【素朴な疑問を学術的に検証】|「冬は恋の季節」って本当?を生殖医療の視点から科学的に考察する

目次

はじめに

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

今年も残すところあとわずか、年末の12月を迎えいよいよ冬のシーズンとなりました。気象庁の発表では、12月3日の時点で日本列島は全国的に冬型の気圧配置に変わり、今年一番の強い寒気が流れ込んだことで、ほとんどの地域で最高気温が10℃に届かない真冬並みの寒さを記録したそうです。

この季節は体調を崩しやすく、インフルエンザやノロウイルスも流行しやすい時期ですので、皆さん、特に妊活中、妊娠中、不妊治療中の方々はくれぐれも体調に気を付けてお過ごしください。

さて、この時期に街中を歩いているとよく耳にするものに、冬のロマンスをテーマにしたラブソングがあります。年齢がバレるかもしれませんが、私の世代では広瀬 香美さんや桑田 佳祐さんの曲は小さい頃から聴いていて現在でも誰もが知る有名な曲がたくさんあるように思います。皆さんも“冬のラブソング”といえば定番の曲がいくつも思い付くのではないでしょうか?

加えて、私が中学~高校くらいの頃には誰もが知る有名な韓国ドラマ『冬のソナタ』が爆発的にヒットし、いわゆる韓流ブームを巻き起こしました。

このような背景から、「冬は恋の季節」というイメージを持たれている方も多いのではないかと思います。

では、実際のところこの「冬は恋の季節」というのは本当なのでしょうか?

今回のコラムでは、「冬は恋の季節」は本当なのかを科学的に検証し、性や生殖を含めた学術的な視点から解説をしていきたいと思います。

冬は恋活(恋人探し)や婚活関連の検索が増加する

2012年に、国際性科学研究学会が発刊する学術誌Archives of Sexual Behaviorに報告されている論文では、セックス、恋愛、婚活、結婚などに関連するキーワードの検索回数には季節性が存在し、冬のシーズンに検索回数が著しく増加することが報告されています。

この研究では、Googleを始めとする主要な検索エンジンを対象として、過去数年間にわたる性や生殖に関連するキーワードの季節性変動の検証を行いました。

その結果、恋活(恋人探し)や婚活・結婚といったキーワードの検索回数が12月初旬から~1月中旬の冬に最も多く、次いで5月下旬から6月中旬の初夏に増加することが示されました。

また、セックスや性の健康に関連するワード、妊活や妊娠に関連するワードなどについても同様の傾向が見られたことを報告しています。

冬と初夏にある半年ごとの検索回数のピークは、過去数年間にわたり一貫した周期的な変動であったことから、論文の中では、動物の繁殖行動に季節性があるのと同様に、われわれヒトにおいても生物学的、あるいは心理学的に季節性を持った生殖様式(行動)があるのではないかと考察しています。

マッチングアプリの利用率にも季節的な変動がある

このような季節的な行動変化は、実は、最近流行りの“マッチングアプリ”でも見られることが明らかになっています。

アメリカの世界最大規模の恋愛・結婚マッチングサービスを運営するMatch Group Inc.(※Match.com、Pairs、Tinderなどの運営企業)が、2023年に報告したデータによると、利用登録者の数は11月下旬から2月初旬に最も増加し、12月初旬から1月下旬の時期が最もスワイプが盛んになることを報告しています。

Match Group Inc.の学術顧問を務める、米・インディアナ大学キンゼイ性・ジェンダー・生殖研究所所長のJustin Garcia教授は、「オンラインを利用したデートは、一年を通して行われており、毎日のように数千万~数億回のスワイプやメッセージなどの多くのアクティビティが行われているが、特に秋~冬の時期にかけてその動向は急増する。」と述べるとともに、

①恋愛の機会と“休暇”との関連:

北半球・南半球、あるいは国や宗教を問わず年末年始は休暇を迎えるタイミングであり、特にキリスト教圏ではクリスマスシーズンにも当たることや、初夏にも同様の傾向が見られることから、休暇を利用してマッチングサービスを利用する人が増加する可能性。

②家族や親せきとのコミュニケーションとの関連:

家族や親せきの集まりが増えるシーズンであり、シングルの人にとってはパートナーや交際関係について話題になりやすいタイミングでもあることから、恋人探しを家族から促されるなどしてマッチングサービスを利用する人が増加する可能性。

③気温・温度変化や日照時間との関連:

気温が下がることや日照時間が短くなることで、ヒトの一日の活動量が低下することが知られており、家に閉じこもりがちになるシーズンに「人と繋がる手段」としてマッチングサービスを利用する人が増加する可能性(ただし、この傾向は北半球と南半球で異なる)。

など、その理由についていくつかの考察を行っています

多くの動物種が“季節的”な繁殖戦略を持つ

学的に「冬は恋の季節」は本当かを知るために、ヒト以外の他の動物種にも目を向けてみましょう。

動物には、大きく以下の2つのタイプの繁殖様式に分けられます。

  • 周年繁殖動物:

季節に関係なく一年中繁殖が可能な動物のことを指します。家畜や実験動物に多く、ウシ、ブタ、ラット、マウスなどの動物がこれに当たります。人工的な環境管理下に置かれることで周年繁殖性を持つようになったと考えられています。

  • 季節繁殖動物:

日照時間などの季節の変化を感知して、特定の時期にのみ繁殖活動を行う動物のことを指します。春・夏季に繁殖する長日性季節繁殖動物(ウマ、キツネなど)と、秋・冬季に繁殖する短日性季節繫殖動物(ヒツジ、ヤギ、シカなど)に大別されます。

野生動物の多くは季節繁殖動物で、子育てや子孫を残すための戦略として、繁殖時期を最適化しています。例えば、食糧が確保しやすいことや、気候が穏やか、あるいは天敵に狙われにくいなどです。 現在、日本では野生の熊による被害が多数報告されていますが、熊は5~6月頃に繁殖期を迎え1月下旬から2月頃に出産のタイミングを迎えます。熊が出没しやすくなる時期には、秋季10~11月頃と春季4~6月頃という2つのピークがあり、秋季は冬眠に備えて餌を豊富に蓄えるため、春季は冬眠から覚めて餌や繁殖パートナーを探すために行動範囲が拡がることが原因であると考えられています

統計的に1年のうち出生数が最も多いのは『“○月”』

では、われわれヒトはどうなのか?というと、知っての通り“一見すると”季節性は無く、過去にこちらのコラムでも書かせていただいた通り、ヒトは動物種の中でも中間的で多様な繁殖システムを持ち、性や生殖に関してはある意味で日和見主義的な行動生態を持つように見えます。

しかしながら、これはあくまでも“一見すると”の話しで、実はヒトにおいても他の動物種と同じように生物学的な「出生パターン」が存在するということをご存知でしょうか?

2015年に、ニューヨーク科学アカデミーが発行する学術誌であるAnnals of the New York Academy of Sciencesならびに、2013年に、疫学分野の国際的なトップジャーナルの一つであるEpidemiologyに発表されている論文の中で、イギリスやアメリカを始めとする多くの主要国の出生数には季節的な変動があるということを報告しています。

過去数年間の人口動態を調査したこれらの研究では、一年(12ヶ月間)のうち出生数が最も多いのは『“9月”』で、次いで8月、10月と続きます。対して、11月~1月には出生数の顕著な低下があったことが示されています。

妊娠の期間はおよそトツキトオカ(約280日)とも言われますが、最終月経の初日から40週目を出産予定日として計算するため、タイトルの通り12月付近を「恋の季節」であると仮定すれば、9月に出生数が増加するのは納得がいく計算になりますね。

冬のシーズンは恋愛にネガティブな側面も‥‥

一方で、冬のシーズンは恋愛にはネガティブな側面を持つというデータも示されています。

2024年に心理学分野における国際的なトップジャーナルの一つであるPerspectives on Psychological Science:a Journal of the association for Psychological Scienceならびに、2024年に予防医学と公衆衛生分野で国際的に高い評価を受けている学術誌Preventive Medicine Reportsに発表された論文では、冬のシーズンはメンタルヘルスが悪化しやすく、うつ症状を繰り返し発症する季節性情動障害(SAD;Seasonal Affective Disorder)の罹患率が増加する季節であると報告しています。

SADは、俗に「Winter Blues(冬の憂鬱)」とも呼ばれ、学習能力・記憶力・集中力などの低下を自覚する方が多いとされています。世界的に見ると成人の約3.0%程度が罹患しており、特に女性に多く見られるデータが示されています。

SADは、日本をはじめヨーロッパ諸国や北米など四季を持つ地域に住む人々において罹患しやすく、日照時間が短くなることや、外気温が著しく下がること、野外で過ごす時間が減ること、などが原因ではないかと考えられています。

また、SADと密接に関連しているものに『セロトニン』と呼ばれるホルモンの存在があります。セロトニンは、ヒトの概日リズム(※睡眠・覚醒という日々のサイクルを調節する体内時計。日の光を浴びることで制御される)の調節を担っているほか、精神面や感情面をコントロールする上でも非常に重要な神経伝達物質であり、疲労やストレスに対応する効果を持っています。

冬のシーズンは、気温変化や日照時間の変化によってセロトニンの分泌が抑制されるため、ヒトの生理機能に影響を与えるとされています。

実際に、うつ病はセロトニンの欠乏や分泌異常から引き起こされるという見方があり、臨床では、うつ病の患者様にセロトニンを増やす効果を持つお薬が処方されることもあります。

冬は、夫婦で妊活に向き合うのに最適な季節

先述した通り、セロトニンの分泌が抑制されると、概日リズムが乱れ、うつ病のような症状が表れることがありますが、このセロトニンと相互的に作用している重要なホルモンに『ドーパミン』と『オキシトシン』があります。

前者のドーパミンは、目標を達成した時や報酬を得た時などの“喜び”を生み出す神経伝達物質で、集中力や記憶力などを高める働きがあることも知られています。後者のオキシトシンは、人とのつながり・信頼感・共感などから得られる幸福感を高めると考えられています。

オキシトシンの分泌量が増えると、セロトニンを分泌する神経が刺激されてセロトニンの分泌が活性化されます。一方で、不安感やうつ症状を察知するとオキシトシンが反応し、補うようにセロトニンの分泌を促します。

このように、ドーパミン・オキシトシン・セロトニンは相互的に作用して、より強い幸福感と心の安定をもたらすことから、代表的な『幸せホルモン』とも呼ばれています。

また、オキシトシンは出産時の子宮収縮や授乳時の射乳促進などによって分泌され、母子の愛情や幸福感をもたらす働きがあることから「愛情ホルモン」と形容されることもありますが、2019年に、日本生物物理学会が発刊する学術誌Biophysics and Physicobiology (BPPB)に早稲田大学の研究チームが発表した論文では、手を繋ぐ・ハグをする・キスをするといったスキンシップや、セックスなどの肉体的あるいは精神的な接触によってもオキシトシンの分泌量が顕著に増加することを報告しています。

同様の研究報告は他にも数多くの文献が存在し、特にセックスでは、直接的な挿入が無くても身体的な接触によってオキシトシン増加の効果が見られることも示されています。

冬のシーズンは、日照時間も短く外気温も下がることからSADの罹患率が高くなることをご紹介しましたが、身体が感じる物理的な“寒さ”も「Winter Blues」を引き起こす要因となります。

特に、手・足(末梢)や顔は熱が届きにくく、加えて代謝も下がるため寒さを感じやすくなりますが、冬の寒い時期に、カップルやご夫婦において手を繋ぐ・ハグをする・身体を密着させるなどの身体を温める行動やセックスは、オキシトシンの分泌を顕著に促し幸福感を得やすくなるとともに、男女、あるいは家族のつながりや愛情が形成されやすくなることが考えられます。

つまり、冬のシーズンは『夫婦が絆を深めて妊活に向き合うには最適な季節』となる可能性があるというわけです。

まとめ

今回のコラムでは、【素朴な疑問を学術的に検証】と題し、「冬は恋の季節」というイメージは本当か?というのを生殖医療の視点から科学的に考察してきました。

コラムの中で、科学的な根拠として学術論文をいくつかご紹介しましたが、実際のところで言うと、心理学、社会学あるいは文化や民族、宗教の視点では別の見方をする研究や文献も数多く存在しています。

当然ながら、「ヒトは生物」であると同時に「人間は社会的な生き物」であるためです。

例えば、一年のうち『“9月”』が最も出生数が多いことをご紹介しましたが、社会学的な見方をすれば、その背景には、12月頃の冬の時期が仕事納めとして仕事が落ち着き休暇に入る時期であることや、農業分野では収穫・出荷が落ち着く時期でもあることなどが挙げられます。

また、[2.マッチングアプリの利用率にも季節的な変動がある]の部分でも紹介した通り、休暇のタイミング、家族や親せきとのコミュニケーションなどによっても人間の行動は変化することがあります。これも、社会的・文化的なバックグラウンドが非常に大きく影響しているといえます。

私個人の意見を言えば、

——絶好調、真冬の恋、スピードに乗って、急上昇、熱いハート、溶けるほど恋したい♪

を、セロトニンのおかげで絶好調!ドーパミンで気分も上昇!オキシトシンで恋の気分に‥‥といちいち解釈するのはあまりにもロマンスに欠けますが、寒い時期の人との触れ合いが、男女の関係に関わらず、人と人とのつながりを生むというのは何となく理解できる気がします。

コラムの中でもご紹介した通り、特にご夫婦やカップルの方々では、つながりや愛情をより感じやすくなる時期だと考えられます。妊娠を希望している場合には、是非このシーズンを活かして、普段よりも意識的にパートナーとの距離を深めてみてはいかがでしょうか。

参考文献

  • A novel role of oxytocin: Oxytocin-induced well-being in humans, Biophysics and Physicobiology ;Volume 16 Page 132-139, Etsuro Ito et al.
  • Impact of Serotonin Deficiency on Circadian Dopaminergic Rhythms, International Journal of Molecular Sciences ;Volume 25, Issue 12, 10.3390, Giacomo Maddaloni et al.
  • Oxytocin and love: Myths, metaphors and mysteries, Comprehensive Psychoneuroendocrinology ;Volume 9, 100107, C. Sue Carter et al.
  • Seasonal Variation in Internet Keyword Searches: A Proxy Assessment of Sex Mating Behaviors, Archives of Sexual Behavior ;42(4):515-21. Patrick M. Markey et al.
  • Global patterns of seasonal variation in human fertility, Annals of the New York Academy of Sciences ;18:709:9-28. D A Lam et al.
  • Seasonality of birth and implications for temporal studies of preterm birth, Epidemiology ; (5):699-706. Lyndsey A Darrow et al.
  • Cold weather isolation is worse in poor and non-white neighborhoods in the United States, Preventive Medicine Reports ;Volume 38, 102541. Karl Vachuska.

この記事を書いた人

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