企業の責任
人事部ができる災害時における従業員の心身のケアを見ていく前に、企業にどのような責任義務があるかを最初に抑えておきましょう。企業には安全配慮義務(労働契約法第5条)があります。自然災害のほとんどは予測ができないものなので、普段から心がけて準備しておくことが大事です。実際に法的責任が問われた例も過去にはあります。職員を守ること、業務ができるだけ滞らずに円滑にすすむことへの準備をしておきましょう。ここではどんな準備をしておく必要があるのかをみていきましょう。
企業が準備しておくこととして、大きく分けて2つの大事な項目があります。
一つは従業員の安全の確保です。もう一つは重要業務の維持です。詳しくみていきましょう。
従業員の安全確保
ここにあげるのは一例ですが参考にしてください。
・安否確認を実施するための手順の準備と訓練
・避難ルートの確保と職員への周知
・水や食料、簡易トイレなどの必需品の備蓄
・消火器・火災報知器・スプリンクラーなどの定期点検
・自然災害時における行動マニュアル作成と周知・訓練
せっかく手順を準備していても従業員が知らなかったら使えません。一度承知しただけでは実際に災害が起きたときにうまく稼働しないこともあるでしょう。念入りに訓練をしておく必要があるでしょう。
また二次災害への備えも怠らないようにしましょう。落下や火災の防止、危険物の管理なども必要でしょう。また当然耐震補強が必要であれば早めに行っておきましょう。
重要業務の維持
従業員の安全が確保されたら次に業務を止めないことも企業として行う必要があります。まずはBCP(Business Continuity Plan)を考えていきましょう。これは災害時や緊急事態時における企業や団体の事業継続計画のことです。大きくは、BCM(Business Continuity Management)と捉えます。こちらは同じく災害時や緊急事態時における事業継続管理のことです。データや設備も企業が守るべき大切なものです。事前に事業継続管理を整えておきましょう。
心のケア
災害における被災者は心のケアを必要としています。しかし安易にかかわると逆効果になってしまうこともあるということを心得ておく必要があります。東日本大震災の時には避難所に「心のケアお断り」というような札が立てられたこともあります。これは傷ついている方に無理やり話を聞き出したりして、それがつらいという方が多かったことによるものです。心のケアをしようとする人はもちろん親切で行っていますが、結果的に余計に傷つけてしまうということが起きてしまいました。傷ついている方にどのような配慮をする必要があるか、ここではみていきましょう。
国際的なガイドラインがあります。
・IASCガイドライン(災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援に関するガイドライン)
以下の順番に支援を行っていく。
①基本的ニーズ・安全を満たす支援
②コミュニティや家族が機能するための支援(自助・共助資源の活性化)
③基本的な精神保健による非専門的支援(保健師・看護師等による心理的応急処置、心理教育、安心の提供)
④特別な心理・精神医学的介入(心理職・精神科医等)
・心理的応急処置
サイコロジカル・ファーストエイド:PFA(人道的・支持的・実用的支援についての応急処置。)
・支援することによってさらなる傷つきや弊害、混乱をもたらさないよう配慮され、自然に回復する力を支え促進する。
・災害直後の心理的支援では、被害者の文化・環境に配慮した適切な関係性を築く
・心身の安全を確保し、被災者にとって困っていることや不安なことといったニーズを把握
・それに沿った支援や情報を提供し、被災者にとって継続的な支援が必要だと見込まれる場合には適切な機関もしくは相手への紹介・引継ぎをする
WHO版のサイコロジカル・ファーストエイドから注意点を確認していきましょう。
【注意点】
・専門家だけにしかできないものではない。
・必ずしもつらい出来事(その人の感情や反応を含む)についての詳しい話し合いを含まない、また聞き出すものではない。
・事実確認や分析ではない。
IASCガイドラインとサイコロジカル・ファーストエイドの共通理念を抑えておきましょう。
・被災者のニーズは時間とともに変わる
・被災者を弱者として位置づけないこと
・全ての人が心理的サポートを必要としているわけではない
・自らで回復する力がある、それを尊重する
・受け取り方は人それぞれ
・支援者は自身の振る舞いに責任を持つ
人事部ができる災害支援
ここまで自然災害時に備えて企業として何を準備する必要があるか、また心のケアについてもみてきました。最後に人事部としてできることを考えていきましょう。
基本的には企業がやるべきことを率先して準備する必要があるでしょう。事前準備は従業員を守るために必要不可欠です。リーダーシップを取って実施していきましょう。次に心のケアについては精神科医や心理職ではないですが、専門家でなければならないわけではないのでできることを実施していきましょう。例としてこのような準備をされておくといいでしょう。
<事前準備>
人事部ということは面談等も多くある部署です。話の聴き方を学んでおくことは災害時でなくても必要でしょう。傾聴の学習をして相手のニーズを聴くことができるようにしておくといいでしょう。また共感力や肯定力も大事です。これは普段からの練習の積み重ねが必要です。何度もトライしておきましょう。
<災害後>
まずは安否確認などの状況の確認が第一でしょう。物資などの支援がある程度落ち着いたなら、従業員の精神の状態も確認していくと良いでしょう。ただお伝えしているように、全ての人が心のケアを求めているわけではないことを忘れずに、勝手な思いこみをせずに「わからないから教えて欲しい」という姿勢で話すことが大事です。同じように被災者同士だったとしても、受け取り方は人それぞれです。「わからない」という姿勢で取り組んでいきましょう。
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