「少し痩せた?」― 見過ごされやすい女性の健康リスク ―

目次

はじめに

「少し痩せた?」

そんな言葉をかけられて、嫌な気持ちになる女性はあまりいないかもしれません。むしろ、少し嬉しく感じることさえあります。美しく体型を保てていること、自己管理ができていることを褒められているような気持ちになるからです。

私たちの社会には、細いことは美しいという価値観が、長い時間をかけて自然に根づいてきました。ファッション誌やSNSに登場するモデルの多くは細身で、ダイエットの情報はあふれるほどあります。体重を減らすことは「努力」や「意識の高さ」として語られることさえあります。

一方で、肥満は健康リスクとして広く認識されています。メタボリックシンドローム対策、生活習慣病予防、体重管理。企業の健康診断や社会の健康政策でも、肥満は明確に管理の対象とされています。

しかし、「やせ」はどうでしょうか。

痩せすぎは健康に良くないと言われることはあっても、肥満ほど真剣に議論されることは多くありません。特に女性の場合、体重が少ないことがむしろ良いことのように受け取られてしまうこともあります。

しかし近年、医学の分野では女性の低体重がさまざまな健康問題と関係している可能性が指摘されています。月経の異常、妊娠、そして将来の子どもへの影響、骨密度の低下、糖尿病のリスク、慢性的な疲労感や精神面への影響。やせは単なる体型の問題ではなく、将来の健康に関わる重要なテーマなのです。

2025年、日本肥満学会はこうした問題に対して、閉経前女性の低体重や低栄養に伴う健康障害をまとめて捉える概念として、

女性の低体重・低栄養症候群(FUS: Female Underweight/Undernutrition Syndrome)

を提唱しました。

肥満にメタボリックシンドロームという概念があるように、やせにも体系的に捉えるべき健康問題がある。そうした視点が、ようやく医学の世界でも共有され始めています。

日本人女性のやせの背景

日本は先進国の中でも、若い女性のやせが多い国として知られています。20代女性では、およそ5人に1人がBMI18.5未満の「低体重」に該当するとされています。これは決して少ない割合ではありません。

女性が痩せている背景には、さまざまな要因があります。

①体質的に太れない人

まず、体質的に太りにくい人がいます。食事量が少ないわけではないのに体重が増えにくい人もいます。周囲からは「羨ましい」と言われることもありますが、本人は冷えやすさや疲れやすさ、月経トラブルなどの不調を感じていることもあります。

低体重の女性の約4割は、ダイエット経験がないという報告もあり、すべてが「痩せようとして痩せている」わけではありません。

②ダイエットによるやせ

一方で、ダイエットによって体重を減らすケースも少なくありません。糖質を極端に制限する食事法や、食事量を大きく減らす方法など、短期間で体重を落とすダイエットは数多く紹介されています。

体重が減ると、達成感を感じやすいものです。しかし、急激な体重減少は身体にとって大きな負担となることがあります。

③忙しさによるやせ

働く女性に特有の背景として、忙しさによるやせもあります。朝食を抜き、昼は簡単なもので済ませ、夜は遅く帰宅して食事が不規則になる。本人はダイエットのつもりがなくても、結果として慢性的なエネルギー不足になることがあります。

実際に、こうした生活のなかで健康問題につながるケースもあります。

ある30代の女性は、仕事が忙しくなるにつれて食事が簡単になり、体重が少しずつ減っていきました。月経も止まりましたが、忙しさの中で受診する余裕はなく、そのまま数年が過ぎました。

結婚後、子どもを望んで不妊治療を始めたとき、初めて視床下部性無月経と診断されました。体外受精に進んでもなかなか妊娠に至らず、治療は長く続きました。さらに検査では骨密度の低下も見つかりました。本人は「もっと早く自分の身体のことを考えていれば」と振り返っていました。

④経済的理由による栄養不足

近年では、経済的理由から栄養バランスの良い食事が難しいケースも指摘されています。主食中心の食事になり、タンパク質や野菜が不足すると、栄養状態が偏り、結果として体重や健康状態に影響が出る可能性があります。

こうしたさまざまな背景のなかで、とくに問題となるのは、本来痩せる必要のない人が、「痩せている=美しい」という価値観から体重を減らしてしまうことです。

やせと健康リスク

やせは単に体重が軽い状態ではありません。身体に必要なエネルギーや栄養が不足することで、さまざまな健康問題が起こる可能性があります。

①月経停止とホルモンの変化

エネルギー不足が続くと、身体は生命維持を優先し、生殖機能を抑えることがあります。脳の視床下部がホルモン分泌を調整し、排卵が起こりにくくなるため、月経が止まることがあります。

これが視床下部性無月経です。

月経が止まることは単なる月経の問題ではありません。女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると、脂質異常、骨密度の低下など、全身の機能にも影響します。

②妊娠・出産への影響

低体重の女性では排卵が不安定になり、妊娠しにくくなる場合があります。また妊娠した場合でも

・低出生体重児

・早産

などのリスクとの関連が指摘されています。

近年は、母体の栄養状態が子どもの将来の健康にも影響する可能性があるという研究も進んでいます。つまり、やせは個人の問題だけでなく、次世代の健康にも関係する可能性があるのです。

プレコンセプションケアの視点

最近、女性の健康や生き方の分野で注目されているのが、「プレコンセプションケア」という考え方です。これは妊娠する前から健康状態を整えておくという考え方で、将来の妊娠や出産、さらには子どもの健康にも関係するとされています。

低体重や栄養不足の状態では、妊娠しにくくなる可能性があります。鉄、タンパク質、葉酸、カルシウムなどを十分に摂ること、そして極端なダイエットを避けることが大切です。

子どもを持つかどうかに関わらず、女性の身体にとって栄養状態は長期的な健康に関わる大切な要素です。

③骨密度の低下

骨は20代にかけて最も強くなります。この時期に十分な栄養が摂れないと、骨の量が十分に蓄えられません。

若い頃の低体重は、将来の骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。骨は痛みなく静かに弱くなっていくため、気づいたときには骨折のリスクが高くなっていることもあります。

④筋肉量の低下

低体重の女性では、極端に筋肉量が少ない場合もあります。若い女性でも握力が弱く、ペットボトルの蓋が開けられないほど筋力が低下しているケースが報告されています。

筋肉量が少ないと基礎代謝が低下し、疲れやすくなるだけでなく、将来のサルコペニアのリスクにも関係する可能性があります。

⑤極端なダイエットによる体調悪化

体重を急激に落とすことは、心身ともに大きなストレスを与えます。

40代後半の女性の例があります。高額なダイエットジムに通い、糖質制限と激しい運動によって4か月で20kgの減量に成功しました。しかしその後、鉛のように身体が重い、不眠、動悸、不安感、気分の落ち込みなどの症状が現れました。

更年期はホルモンバランスが大きく変化する時期です。その時期に急激な減量といった大きなストレスが重なることで、自律神経のバランスが崩れてしまったのです。

日本人女性の体型への価値観を見直す

やせの問題は、個人の努力だけで解決できるものではありません。

細い体型を理想とする文化、SNSやメディアの影響、ダイエット情報の氾濫。こうした社会環境が、女性に「もっと痩せなければ」というプレッシャーを与えている面もあります。

大切なのは、見た目の細さではなく、健康的に生きていくための身体です。

月経が安定していること

骨がしっかりしていること

疲れにくい身体であること

日常を幸せだと感じられること

こうした内側の健康こそが、人生を長く支えてくれます。

さいごに

未来の私を守るために

若い頃の身体の状態は、未来の健康に大きく影響します。

「もっと自分の身体を大切にしておけばよかった」

そう思う日が来ないように、今の身体と向き合うことが大切です。

痩せていることが必ずしも美しさではありません。

健康であることこそが、本当の意味での美しさにつながります。

参考文献

1.             医療情報科学研究所(編集).『病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科〔第4版〕』.岡庭 豊(発行者),株式会社メディックメディア,平成30年.

2.             対馬 ルリ子,吉川 千明.『「閉経」のホントがわかる本 更年期の体と心がラクになる!』.集英社,2020年.

無料 オンライン健康相談&セミナー「福利厚生サービス」ダウンロード

企業の福利厚生施策として、従業員のライフステージに寄り添うサポートサービスです。
直近3年間で400回以上のセミナー実績や、利用促進につながる広報制作全員が資格を有する専門家の相談対応をご提供しています。さらに、女性活躍推進や「くるみん」などの企業認定制度に対応した基準・条件にも沿った施策をご提案します。

1. 豊富な実績で安心
直近3年間で400回以上のセミナー開催実績。
実例に基づく具体的なノウハウをご提供します。

2. 利用促進の仕組みもサポート
広報制作サンプルを活用し、従業員が参加・利用しやすい仕組みを構築できます。

3. 専門家が直接伴走
全員が資格を有する専門家による相談対応。
女性活躍推進や「くるみん」などの認定制度にも準拠した施策をご提案します。

この記事を書いた人

激務から体調を大きく崩したことをきっかけに、女性の健康について関心を持つ。
更年期外来での勤務を経て、現在は不妊治療クリニックに勤務。
頑張る女性に「自分を大切にすること」を伝えたい。