女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、医療業界におけるWeb講演会運営・配信サービス(ライブ配信サービス)を主力事業として、人工知能(AI)サービスの研究・開発のほか、eスポーツやメタバース、ChatGPTなど幅広いソリューションを展開する「木村情報技術株式会社」を取材しました。
佐賀県内で初となる「くるみんプラス」の認定取得となった背景、そして取り組みの軸となる企業理念や人事部としての想いなどを、人事総務部の西地さんと橋本さん、経営戦略室 広報担当の山本さんにお話を伺いました。
講演会のライブ配信からAI、メタバースを活用したソリューションまで幅広く展開
― まずは貴社の事業内容についてお聞かせください
佐賀県に本社があるIT企業で、主力事業は医療業界におけるWeb講演会運営・配信サービス(ライブ配信サービス)の提供です。事前準備や集客から、当日の運営、本番終了後のレポート提出までワンストップで提供しています。
2016年からは人工知能(AI)事業に着手、現在はその他にeスポーツやメタバース、ChatGPTを活用した新しい技術に着目・事業化し、サービス展開しています。
― IT企業というと男性が多いイメージですが、現在の男女の比率はどのようになっていますか?
佐賀本社には、約200名の社員が在籍していて、男性が7割、女性が3割となっています。システム周りの開発や保守を中心とした業務がメインとなるため、エンジニアが多く在籍しています(取材を実施した2024年2月時点)。 そのほか、東京や札幌、大阪、名古屋、福岡など全国に支店があり、営業職の社員は各支店に在籍しています。
佐賀県初!「くるみんプラス」を取得
両立支援への取り組みのきっかけと制度運用について
― 「くるみんプラス」を取得された背景をお伺いしていきたいと思います。両立支援や女性活躍推進のためのこれまでのお取り組みの結果として、佐賀県初の「くるみんプラス」の認定取得につながったと伺っておりますが、その背景や取り組みのきっかけをお聞かせください。
毎年、全社員を対象に社内改善アンケートを実施し、職場環境改善のための意見や、新しい事業のアイデアなど、会社に対する要望を集めています。集まった意見やアイデアは、全社員が参加する年末会議の場で、代表の木村(代表取締役 木村隆夫さん)自ら、実行するか見送るか、見送る場合はその理由をすべて説明しています。
その会議の場で、女性社員から生理休暇の要望が出たことが、新しい休暇制度を検討するきっかけでした。そこで人事としては、それをきっかけに生理休暇だけではなく、不妊治療との両立をサポートできる制度を含め顕在化していない部分をカバーしながら新しく整備していこうという流れになりました。
くるみんプラス認定制度は、2022年4月1日に従来のくるみん認定に加え、不妊治療と仕事の両立がしやすい環境整備に取り組む企業を認定する制度として新設されました。不妊治療と仕事の両立がしやすい環境整備に取り組む企業を認定する制度です。
― 生理休暇や不妊治療のための休暇制度の運用で工夫されていることはありますか?
新設した休暇は、生理休暇と不妊治療のための休暇、妊婦検診のための休暇取得をまとめて「ウェルネス休暇」という呼び方にしています。性別に関わらず男女ともに利用ができる特別有給休暇制度です。
当社では、もともと休暇を取得するときに理由の申告は不要という運用にしています。
また、従業員から特別休暇で休むことを上司に知られたくないなどの相談があれば、次のような対応も行っています。従業員本人は、治療などによる特別休暇取得の際も、上長には単に有給休暇を取りますと申告します。その後、別途労務担当者に直接、治療の通院のため特別休暇を取得する旨を申告することで、特別休暇に切り替えています。こうした運営方法をとることで、周囲に対しても本人のプライバシーを守りながら運用できています。
さらに、労務担当者は男性、女性とも在籍しているので、特別休暇の取得当事者が男性でも女性でも、同性に相談、申告できる環境になっている点もうまくカバーできていると感じています。
― 休暇取得の実績や社内からの反応はいかがですか?
プライバシーに配慮した運用の仕組みに対して、利用した社員から労務担当者に直接お礼や感謝の言葉が届いています。
2023年の1月から運用を始めて、不妊治療を理由とした休暇取得は15件の申請がありました。生理休暇などを含めるともっと多いかと思います。
人事総務部 橋本さん
― 運用から1年足らずですでに利用実績があるとは!新しい制度に対する社員への告知や通知、利用促進で工夫されていることはありますか?
新設された制度については、全社員が参加する年末会議の場や、毎朝全社員がオンラインで参加する朝礼の中でも説明しています。
また、人事担当者が各部署の役職者やリーダーたちと日頃からコミュニケーションを取ることを心がけています。メンバーから相談が上がってきた際に、制度や仕組みをしっかり役職者からも伝えてもらえるように日頃から積み重ねが大事だと感じています。
加えて、研修会や説明会のほか、啓発用のオンライン動画を社内で見てもらうこともあります。
研修動画や啓発動画などは社内で製作しています。スライドを用意して、話す内容をテキストで入力すると、それをAIの音声で読み上げ動画にするという自動プレゼンテーション作成ツール「PresenMaker(プレゼンメーカー)」という自社サービスを活用し動画制作を行っています。
社内研修、セミナーの動画資料は自社で開発したツールを使用して内製
「社員第一主義」と「always new idea.」
― 治療との両立だけではなく、もともと子育てとの両立に対しても制度等が充実されている印象ですが、子育て世代の方が社内に多いのでしょうか?
そうですね。若い社員や子育て世代が多いのは間違いないです。ただし、一番影響しているのは当社の企業理念と代表の想いです。
当社では企業理念の中で、「人に喜ばれること」と「感謝と和合」という二つを大切にしています。この理念を大事にする中で、代表の木村は常々「社員第一主義」を口にしていて、この考えは社員にも浸透しています。
社員が幸せに働ける環境があれば、その社員を支える家族も支援してくれる。家族の支援があれば、その社員はきっと一流の仕事ができ、お客様にも一流のサービスを提供してくれると思います。お客様が喜んでくれることで、地域が活性化して、また当社にいい人が来てくれるという良いサイクルがつながるという想いがこの「社員第一主義」に込められています。
人事部としては社員が働きやすい環境はどうすればできるのかというのを、毎年ずっとブラッシュアップを行なっています。その中で、子育て世代の社員も多いため、その声が制度や仕組みに反映されているという経緯があります。
― 「社員第一主義」すばらしいです。ここまでお話を伺う中で、トップダウンではなく、社員ひとりひとりの声を大事にされていると感じています。
西地さん:先ほどお話しした全社アンケートに加えて、自分のアイデアをいつでも投稿できる社内SNSが運用されています。そこで出た意見やアイデアから、社内の要望をキャッチアップし、それに合わせて制度をどんどん整えていっています。
全社員に対して実施したエンゲージメント調査の結果では、上位項目に「職場環境」と「チャレンジできる社風」が上がってきます。一般的には人間関係の悩みなどが結構多いと思いますが、それらは上位に上がってこないというのは改めて自分たちでもすばらしいなと思います。
山本さん:社員の「これやりたいです」という発言は、代表の木村や管理職者が、どんどん取り入れています。できないときは、今できない理由をしっかり説明するため、非常に風通しの良さですとか提案しやすい環境が整っているのではないかなと思います。
今もこれからも働きやすい会社を目指して
― これからさらに取り組みを進めていくこと、今後の展望などをお聞かせください
人事担当としては、女性管理職をもっと増やしていきたいと思っています。今でも女性だからという理由で評価されないわけでもないのですが、取り扱うサービス上、エンジニアの比率が高く、男性管理職が多い傾向にあります。
ライフステージの変化に応じた女性のキャリアデザインという部分を手厚くして、心配せずに自分のやりたいことがやれる環境を作っていきたいと思っています。
今の営業部長が女性で、産休・育休を経て、部長職として復職しています。その方を女性活躍のロールモデルとしてもっと広げていけたらと思っています。
今の制度に加えて、今後も社員のライフステージや環境が変わった時に、もっとこうだと働きやすいなという意見やアイデアが出てくると思います。その意見を会社が吸い上げて、その都度希望に合わせて制度を柔軟に変化して対応していきたいと思っています。長く勤めやすい環境というのは今後も継続して言えるかなと思います。
「仕事をするため」に必要な休みはしっかり取る。家庭の事情やライフステージの変化に影響されず長く働けるからこそ、安心して仕事に取り組める、そういった良い流れができるよう心がけています。
― 自然と社員からこうしたい、こうだったらいいのにという声が上がってきて、それに対して会社がきちんと対応する、制度や仕組みだけがひとり歩きせずきちんと運用される秘訣だなと感じました。
山本さん:今もこれからも「働きやすい会社ですよ」というところはアピールさせていただきたいですね。ウェルネス休暇を始めますという時も、不公平感やネガティブに捉える人はいませんでした。
代表の木村をはじめ、社員全員、男女を問わず、社員自身やその家族の都合で休むことに非常に理解があります。
男性でも役職者でも、「ちょっと家族が体調悪いので帰ります」と気兼ねなく言える環境です。男女問わず、子どもがいる社員には、退勤時間頃になると周囲のメンバーから「そろそろお迎えじゃないの?早く帰ってください」と声がかかるような環境や風土ができあがっています。
西地さん:当社で制度や仕組みが形骸化しない一番の理由は、我々は認証を取ってアピールすることが目的ではない、という部分ではないでしょうか。
社員が働きやすい環境を作る上で、制度を運用していたら条件を満たしたので申請した、という経緯であって、認定取得のための制度を社員に押し付けているわけではありません。目的がそもそも違うので、形ばかりの制度運用にはならないと思います。
人事総務部 西地さん
― 本当にそうだと思います。社員からの声を受け止め、社員のために考え実行するということが、浸透の秘訣ということが今回のお話全般から伺えました。本日はありがとうございました!
■ 会社情報
会社名 | 木村情報技術株式会社 |
所在地 | 佐賀県佐賀市 |
事業内容 | ・人工知能(AI)活用事業及び人工知能サービスの研究・開発 ・Web講演会運営・配信サービス「3eLive」及び収録・オンデマンド配信サービス ・オンライン学会運用プラットフォーム「KIT-ON」の運営・管理 ・医薬品情報プラットフォーム「AI-PHARMA」の運営・管理 ・医薬品業界向け出版及び研修コンサルティング事業 ・サガン鳥栖スマホの販売とエックスモバイルの代理店販売 ・「Zoom」及び「Remo」会議システムの代理店販売 など |
設立 | 2005年7月29日 |
公式ページ | https://www.k-idea.jp/ |