女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、着物や振袖の販売・レンタルや、ウエディング事業などを手掛ける「株式会社一蔵」を取材しました。
幅広い年代の女性活躍を支える仕組みやカルチャーについて、人事本部 人事課の三津谷さん、人事本部 労務給与部 黒尾さんにお話を伺いました。
和装事業とウェディング事業を展開 女性の活躍が当たり前の職場環境
― まずは事業内容についてお聞かせください
和装事業とウエディング事業、大きく2つの事業を展開しています。
和装事業では、呉服販売、振袖の販売やレンタルのほか、着方教室を全国で展開しています。着物を着て出かけるイベントなどを通して、着物着用の機会創出に取り組んでいます。
ウエディング事業では、現在は国内4か所、海外2か所で結婚式場を運営しています。特別な日にふさわしい世界観を演出する”本物志向のファシリティ”と、料理や装花、ヘアメイク、写真撮影など全てを一蔵のスタッフが対応する”内製化したおもてなし”で、新郎新婦の要望沿ったおもてなしを提供しています。
― 一蔵さんでは多くの女性が活躍されていると伺っています、昨年(2023年)えるぼし認定を取得されましたね
三津谷さん:はい、一蔵では全従業員に占める女性割合は約68%、管理職に占める女性割合は約37%、年齢は18歳~71歳と、 非常に多くの女性従業員が活躍しています。
女性が活躍するための多様な働き方を評価いただき、えるぼし認定を取得しました。和装事業、ウエディング事業の分野では、埼玉県内では初めての認定となります。
― 管理職の中で約4割が女性というのはかなり高い数字だと思います。女性が活躍できるよう注力されている取り組みはございますか
三津谷さん: 実は、産休や育休、時短勤務といった一般的な制度は一通りあるものの特別な取り組みがあるというわけではないんです。
それでも女性が活躍できる理由は、幅広い年齢層の女性が同じ職場で働いている事が大きな理由のひとつだと思います。
子育て世代で管理職として活躍されている方もいますし、60代、70代でも活躍されている方が同じ職場の中にいることで、年齢に応じた働き方のロールモデルとして参考にしやすく、またお互いの立場を理解し尊重できる環境だと感じています。
加えて会社には、和装協会認定の着付資格の取得支援制度があり、この資格制度を使って、定年後も認定資格講師として着方教室で働いている方もいます。60代、70代の方が現役でイキイキ着方教室で働いているのを見ると本当に長く働ける会社なんだなと感じます。
黒尾さん:キャリアアップも女性を積極登用しているというよりは、自身でキャリアアップしたいという意識があれば、性別や状況に関係なく誰でも等しく昇進するチャンスがあります。
― ロールモデルが身近に感じられる環境の中で、ある程度自分でキャリアをコントロールできるという部分は働き続けやすそうな環境だと思います
三津谷さん:それぞれが、働き方をコントロールしながら、家庭と仕事のバランスをうまく取れているのではないかと感じています。時短の制度なども利用できますが、お子さんが小さい内は、週に2回のパートタイムのみにするなど、自ら選んで働き方自体を変えてしまう方もいますね。
黒尾さん:そうですね。育児や介護で止む無く仕事を大幅にセーブしなければならない場合の退職はもったいないと感じていて、積み重ねた経験を無駄にしないよう柔軟に雇用形態を変更しながら、長く働ける環境を提供できるように取り組んでいます。
― 勤続年数としてはいかがでしょう
黒尾さん:店舗業務などは、一定数の新陳代謝はあります。先ほどお話ししたように、雇用形態自体を変更する場合もあるため、この柔軟さが継続就業の数字には反映されない理由のひとつとなっています。
続けて働く、という点では、現在、育児休業・産前産後休業に入っている従業員は全社で48名、そのうち14名が2人目の出産や育児での休業となっています。1人目の出産後に復職され、2人目以降もこの会社で働いている方も多くいらっしゃいます。(2024年3月時点)
― 同じ職場内で、年齢の幅広さがあるというのもいいのかもしれないですね
黒尾さん:そうですね。子育てが終わった年代の方も勤務されているので、理解もあると思います。
― 年齢の幅広さという部分で、10代から60代、70代までが同じ職場で働いていてコミュニケーションで困ることとかはないのでしょうか
黒尾さん:前提として、接客に携わっている事からコミュニケーションスキルの高い方が多いとは思います。自社では20代の店長いる店舗に60代のスタッフがいる事も珍しくありません。業界柄幅広い世代が活躍している事を理解して入社しているので、お互いに受け入れながら働いているのかなと、話を聞く中で感じています。
今、当社ではデジタルで給与明細を配信していますが、見方がわからないとなると、若い子たちがこうですよって教えるなど、不足している部分をお互いに補い合いながら、持ちつ持たれつの関係性でうまくいっているのだと思います。
現場単位、現場メンバーで状況に合わせ柔軟に働き方を調整
― 育休のお話になったのでぜひ黒尾さんに事前にご用意いただいた、育休を取得された社員さまへのインタビューのお話を伺いたいなと思っております
黒尾さん:ウェディング事業部にいる社員に、育休の取得・復職に関して話を聞いてきました。この方は1人目をご出産後、育児休業を取得して、1年ほど前に復職、またこの春から2人目の産休・育休に入る社員です。
「1人目の育児休業をあけて、現場に戻るときに不安はなかったですか?」と質問に対しては、とても不安が大きかったとの回答でした。
ウェディング事業では、1組のお客さまに対しての担当制となるため、子供の体調不良など急な休みが必要になった際にはどうなるのかなど、ご本人としては復職して働き続けることができるのだろうかという心配があったようです。
「実際に復職してからはどうでしたか?」という質問に対しては、周囲のサポートやフォローがあり、とても働きやすいという回答でした。
復帰後は、突発的な休みにも対応できるよう、1人で顧客を担当するのではなく、先輩や他のメンバーのサポートという形での勤務をしてます。自分が休むことになっても、電話での引継で即時対応できます。休むことに対しての罪悪感もよりも、休んだ分は仕事で返そうという気持ちの切り替えをして対応できストレスや不満は全くないそうです。
この対応は、会社としての指示ではなく、現場やチームの自発的な取り組みです。現場単位でマネージャーとチームメンバーが話し合い、復職後の社員の働き方や対応について決めて実行しています。
女性同士で働く中で、それぞれが助け合いながら働き方を調整するという風土が根付いていると感じています。
―現場単位で、状況に合わせてアイデアを出しながら調整できているってすばらしいです。育児を経験済みのメンバーから自分の経験に基づいたアイデアが出るなど、制度ではない部分で、自然とサポートし合えることは、やはり職場内の年齢層の幅が広いという部分で、すごくいい効果が出ているのではないかと感じます。
三津谷さん: そうですね、現場での自主的に取り組む体制が出来上がっている所が他にはない所だと感じます。復帰前の面談も、現場単位で行っていて、決まったことを人事に報告するというフローが自然に根付いています。
黒尾さん:事前インタビューに協力してくれた社員も、現場では、マネージャーをはじめ、とにかく周りにとても理解があるという話をしきりにしていました。今回、2人目の育児休業に入るにあたっても、復帰後の働き方のイメージがあるので、不安はなく休業に入れるそうです。 この方はもともと明るく前向きな社員なのですが、このキャラクターを保てているのも周囲からのサポートがあり、本人がのびのび働けている表れではないかなと思っています。
男女ともに長く活躍できる環境や風土づくりを目指して
― 残される方の不公平感をどうしたらいいのかという話もよく伺うのですが、当事者以外へのフォローやサポートはありますか
黒尾さん:子ども理由にして休みを取ることは、一昔前に比べて受け入れられやすい風潮になってきていると思います。その一方で、協力する側のフラストレーションについては、スポットが当たりにくいですよね。子育て世代が抜けた穴は、今働いている人たちで支えられているので、不公平感を持つ人が出てくる事もあると思いますし、ここはまだ一蔵も「協力」で成り立っている部分があります。
その解消には、子育て世代だけではなく、どんな理由であれ同じように制度・仕組みが使いやすい風土や文化であることが大事ではないかなと思っています。
まだまだ課題はあるので、会社も少しずつ進化していく必要があると感じています。
三津谷さん:有休消化等の休みに関しては、上司が積極的に取得することが浸透につながりやすいと思います。ちょっとした理由で休む計画を組むことや、その理由をなるべくオープンにすることで、周囲も言い出しやすい、休みやすい雰囲気になると思います。
― そのほかに今後の展望や注力したい取り組みがあればお聞かせください
黒尾さん:男性の育休がもっと浸透して欲しいと考えています。
直近で2名、全く別の拠点でほぼ同時に男性の育休取得となり、いい流れが来ています。1ヶ月〜1ヶ月半という、男性の中では少し長めの取得となった点や、制度を調べて分割取得したこと、また、有給休暇ではなく、育児休業を選択してもらえた点もうれしく思っています。
特に当社は男性の母数が少ないので、子育て世代の男性が育児休業を取得することで、その後のロールモデルとして、より長期での休業の取得や、男性社員も子育てに積極的に加わる事への理解や促進につながるのではないかと思います。
三津谷さん:男女ともに長く活躍していただきたいと考えています。
60代、70代の女性が活躍しているのを間近で見ていると、産休や育休、子育てをする期間は、一部のライフイベントでしかないと感じます。その期間でキャリアを諦めてフェードアウトしてしまうのはすごくもったいない。
男女とも、年齢に限らず、ライフイベントを乗り越えて長期的に働きたいと言ってくれる人に対しては、会社側として、柔軟に対応し、活躍していただけるよう環境を整えていきたいと考えています。
■ 会社情報
会社名 | 株式会社一蔵 |
所在地 | 東京本社:東京都千代田区 埼玉本社:埼玉県さいたま市北区 |
事業内容 | ■ 和装事業 呉服等の販売、振袖等の販売・レンタル、 成人式の前撮り写真撮影 成人式当日の着付け及びメイクサービス、 きもの着方教室の運営等 ■ ウエディング事業 結婚式場の運営等 |
設立 | 1991年2月5日 |
従業員数 | 839 名(一蔵グループの正社員・契約社員数) |
公式ページ | https://www.ichikura.jp/ |