「人の名前が出てこなくて、『あの人、あの人……』となってしまう」
「本を読んでいても、全然内容が頭に入ってこない」
「仕事に集中したいのに、気が散ってしまい、なかなか進まない」
「急に話を振られると、簡単なことでもすぐに答えが出てこない」
40代、50代になって、こんな変化を感じることはありませんか?
仕事では責任ある立場を任され、後輩の育成やチームのマネジメントも求められる。一方、家に帰れば家事や子育て、親のことなど、考えなければならないことは尽きません。そんな毎日の中で、以前なら難なくできていたことに時間がかかるようになると、「私、どうしちゃったんだろう」「能力が落ちてしまったのかな」と不安になることもあるかと思います。
こうした変化には、更年期に伴う女性ホルモンの変動が関係している可能性があります。頭に霧がかかったように思考がすっきりしない状態は、「ブレインフォグ(脳の霧)」と呼ばれることがあります。今回は、更年期とブレインフォグの関係や、女性ホルモンが脳に与える影響、忙しい毎日の中でできる対策について考えていきます。
頭に霧がかかったような状態「ブレインフォグ」とは?
ブレインフォグとは、頭に霧がかかったように思考がすっきりしない状態を表す言葉です。正式な病名ではありませんが、集中力や記憶力、考えをまとめる力などに変化を感じるときに使われます。
例えば、人の名前やよく知っている言葉がすぐに出てこない、仕事の資料を何度も読み返してしまう、複数の作業を同時に進めるのが難しくなった、ちょっとした確認漏れが増えた気がする、といった変化です。
更年期の女性を対象とした研究でも、物忘れや集中力の低下などの自覚症状が報告されています。ただし、症状の現れ方には個人差があり、誰もが同じような変化を経験するわけではありません。
また、こうした不調があるからといって、必ずしも能力が低下したということではありません。睡眠や疲労、ストレスなど、さまざまな要因が重なっている可能性もあります。
なぜ更年期に集中力や記憶力が変化するの?
更年期のブレインフォグには、女性ホルモンの変動や睡眠、ストレスなど、複数の要因が関係していると考えられています。
女性ホルモンは脳の働きにも関わっている
女性ホルモンのひとつであるエストロゲンは、月経や妊娠などに関わるだけでなく、脳の働きにも影響を与えています。
脳には、記憶に関わる「海馬」や、集中力、判断力、計画性などを担う「前頭前野」と呼ばれる領域があります。エストロゲンは、こうした領域で神経細胞同士の情報伝達や、神経のつながりの柔軟性を保つ働きに関わると考えられています。
また、気分の安定に関係するセロトニンなどの神経伝達物質の働きにも影響します。つまり、エストロゲンは、脳が情報を受け取り、整理し、必要なときに取り出す働きを支える要素のひとつなのです。
ホルモンのゆらぎに、睡眠不足やストレスが重なることも
更年期には、エストロゲンの分泌量が大きく変動しながら、徐々に減少していきます。この時期に、言葉が出にくい、集中しづらい、記憶を思い出すのに時間がかかると感じる人がいます。ただし、ホルモンの変動が認知機能にどの程度影響するかには個人差があり、まだ研究が続いている分野でもあります。
さらに、ほてりや寝汗によって夜中に目が覚めると、睡眠の質が低下し、翌日の集中力や記憶力に影響することがあります。仕事の責任が増える一方で、子育てや親の介護などの負担が重なれば、疲労やストレスもたまりやすくなります。
頭がすっきりしないと感じたときは、ホルモンの変化だけでなく、睡眠や疲労、心の状態にも目を向けてみましょう。
更年期のせいと決めつけないで 他の病気が隠れていることも
集中力が続かない、頭がぼんやりする、疲れやすいといった症状は、更年期以外の病気や体の不調によっても起こります。
例えば、甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」や、鉄が不足する「鉄欠乏性貧血」では、疲労感や集中力の低下がみられることがあります。また、睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群によって眠りの質が低下していたり、ビタミンB12などの不足、うつ病や不安症が影響していたりする場合もあります。
これらは更年期の症状と重なる部分が多く、自分だけで原因を見分けるのは簡単ではありません。
だからこそ、「年齢のせいだから」「更年期だから仕方ない」と決めつけて、つらい症状を我慢し続けないでほしいのです。
不調が長引いているときや、以前より症状が強くなっているとき、仕事や日常生活に支障が出ているときは、婦人科やかかりつけ医などに相談してみましょう。必要に応じて検査を受けることで、原因がわかり、適切な対処につながることがあります。
忙しい毎日だからこそ。今日からできる小さな工夫
ブレインフォグが気になるときは、無理に頭を働かせようとするより、脳や体への負担を少し減らす工夫を取り入れてみましょう。
頭の中だけで覚えようとしない
予定やタスクをすべて記憶しておく必要はありません。スマートフォンのカレンダーやリマインダー、メモなどを活用して、忘れないための仕組みをつくりましょう。
複数の作業を同時に進めることが負担なら、優先順位を決めて、目の前の仕事に集中する時間をつくるのもおすすめです。
睡眠と休息を大切にする
忙しいと、睡眠や休憩を後回しにしてしまいがちです。しかし、疲れがたまっているときには、頑張り続けるよりも休むことが必要な場合があります。
就寝・起床の時間をなるべく整える、寝る前のスマートフォンの使用を控える、日中に短い休憩を取るなど、できることから始めてみましょう。ほてりや寝汗、気分の変化などで眠れない状態が続く場合は、医療機関に相談することも大切です。
食事と運動を無理のない範囲で整える
特別な食材やサプリメントに頼る前に、まずはバランスのよい食事を心がけましょう。野菜や魚、大豆製品などを日々の食事に取り入れ、極端な食事制限は避けることが大切です。
また、ウォーキングなどの軽い運動も、心身の健康を支える助けになります。まとまった時間が取れなければ、通勤時に少し歩く、休憩中に体を伸ばすことからでも十分です。
つらさが続くときは医療機関に相談する
更年期症状がつらい場合は、婦人科や更年期外来で相談できます。症状や健康状態によっては、ホルモン補充療法(HRT)などが選択肢になることもあります。ただし、HRTはブレインフォグだけを改善する目的で一律に勧められる治療ではありません。期待できる効果やリスクを医師と確認し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
これからの自分に合った働き方を見つけよう
更年期の症状や感じ方には個人差があります。周囲や以前の自分と比べて、無理に同じペースを保とうとしなくても大丈夫です。
集中しやすい時間帯に重要な仕事を進める、忘れやすいことはメモに残す、必要に応じて周囲に相談するなど、今の自分に合った工夫を取り入れてみましょう。不調が続くときは、ひとりで抱え込まず、医療機関に相談することも大切です。
更年期は、自分を責める時期ではなく、心と体の声に耳を傾ける時期。「頑張り方を変えてもいい」「誰かの力を借りてもいい」と考えながら、これからも自分らしく働き、暮らしていくための一歩を踏み出してみませんか。
1. 医療情報科学研究所(編集).『病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科〔第4版〕』.岡庭 豊(発行者),株式会社メディックメディア,平成30年.
2. 対馬 ルリ子,吉川 千明.『「閉経」のホントがわかる本 更年期の体と心がラクになる!』.集英社,2020年.
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