忙しく働く世代のための運動習慣― 続かない私たちにこそ必要な、血管と体力を守るという考え方 ―

「運動したほうがいいのは分かっているんです。でも、なかなか時間が取れなくて」
これは医療現場で本当によく耳にする言葉です。そして正直に言えば、循環器領域で働く看護師である私自身の実感でもあります。

仕事、家庭、社会的な役割に追われる毎日のなかで、運動はどうしても後回しになりがちです。疲れて帰宅したあとに、あらためて体を動かす余裕がない日もありますし、「今日は仕方ない」と自分に言い訳をすることもあります。

それでも循環器病棟や外来で患者さんと向き合うなかで、私は繰り返し同じ現実を見てきました。
忙しいからと運動習慣を持たなかった時間は、静かに、しかし確実に、血管と体力に積み重なっていくということです。 今回は、忙しく働き、運動がなかなか定着しない多くの世代の方に向けて、なぜ運動が必要なのか、どうすれば現実的に続けられるのかを、「血管」と「体力低下予防」という視点から、エビデンスに基づいて整理してみたいと思います。

目次

運動習慣が身につきにくいのは、特別なことではない

厚生労働省の国民健康・栄養調査を見ると、働く世代では運動習慣を持つ人の割合が一貫して低いことが分かります。年代を問わず多くの人が挙げる理由は、「運動する時間がない」「疲れている」「きっかけがない」といった、非常に現実的なものです。

一方でこの時期は、血圧、血糖値、コレステロール値といった循環器に関わる数値が、少しずつ変化し始める時期でもあります。さらに見逃されがちなのが、体力の低下がゆっくりと進行し始める時期でもあるという点です。

体力が少し落ちても、日常生活にすぐ支障が出るわけではありません。階段が少しつらくなった、疲れやすくなったと感じても、「年齢のせい」「忙しいから仕方ない」と受け止められがちです。そのため、運動や生活改善は後回しにされやすくなります。

しかし循環器の現場で感じるのは、症状がないこの時期こそが、血管と体力の両方を守るための、最も重要な予防の時間であるということです。

運動は「体力づくり」ではなく「血管と体力を守る行動」

運動というと、「体力をつける」「体重を減らす」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし循環器の分野では、運動は単なる健康習慣ではありません。

日本循環器学会や日本高血圧学会、WHOのガイドラインでは、運動は

  • 血圧の低下
  • 血管内皮機能の改善
  • インスリン感受性の向上
  • 動脈硬化の進行抑制

といった効果を通じて、心血管疾患を予防する重要な手段として位置づけられています。

さらに近年は、運動による体力低下予防そのものが、循環器疾患の発症や重症化を防ぐことも注目されています。体力が低下すると、活動量が減り、血流が滞りやすくなり、結果として血管への負担が増えていきます。つまり、体力の低下は血管の健康とも密接に結びついているのです。

重要なのは、体重が減ったかどうかではありません。見えない血管の状態と、日常を支える体力が、少しずつ良い方向に保たれていくこと。これこそが、運動の本質的な価値です。

まとまった運動ができなくても、意味はある

「運動は30分以上、週に何回も、汗をかくほどやらないと意味がない」そんなイメージを持っている方も少なくありません。

しかし現在の身体活動ガイドラインでは、こうした考え方は見直されています。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」やWHOのガイドラインでは、短時間の身体活動を積み重ねることでも、血管や体力に十分な健康効果が得られると明確に示されています。

たとえば、

  • 10分歩く
  • できるだけ階段を使う
  • 立ったまま仕事や家事をする
  • デスクワークの合間に体を伸ばす、肩を回す

こうした小さな動きも、すべて身体活動です。循環器の立場から見ると、運動量の不足よりも、動かない時間が長く続くことのほうが、はるかにリスクが高いのです。

忙しく働く人でも取り入れやすい、体力低下を防ぐ運動の工夫

忙しく働く方にとって、運動のための時間を確保すること自体が負担になることがあります。そこでおすすめしたいのは、運動をする!と構えず、体力低下を防ぐ動きを生活に溶け込ませることです。

たとえば、

  • 通勤や移動の際に、いつもより10分多く歩く
  • エレベーターではなく階段を選ぶ
  • 歯磨き中にかかと上げを行う
  • 電話対応や考えごとは座らず立って行う
  • テレビを見ながら軽くストレッチをする

これらは筋力やバランス能力を大きく鍛える運動ではありませんが、体力の低下を食い止め、血流を保つうえで十分に意味のある行動です。

WHOや厚生労働省も、「座りっぱなしの時間を減らすこと」が、心血管疾患予防と体力維持の第一歩であるとしています。

続かない理由は、性格ではなく「設計」の問題

「運動が続かない自分は、意志が弱い」そう感じている方は少なくありません。

しかし医療の視点では、これは性格の問題ではなく、生活設計の問題です。仕事のスケジュール、家庭の事情、慢性的な疲労のなかで、無理な運動計画を立てれば、続かないのは当然です。

大切なのは、

  • 特別な時間を作らない
  • 特別な場所に行かない
  • 特別な準備をしない

そして、生活の延長線上に組み込むことです。
運動を「やる・やらない」で考えるのではなく、「どれだけ動かない時間を減らせたか」「体力低下を防げたか」と捉えると、続けるハードルはぐっと下がります。

運動は、今の体だけでなく、これからの人生に影響する

病棟で心筋梗塞や脳卒中を経験された方から、よく聞く言葉があります。


「仕事も家庭も落ち着いて、これからという時だったのに」

健康は人生の主役ではありません。しかし、健康を損なった瞬間、人生の選択肢は一気に狭くなります。体力が低下すれば、働き方や暮らし方にも制限が生じます。

運動習慣と体力低下予防は、

  • これからの働き方
  • 定年後の生活
  • 介護を受ける側になる時期

そうした未来に、確実に影響を与えます。

今日からの一歩は、驚くほど小さくていい

「毎日やらなければ意味がない」
「続けられなければ無駄になる」

そんな考えはいったん手放してみてください。
まずは、今より少しだけ体を動かす日を増やす。それだけで十分です。できない日があっても、また戻ればいい。

運動習慣とは、完璧に続けることではなく、体力低下を防ぎながら、いつでも戻ってこられることなのだと思います。

おわりに

循環器看護師として、そして一人の働く人間として、私は思います。
運動は、頑張るための義務ではありません。これからの人生を、自分の足で歩き続けるための準備です。

忙しいからこそ、完璧を目指さない。
余裕がないからこそ、小さな一歩を大切にする。

今日の10分が、未来の自分の血管と体力を守る。その積み重ねは、必ず健康というかたちで返ってきます。

【参考・引用文献】

厚生労働省:国民健康・栄養調査
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/

厚生労働省:健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/

日本循環器学会:循環器病予防ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/guideline/

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン
https://www.jpnsh.jp/guideline/

World Health Organization: WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour
https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128

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この記事を書いた人

8年間、循環器専門病院や専門病棟にて循環器内科・外科・集中治療室勤務しておりました。皆様に必要な情報を分かりやすくお届けできるようにしていきたいです。