【インタビュー】武蔵野大学看護学部における実習指導について

ファミワンは2020年度から、武蔵野大学看護学部3年生の「母性看護学」の実習指導の中で、不妊症看護認定看護師の西岡有可と臨床心理士・公認心理師の戸田さやかが実習指導を行っています。

今回はファミワンによる2年間の実習指導について、武蔵野大学看護学部の坂上明子教授、坪田明子准教授に学生さんたちの学びの様子も含めてお話をお伺いしました。

左から)武蔵野大学看護学部 坂上明子教授、坪田明子准教授 

武蔵野大学とは

1924年に設立された武蔵野女子学院、武蔵野女子大学を前身とし、2003年に武蔵野大学に。12学部20学科、13大学院研究科、通信教育部など学生数12,000人超の総合大学。

看護学部では、人々の心に寄り添える豊かな人間性と高い専門的知識・スキル・倫理観を兼ね備えた看護専門職者を育成しています。

ファミワンを知ったきっかけ

ファミワンに所属する不妊症看護認定看護師との出会い

坂上明子教授(以下 坂上先生): 代表看護師の西岡さんから日本生殖看護学会の研究相談会に「ファミワンでの活動や取り組みをどのように研究に活かせるか」といったご相談があったことが、きっかけだったと思います。

その後も、折に触れ、ファミワンさんの先駆的な活動についてうかがっていました。そのため、「ぜひ、不妊カップルへの新しい支援のあり方を看護学生にも学んでほしい」と思い、2019年に実習をお願いできないかとご相談しました。

なぜファミワンに実習を依頼しようと思ったか

妊娠~育児期の支援を学ぶうえで不妊カップルへの支援を学ぶことが必要だと感じたと同時に、企業で活躍する看護職の姿から多様な支援の提供の仕方や、働き方があることを伝えたかった

坂上先生:武蔵野大学では、2週間の「母性看護学」に関する実習を行なっています。多くの看護系大学などでは、「母性看護学」の実習では、妊産婦さんの看護や、産後のお母さん・新生児とそのご家族の看護を中心とした、病院などでの実習を行っています。

しかし、少子化で病院などの実習施設の確保が難しくなったことや、厚生労働省が病院などの医療施設以外の実習施設も認める正式文書を出したこともあり、「母性看護学」に関連した知識や技術を学ぶために、妊娠~育児期だけでなく、女性のライフステージすべてを対象とした実習を行っていきたいと考えるようになりました。

その中のひとつとして、不妊に悩むカップルが急増し、誰でも望めば妊娠できるというわけではない現状のため、妊娠するまでたくさんの悩みを抱えているカップルへの支援を学ぶことは、とても意義があると考えましたし、妊娠~育児期の支援を学ぶ上でも、非常に大切だと思いました。

また、西岡さんのように医療施設に所属されるのではなく、企業で看護専門職者として活躍している方の実践活動を学生が学ぶことは、学生たちが将来のキャリアパスを考えていく上で非常に役に立つと思ったことも、ファミワンさんへ実習を依頼した理由の一つです。

ファミワンの看護実習に期待していること

ファミワンならではの職種連携、不妊の先の人生も含めた寄り添い…

坂上先生:実習後の学生たちのレポートに目を通すと、多くの学生が不妊カップルへの支援として「多職種連携」の重要性とその具体的方法が理解できたという内容を記載しています。「チーム医療が重要」ということは誰でも言えるフレーズですが、看護学生が大学時代にチーム医療について、実践的に学びを深められる機会はあまり多くありません。

ファミワンさんによる実習では臨床心理士の戸田さんにもご指導いただいていますが、講義の中では看護職と、医師や胚培養士、心理職、ピアカウンセラーなどとの多職種連携についても積極的にご紹介いただいており、ファミワンさんならでは活動を学ぶことができていると思います。

坪田明子准教授(以下:坪田先生):不妊というと、たくさんの悩みがあったり、大変、辛い…などネガティブなイメージのみをもっている方も多いのではないでしょうか?本学の学生においてもそれは同様であり、さらに看護学生ですので、そこにどう支援していくのか、という視点が入ります。

不妊という時期を体験することは、女性やカップルにとって大変さや辛さがあり、そこを理解し支援することはとても大切です。一方で、その時期は女性やカップルにとって、日々の生活、自身のからだ、そして夫婦としての在り方やその人たちなりの今後の人生に向き合ったり、深く考える時間となり、それは決してマイナスなことではありません。結果として子どもを授かったかどうか…に関わらず、その女性やカップルにとって、自身の成長や今後の人生の糧になることもあるわけです。

ファミワンさんの実習では、不妊治療を卒業した女性やカップルについて、インタビューや日々の様子に関する動画も見せてくださいます。動画では、登場される方たちが不妊という体験をどのように捉えているか、また、どのような生活をされているかが紹介されています。不妊という時期のその先の姿を垣間見せて頂くことで、学生たちは、不妊に悩んだり、治療に臨んでいた方たちにとって、この体験が大変、辛いという体験だけにはなっていないこと、また、そうなるように支援していくことが大切であることに気づけるのではないかと感じています。

看護者は、対象の方の人生のごく一部(一時期)に関わらせて頂いています。最初に抱いていたイメージにとらわれず、現時点のみならずその先を含めて、しっかりと対象の方の姿を知ろうとしたり、耳を傾けることがとても大切であり、学生にもその謙虚な姿勢をもっていて欲しいと願っています。ファミワンさんの実習では、そういった視点をも学ぶことができ、それは不妊の方に留まらず、関わらせていただく様々な方々に対する対象理解や寄り添い、といったところのスタート地点にもなると思っています。

学生がファミワンから学んでいること

不妊当事者への理解から、性教育をはじめとした「プレコンセプションケア」まで問題意識が芽生えた学生も

坂上先生:ファミワンさんの実習では、不妊カップルの心理状態や、精神的・社会的負担と、ファミワンさんが行っている具体的な支援について教えていただいています。また、不妊治療の保険適用化など、不妊治療に関連した新しい知識を学ぶこともできていると思います。先ほどもお伝えした「多職種連携」という点や、オンライン相談のメリット・デメリットなどの新しい取り組みも学べていると感じています。

また、学生のレポートでは、「不妊治療と仕事の両立をどう支援していくか」ということや、さらに、「幼少期からの性教育が必要」というところまで視点が及ぶようになりました。

将来、子どもが欲しいと思ったときに妊娠でき、安全に産み育てることができる健康な体づくりや、周囲の環境をどのように整えていくと良いのかという点も、学生たちは学べていると感じています。

「性教育」というと、どうしても避妊、人工妊娠中絶、性感染症予防となりがちです。そういった性教育の中で育った学生は、「希望すれば妊娠ができるもの」とインプットされていることが多く、「男女ともに年齢が高くなったら妊娠しづらくなるということを私は十分に理解していなかった。医療を学ぶ学生以外の人たちにもこの大切な情報をきちんと理解してもらうために、なぜもっと若い時からそういう情報が提供されないのだろうか?」といったレポートも散見されていました。

2022年度からは、授業でも「プレコンセプションケア(※1)」の具体的内容を系統的に学び始めました。健康な妊娠・出産を実現する上ではもちろん、男女誰にとって必要な健康の知識が実は学校教育の中で十分に届けられていないのではという課題もあがっていますね。

(※1)プレコンセプションケア:前思春期から生殖期にある男女のためのヘルスケア。将来、子どもを産むかどうかにかかわらず、将来のライフデザインを考えたり、安全な妊娠・出産や生まれてくる子どもの健康を考えて、現在の自分たちの健康を管理すること。

坪田先生: 坂上先生が授業で取り扱うプレコンセプションケアでのことがファミワンさんの実習とリンクしていて、実際に取り組まれていることをリアルに体感することができることで、学生たちの学びが深まっているなと感じています。

他の看護実習との違い

ファミワン講師との活発なディスカッションから高まる学生たちの熱意

坂上先生 : 2019年に実習を依頼した時点では、ファミワンさんが企業向けに開催するセミナーに参加・見学させていただくことになっていました。しかし、2020年春に緊急事態宣言が発令されました。そのため、オンライン講義となり、ファミワンさんの活動をレクチャーしていただいたり、実際に開催されているセミナーの様子を動画でご紹介いただいたりしています。

他の実習施設では、妊産婦さんやスタッフさんとコミュニケーションを取ることはできても、一つの場面や課題についてじっくり話し合うことはなかなかできません。ファミワンさんの3時間半の実習時間の中で、西岡さんと戸田さんが、何度も学生たちの意見を引き出してくださっています。学生たちも気軽にZoomのチャットを使ったり、直接、口頭で学生ならではの視点で意見を言ったり、西岡さんや戸田さんがそれぞれの専門性を踏まえた支援に対する考えをお伝えくださることで、活発にディスカッションができています。そういったやりとりから、一緒に参加している私たち教員も多くの発見をしています。

例えば「みんなが、不妊に関連した健康教育をするなら、どんなテーマにするか」や、「どんな工夫をするか」といった問いを投げかけてくださって、西岡さんや戸田さんはすべての意見に対して、「この短時間でよくそこまで深く考えることができたね」とか、「そういうユニークなアイデアに今まで気づかなかった。私たちのセミナーでも、そのアイデアを取り入れられそう」など、丁寧にコメントをくださいます。学生たちは自分たちが言った意見に対してこんな風にポジティブなコメントをいただけるんだ、と励みになっているようで、積極的に次々と新しい意見が飛び出してきます。意見交換の積極性は、他の実習とは異なるという印象を受けていますね。

また、対象者を長期的なスパンで見られるようになるという点も他の実習との違いですね。不妊治療中のことだけじゃなく、その前の思春期の健康や、治療を終了してから後の生活にも視点が及ぶというところでしょうか。最近は高齢の不妊患者さんが増えてきていますが、妊娠した先には出産や育児が続いていきます。高齢での妊娠による合併症の可能性や、高齢での子育てによる大変さ、また、妊娠しない、つまり子どものいない生活となる可能性も考えて、「今、子どもを望んでいるから不妊治療を支援する」だけではなく、妊娠してもしなくても、その後の生活も考えて支援していく必要があるということにも気づくようです。この実習ではそういった視点までたどり着ける学生も多く、そういう点も他の実習との大きな違いかなと感じますね。

坪田先生: 看護学部の実習は病院や医療機関で実施されることが多く、看護師の勤務先としてもそのような施設がメインです。学生は、ファミワンの西岡さんや戸田さんのご経歴をお聞きしたり、ご講義を受けることで、看護師がさまざまな場で社会的に活躍しているということを知り、学生時代から視野を広げられる実習になっていると思います。ファミワンさんの実習では、働く上での可能性をぐっと広げていただいていると思っています。

坂上先生:これらの学びから、学生たちは実習最終日の「テーマカンファレンス(※2)」で、不妊治療中のカップルへの支援だけでなく、プレコンセプションケア、不妊治療後の妊娠~育児期の家族への支援、性的マイノリティのカップルへの不妊治療中の支援や子育て支援などについてのテーマを選択することも多いですね。病院の中だけにとどまらない支援の在り方などをディスカッションすることにも非常に役立っており、ファミワンさんの実習のお陰です。

(※2)テーマカンファレンス:母性看護学に関連したテーマを学生が選択し、文献を用いてグループでテーマに関する課題と、それを解決するための看護・支援の在り方についてプレゼンテーションし、他のグループの学生たちディスカッションをして学びを深めていくカンファレンス。

今後の実習でファミワンに希望すること

現場・オンラインそれぞれの良さを活かして

坂上先生:今後、コロナ前に想定していたように、地域や企業でのセミナーなど健康教育の場面にも参加させていただける機会があれば、学生自身が実際の不妊カップルの方々や環境への働きかけを目の当たりにして、新たな学びを得られるのではないか、と思っています。専門家から学ぶことはとても重要ですが、実習ですので、当事者の皆様に十分な配慮をしたうえで、当事者の皆様から直接学ぶことはさらに重要であると考えております。

坪田先生:ファミワンさんが実施している地域や企業におけるセミナーに参加させて頂き、その実際を見せて頂く機会を頂ければ、よりリアルにお取組みの様子や参加者の反応を知ることができ、大変大きな学びになると思います。ただ、実習時間を考えると、現在の実習形態と異なり、学生間のディスカッションが減ってしまいます。とても良いディスカッションができているため、その時間がなくなってしまうのはもったいなく、悩ましいところです。また、不妊に悩まれたり、治療中の方が対象になりますので、学生が実習としてその場に携わらせて頂いたり、何か質問をさせて頂くというのも難しいように思いますので、今の学習方法が実は最適なのではと、現時点ではそのように考えております。実習の組み立て、学生の学びの様子、ファミワンさんとの話し合いなどから、今後さらに良い実習形態を模索することは必要ですが、何よりも対象の方々への配慮を最優先に、またその視点を学生が学べることがとても大切であると考えます。

インタビューは以上です。

坂上先生、坪田先生、貴重なお話をありがとうございました。