はじめに:福利厚生は増えているのに、課題が見えにくい
健康経営や福利厚生の充実に取り組む企業が増える一方で、人事・労務担当者の方からは、次のような声を聞くことがあります。
「健康施策を増やしているが、従業員に本当に届いているのかわからない」
「他社で導入されている制度を取り入れたが、利用率が伸びない」
「自社の従業員に今、優先して必要な支援が何なのか見えにくい」
健康診断、ストレスチェック、産業医面談、相談窓口、休暇制度、研修など、福利厚生の選択肢は多様化しています。しかし、制度を導入すること自体が目的になってしまうと、従業員の実際の困りごとや、本当に支援が必要な健康課題に届かないことがあります。
そこで活用したいのが、健康スコアリングレポートです。
健康スコアリングレポートとは
健康スコアリングレポートとは、企業や健康保険組合などが、加入者の健康状態、医療費、予防・健康づくりの取組状況を把握し、全国平均や業態平均と比較できるようにしたレポートです。厚生労働省、経済産業省、日本健康会議が連携して進めており、企業と保険者が協力して従業員の健康づくりを進める「コラボヘルス」の基盤としても活用されています。ここで大切なのは、健康スコアリングレポートを「会社の健康成績表」として見るのではなく、「健康課題を解決するための地図」として捉えることです。
スコアの良し悪しを見るだけではなく、自社のどこに課題があり、どのような支援が必要なのかを考える出発点として活用することが重要です。
レポートで見える主な項目
健康スコアリングレポートでは、たとえば以下のような項目を確認できます。
・健診受診率
・特定保健指導の実施状況
・健康状況 例:肥満、血圧、肝機能、脂質、血糖
・生活習慣 例:喫煙、運動、食事、飲酒、睡眠
・医療費の傾向
これらを俯瞰することで、自社の従業員にどのような健康リスクがあり、どの領域から優先的に取り組むべきかを考えやすくなります。ただし、数値を見るだけでは職場環境の改善にはつながりません。重要なのは、見えてきた課題に対して、どのような次の一手を打つかです。
データを福利厚生にどう活かすか
健康スコアリングレポートの活用で大切なのは、データを見て終わりにしないことです。見えてきた課題を、実際の福利厚生や職場環境の改善につなげていく必要があります。
- 健診受診率・特定保健指導の実施率が低い場合
健診受診率や特定保健指導の実施率が低い場合には、勤務時間内に受診・面談しやすい体制づくりや、未受診者への丁寧な案内が必要かもしれません。
「忙しいから受けられない」
「再検査の案内を受けても、どこに行けばよいかわからない」
このような従業員もいるため、受診しやすい導線づくりが重要です。
たとえば、健診予約の案内方法を見直す、再検査の受診先をわかりやすく示す、勤務時間内に面談を受けやすくするなど、従業員が実際に行動しやすい仕組みに落とし込むことが大切です。
- 生活習慣病リスクが高い場合
血糖、脂質、血圧などの生活習慣病リスクが高い場合には、栄養相談、運動支援、保健指導、医療機関への受診勧奨などが考えられます。
このとき大切なのは、単に「生活習慣を改善しましょう」と伝えるだけで終わらせないことです。
食事、運動、睡眠、飲酒などの生活習慣は、仕事の忙しさや職場環境とも深く関係しています。そのため、従業員個人の努力だけに任せるのではなく、職場として取り組みやすい支援を用意することが重要です。
- 喫煙率が高い場合
喫煙率が高い場合には、禁煙支援や禁煙外来の案内、受動喫煙対策の見直しが有効です。禁煙は、本人の意思だけで簡単に進むとは限りません。相談先や支援制度を用意し、必要な人が適切なサポートにつながれるようにすることが大切です。
また、受動喫煙対策を含めて、職場全体の環境を見直すことも健康経営の一部といえます。
- 睡眠・メンタルヘルスに課題がある場合
睡眠やメンタルヘルスに課題がある場合には、ストレスチェックの集団分析、外部相談窓口の周知、産業医や専門職との連携が重要になります。不調を感じていても、早めに相談できない従業員は少なくありません。
「この程度で相談してよいのかわからない」
「職場に知られるのではないかと不安」
「どこに相談すればよいかわからない」
このような不安があると、相談や受診が遅れてしまうことがあります。従業員が安心して相談できる環境づくりが、早期対応につながります。
健康経営優良法人・ホワイト500との関係
健康スコアリングレポートの活用は、健康経営優良法人や、いわゆるホワイト500を目指す企業にとっても、健康経営を進めるうえでの基礎資料になります。
健康経営優良法人制度は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、健康保持・増進に向けた取組を戦略的に実践する法人を社会的に評価する制度です。
その中でも、大規模法人部門の上位法人には「ホワイト500」の冠が付与されます。
ホワイト500を目指すうえで大切なのは、単に健康施策や福利厚生メニューを増やすことではありません。自社の健康課題を把握し、優先順位を決め、施策を実行し、結果を振り返って改善するという流れを継続することです。
健康スコアリングレポートは、この流れの中でも特に「現状把握」に役立ちます。
健康経営のPDCAに活かす
健康スコアリングレポートを活用すると、健康経営のPDCAを回しやすくなります。
Plan:現状把握・計画
データをもとに自社の健康課題を把握し、優先テーマを決めます。たとえば、健診受診率が低いのか、生活習慣病リスクが高いのか、喫煙率や睡眠に課題があるのかによって、優先すべき施策は変わります。
Do:実行
課題に応じた福利厚生や健康施策を実施します。健診受診の導線改善、保健指導の利用促進、栄養相談、運動支援、禁煙支援、メンタルヘルス相談窓口の周知など、自社の課題に合わせて具体的な施策に落とし込みます。
Check:評価
翌年以降のデータや従業員アンケートで、施策の効果を確認します。利用率、満足度、相談件数、再検査受診率、生活習慣の変化など、複数の視点から振り返ることが大切です。
Action:改善
結果をもとに施策を見直し、より使いやすい支援へ改善します。利用率が低い場合には、制度そのものが不要なのではなく、周知方法や利用しやすさに課題がある可能性もあります。
このように、健康スコアリングレポートは、健康経営を「なんとなく良さそうな施策」ではなく、「自社の課題に基づいた施策」として進めるための出発点になります。
数値だけでは見えにくい健康課題もある
一方で、健康経営や福利厚生を考える際には、レポートの数値だけでは見えにくい課題にも目を向ける必要があります。
たとえば、以下のようなライフステージに応じた課題です。
・月経・PMS
・妊活・不妊治療
・妊娠・出産
・育児
・更年期
・介護
・メンタルヘルス
こうした課題は、通常の健診データだけでは十分に把握できないことがあります。
健診結果では大きな異常がなくても、実際には毎月の体調不良を抱えながら働いていたり、不妊治療の通院と仕事の調整に悩んでいたり、育児や介護との両立に負担を感じていたりする従業員もいます。
こうした「数値には表れにくい困りごと」は、仕事のパフォーマンス低下や離職につながることもあります。そのため、健康スコアリングレポートで見える課題に加えて、従業員が個別に相談しやすい仕組みを整えることが大切です。
相談しやすい仕組みづくりが重要
数値に表れにくい健康課題に対応するためには、従業員が一人で抱え込まないための仕組みが必要です。
たとえば、次のような取り組みが考えられます。
・オンライン相談窓口を設置する
・専門職による情報提供を行う
・管理職向けに健康課題や両立支援への理解を深める研修を行う
・時間単位の休暇や柔軟な働き方を周知する
・受診や相談につながる導線を整える
制度は「ある」だけでは十分ではありません。従業員が安心して使えること、必要なときに相談できること、相談した後に適切な支援につながれることが大切です。
認定取得だけを目的にしない
健康スコアリングレポートや健康経営優良法人、ホワイト500は、いずれも健康経営を進めるうえで参考になる制度や資料です。ただし、認定を取得すること自体が目的になってしまうと、本質的な健康支援から離れてしまうことがあります。スコアを上げるために従業員へプレッシャーをかけたり、制度の形だけを整えてアピールしたりしても、従業員の健康課題の解決にはつながりません。
大切なのは、データをきっかけに、
「従業員が今どこで困っているのか」
「会社としてどのような支援ができるのか」
「制度をどうすれば実際に使いやすくできるのか」
を考え続けることです。
健康経営は、単発のイベントや一部の制度だけで完結するものではありません。従業員の健康状態や働き方の変化に合わせて、継続的に見直していく必要があります。
まとめ:健康スコアリングレポートは福利厚生を見直す出発点
まずは、健康スコアリングレポートで自社の現在地を知る。
そのうえで、データに表れる健康課題にも、データだけでは見えにくいライフステージの課題にも目を向ける。
そして、従業員が安心して相談でき、必要な支援につながれる体制を整えていく。
健康スコアリングレポートは、福利厚生を見直すためのゴールではなく、出発点です。
数字の向こう側にいる従業員一人ひとりの働き方や生活を想像しながら、安心して働き続けられる職場づくりへつなげていくことが、これからの健康経営に求められています。
ファミワンでは、妊活・不妊治療、女性の健康、メンタルヘルス、育児・介護との両立など、数値だけでは見えにくい健康課題についても、専門職による相談支援や企業向け研修を通じてサポートしています。
健康スコアリングレポートをきっかけに、自社の福利厚生や相談体制を見直したい企業様は、ぜひご相談ください。
社会保険診療報酬支払基金「健康スコアリングレポート」
https://www.ssk.or.jp/smph/datahealth/kenko_scoring/index.html
厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001467408.pdf
経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
あわせて読みたい




