です。
食生活を整える ―「血糖コントロールが鍵」
忙しい生活を送っていると、ご自身の食生活が乱れていると感じることがあるかと思います。
朝食抜き、コンビニ食、遅い夕食、スナック菓子や甘味の暴食などが続くと、血糖値が乱高下し、日中の眠気や集中力低下を引き起こします。血糖値の急上昇はインスリンの過剰分泌を招き、内臓脂肪を蓄積させる原因にもなります。また、近年の研究では血糖の急上昇と急降下が動脈硬化や認知症リスクを高めることも指摘されています。
おすすめの食習慣
- 食べる順番を「野菜 → たんぱく質 → 炭水化物」にする
- 朝食にはたんぱく質を必ず取り入れる(卵・魚・納豆など)
- 夜食事が遅くなってしまう時にはできるだけ炭水化物を減らし、消化の良いスープ中心に
- 飲酒は週2回まで。1回は2合以内を目安に
小さな工夫でも、血糖値や血圧、脂質の安定に大きく影響します。生活習慣を整えることで血液検査値が改善する例は少なくありません。
「ながら運動」で基礎代謝を守る
40代を過ぎると、筋肉量は年間1%ずつ減少すると言われています。筋肉は第二の心臓とも呼ばれ、血流や代謝の維持に欠かせません。運動が苦手な方でも、生活の中に少しずつ運動を取り入れ、身体を動かすことが大切です。
ながら運動の例
- 歯磨きをしながらかかと上げ10回
- 通勤中はエスカレーターではなく階段を使う
- オフィスでは1時間に1度は立ち上がる
- 洗い物中に片足立ちで体幹トレーニング
また、最近ではNEAT(非運動性熱産生)という考え方が注目されています。これは、運動以外の日常動作(通勤・掃除・買い物など)によるエネルギー消費のこと。NEATが高い人ほど肥満や糖尿病リスクが低いというデータもあります。
メンタルヘルス ― 「こころの疲れ」は体にも現れる
忙しい毎日で気づかぬうちに心が疲れている方も少なくありません。抑うつ症状やストレス反応は、自律神経やホルモンバランスに影響し、動悸、頭痛、胃痛、便秘、不眠といった身体のサインとして現れます。医療の現場でも、体の不調を訴えて来院された方が、実は心の疲れだったというケースは珍しくありません。
こころを整えるための実践法
- 1日3分、深呼吸やストレッチで思考を止める時間をつくる
- 寝る前に今日できたことを1つ書き出す
- 完璧を求めず、まあいいかと思える余白を持つ
- 自分の限界を知り、休む勇気を持つ
看護師としてお伝えしたいのは、休むことは、弱さではなく、健康を守る力だということです。心の健康も、身体と同じように日々のセルフケアで維持していくものです。
定期的な健康チェック ―「数値」を味方にする
会社の健康診断を義務と考える方も多いですが、実は未来を守るデータです。
40代以降で注意すべきは
- 高血圧
- 脂質異常症(高コレステロール血症)
- 糖尿病
- 肝機能異常(脂肪肝など)
これらは自覚症状がないまま進行し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。特に男性では、仕事のストレスや飲酒習慣が重なることでリスクが増します。
健診結果を活かすポイント
- 数値の前年との変化をチェック
- 医師や看護師に生活習慣の改善ポイントを具体的に相談
- 気になる症状はスマホのメモに残しておく
検査値はサインです。数値の裏にある生活習慣を見直すことで、将来の大きな病気を予防できます。

忙しい人ほど「健康リテラシー」を高めよう
インターネット上には健康情報が溢れていますが、正しい知識を見極める健康リテラシーが今、求められています。
健康リテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解し、自分の生活で活用する能力のことです。この能力は、病気の予防や健康寿命の延伸につながり、自分に合った健康法を選んだり、適切な医療を受けたりするために不可欠です。たとえば、SNSや動画サイトでは「○○を食べると痩せる」「○○だけで血圧が下がる」といった極端な情報が多く見られます。しかし、科学的根拠(エビデンス)が乏しいものや、間違った情報も少なくありません。
信頼できる情報源としては、
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/
- 日本医師会 https://www.med.or.jp/people/
- 学会発表やガイドライン(糖尿病学会、高血圧学会など)
などが挙げられます。正しい知識は、自分と家族の健康を守る最良の武器です。誤った情報に惑わされず、適切な治療やケアを受けられるように健康リテラシーを高めることで、自分の健康を主体的に守り、より質の高い生活を送ることができます。
おわりに ― 「がんばりすぎない健康習慣」を
健康は、努力の量ではなく継続の質で決まります。1日できなかったとしても、明日また始めようと思えれば、それで十分です。
たとえば、
- 昨日は夜更かししたけれど、今日は22時にスマホを置いた
- 昼食に野菜を足した
- 帰り道で1駅歩いた
そんな小さな積み重ねが、半年後、一年後のあなたを確実に変えます。皆様2025年お疲れ様でした。2026年も、心身ともに健やかで、自分らしく働ける一年になりますように。「健康」は誰にとっても一番身近で、そして一番大切な「資産」です。大切な未来への「資産」を今からしっかりと守っていきましょう。
【参考文献・推奨サイト】
厚生労働省「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」厚生労働省「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」
日本循環器学会「生活習慣病予防に関するガイドライン」
e-ヘルスネット(厚労省)
日本看護協会「看護職が伝えたいセルフケアの基本」
運動が苦手な人はNEAT(ニート)を意識しよう!(2020年)
ヘルスリテラシーと健康行動の変容(江口 泰正/2020年)
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