法改正が示す「カスタマーハラスメント」という新しい境界線
2024年の労働施策総合推進法の改正により、企業はカスタマーハラスメントへの対策を講じることが義務化されました。企業は“対応せざるを得ない時代”に入ったわけです。
近年、サービス業を中心に「カスタマーハラスメント」いわゆるカスハラという言葉が急速に広まりました。本来、顧客と企業は対等な関係であるはずですが、「お客様は神様」という古い価値観が色濃く残る日本において、従業員が過剰な要求や暴言にさらされるケースが後を絶ちません。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが厳しく処罰される昨今、カスタマーハラスメントについても追って改正が為されたというわけです。これは社会全体が「従業員を守る」という方向に舵を切った印象的な出来事でしょう。人材が不足する時代に従業員を守っていくことは働きやすさにもつながる大切なことだと社会によって判断されたことになります。
2026年10月からはすべての事業主にカスハラ対策が義務付けられます。この改正は、従業員の精神的負担や離職の増加といった深刻な状況が背景にあります。しっかりと対応していく必要があります。
カスタマーハラスメントとは
通称カスハラとは、顧客がその立場を利用して、従業員に対して不当な要求や攻撃的な言動を行うことを指します。
代表的な例を見ていきましょう。
・長時間のクレームや説教
・暴言・侮辱・人格否定
・過度な値引き要求や不可能なサービス要求
・SNSでの晒し行為や脅し
・「責任者を出せ」を繰り返す威圧的態度
これらはカスタマーハラスメントにあたります。続くことで従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を与え、離職や人材不足の一因にもなっています。
一度カスタマーハラスメントについてまとめた記事がありますので、ご興味あればご覧ください。

法改正が必要だった理由
一つには社会規範が変わってきていることが挙げられます。今まで企業は「顧客第一・顧客満足度」を最優先にしてきました。これは悪いことではありませんが、行き過ぎた場合従業員が理不尽な扱いを受けても「仕事は我慢するべきもの」という空気が根強く、問題視されにくかったわけです。
時が経ち、社会規範が変わってきている中で、メンタルヘルスが今までより、より大切に考えられるようになってきたことがあるでしょう。
企業にとってみれば人材不足の中でなんとか切り盛りしているのに、カスタマーハラスメントによって、従業員が精神疾患を起こしたり、離職したりすると大きな損出になります。過剰なクレーム対応は業務を圧迫し、企業のブランド価値も損なわれます。従業員を守り、企業を守ることは社会を守ることに繋がります。
今回の改正で、より社会一丸となって社会にはびこるお客なら何をしてもいいという風土を無くそうとしていることがうかがえます。
法改正で企業に求められること
法改正では、企業に次のような取り組みが求められています。
・カスタマーハラスメントに関する明確な方針の策定
・従業員への教育・研修
・不当要求への対応マニュアルの整備
・相談窓口の設置
・事案発生時の迅速な対応と記録
このような取り組みを行っていく中で、従業員は企業が自分たちを守ってくれていると感じることでしょう。そういう環境づくりを進めていく必要があります。
“顧客第一”から“双方の尊重”へ
法改正が示したのは、「顧客の権利」と同じように「従業員の尊厳」も守られるべきであるという新しい価値観です。
新しい価値観と言いましたが、そもそも人間は一人一人が社会に守られるべき存在です。そこに偏りがあったと認められたということだと私は認識しています。
顧客が強者で従業員が弱者という構図はもはや時代に合いません。これからの社会に必要なのは、サービスを提供する側と受ける側が互いに敬意を持つ関係でしょう。
働き方については一昔前からずいぶん変わってきました。
私が子どもの頃は父が仕事をしない日はないくらいでした。朝も早く、夜も遅い。休日も接待やゴルフで家にいないのが普通でした。たまに家にいる父を見ると、普段喋らないのでなんと声をかけたらいいだろうと困ったことを思い出します。
高度経済成長期にあった時代はそんな働き方が普通だったと思います。
今の時代は人材不足を背景に、一人一人がより守られるようになってきたのかもしれません。そして新しい価値観の誰もが尊重されることが必要だと法改正は示してくれているように思います。
カスタマーハラスメントの問題は、単にクレーム対応の話ではありません。「働く人が安心して働ける社会をどう作るか」という、より大きなテーマに繋がっています。法改正はその第一歩でしょう。
価値観をアップデートしていくことで、より健全な社会におけるコミュニケーションが育まれていくことでしょう。
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