前回のコラムで花粉症全般について解説しましたが、多くの方から舌下免疫療法について詳しく知りたい!とのお声をいただきました。そこで今回は、舌下免疫療法に関してより詳しく解説します。
舌下免疫療法とは
舌下免疫療法は、アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が配合された治療薬を舌の下(舌下)にしばらく含んでから飲み込み、毎日少しずつ免疫をつくっていく、アレルゲン免疫療法の一種です。配合されるアレルゲンの量を徐々に増やしながら繰り返し服用することで、体を少しずつアレルゲンに慣らし、症状を緩和していきます。現在は、スギ花粉症およびダニアレルギー性鼻炎に対して行われています。
20~30年前は、皮下注射によってアレルゲンを投与する皮下免疫療法が主流でした。皮下免疫療法は、舌下免疫療法に比べて幅広いアレルゲンに対応 (ハウスダストやブタクサなど)していますが、一方で皮下注射による痛みを伴うことや、頻回の通院が必要となることから、負担も大きいです。
舌下免疫療法は、自宅で毎日服用するのみと手軽であることや、副作用が皮下免疫療法に比べて少ないことから、近年とても注目されています。
治療の適応
- スギ花粉またはダニが原因となるアレルギー性鼻炎
- 適切に舌下投与できると判断された場合(通常は5歳~65歳の方)
- 一般的な薬物療法(内服薬や点鼻、点眼薬など)では、症状を十分にコントロールできない場合
- 従来の薬物療法で副作用が強い場合
治療を受けられない/注意が必要な方
- 重症喘息の方
- β遮断薬(高血圧や不整脈、狭心症など心臓の病気で使われることが多い)や抗うつ薬、全身性ステロイド薬を長期投与している場合
- 悪性腫瘍、又は全身性自己免疫疾患など免疫系に異常がある方(関節リウマチや甲状腺疾患など)
有効性
舌下免疫療法を含むアレルゲン免疫療法では、個人差はあるものの、患者さんの8割程度で有効性が認められています。従来の薬物療法では一時的に症状を抑えることしかできませんが、舌下免疫療法は根本的に体質改善(長期寛解・治癒)を望むことができます。
治療の流れ
- 初めに問診や血液検査、皮膚テストなどでアレルゲンが何かを確認し、治療の適応を判断します。
- 初回投与は医療機関で行い、また投与後30分間は医師の監視下で待機する必要があります。問題がなければ、2日目以降は自宅で、ご自身で管理をすることになります。
- 治療期間は2年以上、3~5年間が推奨されています。引っ越しを予定している場合は、治療の開始時期や医療機関を慎重に検討しましょう。
- 投与する薬剤(アレルゲン)は、徐々に増量していきます。治療開始から2週間程度は週1回の通院が必要となりますが、その後2週に1回、そして4週毎の通院へと変わっていきます。
治療の開始時期
スギ花粉に対する舌下免疫療法の場合、スギ花粉の飛散する時期には治療を開始できません。治療の開始が可能なのは、6~12月の花粉が飛散していない時期です。また、スギ花粉の飛散が始まる3ヶ月以上前からの治療が効果的といわれていますので、遅くとも秋には治療を開始する必要があります。早くから病院の外来予約が一杯となってしまっている場合も多いため、余裕を持って医療機関を受診し、予め治療計画を立てましょう。
服用方法
治療が長期に渡るため、長期的に継続が可能な時間帯(起床時など)に服用時間を決める必要があります。1日1回、舌下液は2分間、舌下錠は1分間、舌下にアレルゲンを保持したのちに飲み込みます。投与後5分間は、うがいや飲食を控える必要があります。また投与前後最低2時間は、激しい運動、アルコール摂取、入浴は避けましょう。
副作用
副作用の多くは局所反応のみで、口腔掻痒感、口腔浮腫、咽頭刺激感、耳掻痒感 などです。
稀にアナフィラキシーショックなどの重大な副作用を起こすこともあります。意識混濁、じんましん、息苦しさ、腹痛や嘔吐などの症状が見られたときは、すぐに救急車を呼び、医療機関を受診しましょう。
注意点
・服用後30分、また開始初期(約1か月)はアナフィラキシーを含むアレルギー反応や口腔内症状などの副作用の発現可能性が高いため、より注意が必要です。
・以下の時は医療機関へ連絡し、服用について相談しましょう。
口腔、口唇の違和感、掻痒感、腫脹などが数時間以上継続した場合
急性感染症に罹患したときや体調を崩したとき
喘息症状の悪化があるとき
歯科治療中、口内炎、口腔内外傷などがある場合
・投与を中断する場合は、必ず医師へ相談をしましょう。また投与を再開する時も医師の判断が必要です。自己判断せず、相談して下さい。
・妊娠中や授乳中の安全性は確立されていません。このため、妊娠中や授乳中、また近いうちに妊娠を希望されている方は、舌下免疫療法を開始することは避けましょう。ただし、すでに治療を開始しており、治療が安定した状態で妊娠した場合は、服用を継続しても問題ないとされています。妊娠がわかった時は、必ず医師へ相談しましょう。
・3~5年間治療を行い、症状が改善すれば医師の判断で服用を終了します。ただし、その後症状が再燃した場合は、治療を再開することもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
舌下免疫療法を正しく継続できれば、アレルギー症状の軽減や体質の改善が期待でき、より快適な日常生活を送ることが可能になります。 舌下免疫療法を検討されている方は、ぜひ次の花粉症シーズンに向けて、早めの治療計画を立てましょう
参考