朝の通勤電車。ふと周囲を見渡すと、多くの方がイヤホンをつけています。音楽を聞いている方、動画を見ている方、語学の勉強をしている方、仕事の電話をしている方。最近ではオンライン会議やリモートワークでも、イヤホンは欠かせない存在になりました。
私自身も、通勤中に音楽を聞いたり、家事をしながらポッドキャストを聞いたりすることがあります。忙しい毎日の中で、耳から情報を得る時間はとても便利で、ちょっとしたリフレッシュにもなります。
しかし最近医療の現場で少し気になる言葉を耳にするようになりました。それがイヤホン難聴です。
正式な病名ではありませんが、医学的には 騒音性難聴 の一種と考えられています。強い音を長時間聞き続けることで、耳の奥にある細胞が傷つき、聞こえにくくなる状態です。
スマートフォンが当たり前になった現代、私たちの耳はこれまでの世代よりも長時間、音にさらされるようになっています。便利な道具であるイヤホンですが、使い方によっては耳に負担をかけてしまうこともあるのです。今日はそんな現代病とも言えるイヤフォン難聴についてお話させて頂きます。
音はどのように耳に届くのか(耳の構造と聞こえの仕組み)
耳は大きく外耳、中耳、内耳という三つの部分からできています。
外耳は耳たぶから耳の穴までの部分で、音を集めて鼓膜へと届けます。中耳には鼓膜と、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨という三つの小さな骨があり、音の振動を増幅して内耳へ伝えます。
そして最も重要な役割を担っているのが内耳です。内耳には蝸牛(かぎゅう)と呼ばれるカタツムリのような形をした器官があります。この中には有毛細胞と呼ばれる細胞が並び、音の振動を電気信号に変えて脳へ送っています。
私たちが音楽を楽しんだり、人の声を聞き取ったりできるのは、この有毛細胞のおかげです。
難聴にはいくつかの種類がある
難聴とは、音が聞こえにくくなる状態のことを指します。原因や障害される部位によって、いくつかの種類に分けられます。
外耳や中耳に問題があり、音が内耳までうまく伝わらないものは伝音難聴と呼ばれます。耳垢の詰まりや中耳炎などが原因になることがあります。
一方、内耳や聴神経の働きが低下することで起こるものは感音難聴です。加齢による難聴や騒音による難聴は、このタイプに分類されます。
イヤホン難聴は、この感音難聴の一つと考えられています。
なぜイヤホンで難聴が起こるのか
イヤホン難聴の主な原因は音の強さと聞いている時間です。
強い音を長時間聞き続けることで、内耳の有毛細胞に大きな負担がかかります。特にイヤホンは音源が耳のすぐ近くにあるため、鼓膜や内耳に強い刺激が直接届きやすい特徴があります。
さらに電車内など周囲がうるさい環境では、音量を無意識に上げてしまうことがあります。こうした習慣が続くと、有毛細胞が少しずつダメージを受け、聞こえにくさが進行していく可能性があります。
有毛細胞のダメージは次のような過程で進むと考えられています。
1 振動による強い刺激
2 細胞の疲労
3 細胞の変形
4 細胞死
有毛細胞は基本的に再生しないため、失われた聴力が完全に元に戻らない場合もあります。
音量と時間 ―耳が傷つくライン―
音の強さはデシベル(dB)という単位で表されます。日常生活の音を例にすると、普通の会話は約60dB、交通量の多い道路は80〜85dB程度です。
この85dBという値は、耳への影響を考える上で一つの目安とされています。
米国労働安全衛生研究所(NIOSH) のガイドラインでは、85dBの音を8時間以上聞き続けると聴力障害のリスクが高くなるとされています。
また音量が3dB上がるごとに、安全に聞ける時間は半分になるとされています。
| 音量 | 例 | 耳への影響 |
| 30 dB | 図書館 | 問題なし |
| 60 dB | 普通の会話 | 安全 |
| 80 dB | 電車内 | 長時間で負担 |
| 85 dB | 交通量の多い道路 | 難聴リスク |
| 100 dB | 大音量イヤホン | 短時間でも危険 |
| 音量 | 安全時間 |
| 85 dB | 8時間 |
| 88 dB | 4時間 |
| 91 dB | 2時間 |
| 94 dB | 1時間 |
| 97 dB | 30分 |
| 100 dB | 15分 |
| 103 dB | 約7分 |
スマートフォンや音楽プレーヤーのイヤホンは、機種によっては100〜110dB近い音量に達することがあります。つまり大音量では、わずか15分程度でも耳に負担がかかる可能性があります。
世界で増えるイヤホン難聴
この問題は世界的にも注目されています。
世界保健機関(WHO) は、イヤホンなどで大きな音を聞く習慣により、世界で約11億人の若者が難聴のリスクにさらされている可能性があると報告しています。
研究によっては、若者の約10〜15%に騒音による聴力低下の兆候がみられるという結果もあります。
日本では正確な患者数はまだ明らかではありませんが、耳鼻科の現場では若い世代の騒音性難聴が増えていると指摘されています。
イヤホン難聴のサイン
次のような変化がある場合は、耳が疲れているサインかもしれません。
・テレビの音量を以前より上げるようになった
・騒がしい場所で会話が聞き取りにくい
・人の声がこもって聞こえる
・イヤホンを外したあとに耳鳴りがする
騒音性難聴では特に高い音から聞こえにくくなることが多く、日常会話では気づきにくいこともあります。家族や友人に指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。
診断と治療
耳鼻科ではまず問診を行い、イヤホンの使用時間や音量、症状の経過などを確認します。その後、耳の中の状態を観察し、必要に応じて聴力検査を行います。
騒音性難聴では、特定の高い周波数の聴力が低下する特徴がみられることがあります。
治療は症状の程度や発症時期によって異なります。早期の場合には内耳の血流を改善する薬やビタミン剤などが処方されることがあります。また耳を休ませることも重要です。 しかし有毛細胞のダメージが大きい場合、聴力が完全に回復しないこともあります。
今日からできる予防法
イヤホン難聴を防ぐために、専門家がよく勧めているのが「60/60ルール」です。
これは音量を最大の60%程度に抑え、連続して聞く時間を60分以内にするという考え方です。
また1時間に一度はイヤホンを外し、耳を休ませることも大切です。電車内など騒音の多い場所では音量を上げてしまいがちなので、ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使うことも耳への負担を減らす方法の一つです。
そして寝る前にイヤホンを使う習慣がある方は注意が必要です。そのまま眠ってしまうと、長時間音が耳に入り続ける可能性があります。
未来の自分の耳を守るために
イヤホンはとても便利な道具です。通勤時間が楽しい時間になったり、勉強や情報収集の時間になったりします。
私自身も音楽に元気をもらうことがあります。
だからこそ、イヤホンをやめましょうと言いたいわけではありません。ほんの少しだけ耳のことを思い出していただけたらと思います。
音量を少し下げる。
長時間続けて聞かない。
耳鳴りや違和感を感じたら休む。
こうした小さな習慣が、将来の耳を守ることにつながります。
私たちは目の健康には気を配りますが、耳について意識する機会はあまりありません。しかし耳も一生使い続ける大切な感覚器です。
未来の自分の耳を守るために、今日から少しだけイヤホンとの付き合い方を見直してみませんか。
世界保健機関
Make Listening Safe Initiative
https://www.who.int/activities/making-listening-safe
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
騒音性難聴について
https://www.jibika.or.jp
日本医師会
難聴とその予防
https://www.med.or.jp
厚生労働省
騒音と健康影響に関する資料
https://www.mhlw.go.jp
米国労働安全衛生研究所
Noise Exposure Guidelines
https://www.cdc.gov/niosh
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