〖飲みすぎは自己判断できない?〗アルコール依存症の兆候と適正飲酒の考え方

目次

はじめに

仕事終わりの一杯、金曜日の飲み会、家での晩酌。お酒は、多くの人にとって日常生活の中に自然に溶け込んでいる存在です。

一方で、「最近、少し飲みすぎている気がする」「健康診断で肝機能の数値を指摘された」「家族や同僚から、お酒の量を心配されるようになった」といった小さな変化に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。

アルコール依存症という言葉を聞くと、「かなり深刻な状態」「特別な人の問題」という印象を持たれがちです。しかし実際には、アルコールによる健康問題は誰にでも起こり得る、身近な健康リスクの一つです。またその特徴として、本人よりも周囲の人が先に変化に気づくことが少なくないという点が挙げられます。

そこで今回は、最新の調査結果やガイドラインを交えながら、健康で充実した生活を送るための「お酒との向き合い方」について詳しく解説したいと思います。

アルコール依存症とは

現在の医学的分類では、アルコール依存症は「アルコール使用障害(Alcohol Use Disorder:AUD)」という概念の一部として位置づけられていますが、このコラムでは一般に馴染みのある「アルコール依存症」という言葉を用いて説明していきたいと思います。

厚生労働省では、アルコール依存症を「長期間にわたる飲酒習慣により、飲酒行動を自分の意思でコントロールすることが困難になる状態」と説明しています。

飲酒を続けることで、体がアルコールに慣れ(耐性)、飲酒量を減らそうとしても思うように調整できなくなり、その結果、健康面だけでなく、生活や仕事にも影響が及ぶ場合があります。

ここで重要なのは、アルコール依存症が性格や意志の強さ・弱さによって起こるものではないという点です。飲酒という行動習慣と、身体や脳の反応が積み重なった結果として生じる、医学的に位置づけられた健康問題です。

数字で見る実態

令和6年に公表された最新の調査結果では、私たちの想像以上に多くの方がお酒に関する問題を抱えている可能性が示されました。

(※WHOが開発したアルコール使用障害同定テスト。診断を行うものではなく、飲酒に伴う健康リスクや問題飲酒の可能性を早期に把握するためのスクリーニング指標)

このデータが示しているのは、医療機関で診断される依存症の人数よりも、飲酒によって健康や生活に影響が生じている、あるいはその可能性がある人の層が非常に大きいという点です。アルコール依存症は、ある日突然起こるものではありません。

日常的な飲酒習慣の中で、少しずつ問題が蓄積し、段階的に進行していく健康課題であることが、数字からも読み取れます。

「健康に配慮した飲酒」の目安

厚生労働省は2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。この中では、飲酒量を純アルコール量(g)で把握することが推奨されています。

【純アルコール量の計算方法】

飲んだお酒に含まれる純アルコール量は、以下の式で算出できます。

飲酒量(mL) × アルコール度数(%) ÷ 100 × 0.8

(※アルコールの比重を0.8として計算)

例えば、

ビール(5%)500mL → 約20g

缶チューハイ(7%)350mL → 約20g

となります。

また、「健康日本21」では、生活習慣病のリスクを高める目安として、

男性:1日あたり純アルコール40g以上

女性:1日あたり純アルコール20g以上

が示されています。

なお、近年の研究では、少量の飲酒であっても、がんなど一部の健康リスクは完全には否定できないことが示されています。飲酒量を感覚ではなく数字で把握することは、飲み方を見直すための重要な手がかりになります。

量や頻度だけでは判断できないサイン

アルコール依存症は、「毎日飲んでいるか」「多量に飲んでいるか」だけで判断されるものではなく、以下のような変化が重なっていないかを確認します。

飲酒量を減らそうとしても、思うように調整できない

健康診断で指摘を受けても、飲酒習慣が変わらない

睡眠の質の低下や慢性的な疲労感がある

集中力の低下や仕事のパフォーマンスへの影響がみられる

飲酒量や回数を正確に把握しにくくなり、実際より少なく申告してしまう

これらは診断基準そのものではありませんが、飲酒による健康や生活への影響が進行している可能性を示す重要なサインと考えられています。

職場や周囲への影響という視点

アルコールの問題は、個人の健康にとどまらず、職場や家庭にも影響を及ぼすことがあります。

体調不良による欠勤や遅刻、集中力の低下による業務効率の低下、安全配慮が求められる職種でのリスク増大などが考えられます。

このため、アルコール依存症は個人の嗜好の問題ではなく、職域における健康管理や安全管理の観点からも重要な課題とされています。本人を責めるのではなく、健康問題として早めに気づき、適切な支援につなぐことが求められます。

周囲の人ができる現実的な関わり方

アルコールの問題は、本人よりも家族や職場の同僚が先に気づくことがあります。その際に重要なのは、感情的に指摘したり、無理にやめさせようとしたりしないことです。

飲酒していない、落ち着いたタイミングで話す

「体調」「健康診断」「仕事への影響」など、事実をもとに伝える

一人や職場内だけで抱え込まず、専門機関につなぐ

これらが、周囲の人にできる現実的で負担の少ない対応と言えます。

また、アルコールの問題は「本人が困っているかどうか」だけでは判断しにくい側面があります。健康診断の数値、睡眠の質、体調不良の頻度、仕事中の集中力や判断力の低下など、日常の変化が複合的に現れることが特徴です。

違和感を覚えた段階で健康の視点から状況を整理し、早めに共有することが、適切な支援につながります。

相談先

「病院に行くのはハードルが高い」「まだそこまでの状態ではない」と思う段階こそ、相談窓口を活用してください。こちらでご紹介するのは、いずれも本人・家族・周囲の人から相談可能な窓口です。

【主な相談窓口】

精神保健福祉センター: 各都道府県に設置されており、専門職(医師、看護師、精神保健福祉士等)が匿名でも相談に乗ってくれます。

https://www.zmhwc.jp/centerlist.html

保健所: 地域の最も身近な健康相談の窓口です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/hokenjo

依存症相談拠点: 厚生労働省が指定する、依存症に特化した支援拠点です。

https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map

社内の産業保健スタッフ: 産業医や保健師、カウンセラーに相談することも有効です。

まとめ

アルコール依存症は、特別な人だけの問題ではなく、誰にでも起こり得る健康課題です。

多くの場合、日々の飲酒習慣の積み重ねの中で、少しずつ形づくられていきますが、早期の段階で介入するほど、飲酒行動の修正や健康状態の改善が期待できることが知られています。

早めに気づくこと、飲酒を健康の視点で振り返ること、必要なときに相談できる場所につながること、これらは、本人と周囲の人、双方の健康を守るために重要です。

お酒との付き合い方を見直すことは、生活全体の質を整えることにもつながります。ぜひこのコラムをきっかけに、ご自身や周囲の人の状況振り返ってみましょう。

参考

厚生労働省「アルコール健康障害対策」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000176279.html

厚生労働省 飲酒領域資料

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001313353.pdf

厚生労働省 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html

https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf

「令和6年度『飲酒と生活習慣に関する調査』結果速報」

https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document112.pdf

厚生労働省「依存症対策(主な相談先:保健所、精神保健福祉センター、依存症相談拠点等)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html

依存症対策全国センター(NCASA)「依存関連疫学調査・研究報告書等(調査・研究)」

https://www.ncasa-japan.jp/docs/research-report

WHO “Alcohol”

https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/alcohol

WHO AUDIT : the Alcohol Use Disorders Identification Test : guidelines for use in primary health care

https://www.who.int/publications/i/item/WHO-MSD-MSB-01.6a

厚生労働省 健康日本21アクション支援システム

https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-06-002

日本医師会(資料)精神保健委員会答申 アルコール関連問題対策

https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120307_3.pdf

第3期アルコール健康障害対策推進基本計画  重点課題 <評価・検証のための関連指標> https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001617508.pdf

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この記事を書いた人

人が生きていく上で最も重要なことは、心身の健康だと考えています。「まだまだ若いし、自分には関係ない」、私自身も数年前まではそう考えていました。しかし海外での生活を経て、日本でとても恵まれた医療環境にいたことに気付き、その環境に甘えていたことを痛感しています。看護師として、また働く母として、皆さんの健康への意識を高められ、そして働くお母さんたちの力になれる情報を発信したいと考えています。